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第136話 魔王、世界獣と止めるのじゃ

「リンド様、世界獣が町に近づいているとの事です!」


「なんじゃと!?」


 この厄介な状況で、最も恐れていた事態が発生してしもうた。


「仕方あるまい、わらわ達が世界獣を足止めする。お主達は世界獣の祭壇を探すのじゃ」


「くっ、どうやら文句を言える状況ではなさそうじゃな」


 わらわの指示にクリエも致し方なしと頷く。


『リンド様、この状況で邪神の使徒を連れて行くおつもりですか? 流石に危険なのでは?』


 と、そこにメイアが通信魔法で話しかけて来た。


『うむ、分かっておる。じゃが邪神の使徒を世界獣の祭壇に近づける方が危険な気がするのじゃ。元々こやつ等は世界獣に何かをする為にやって来たようじゃしな』


『確かに。では代わりにメイド隊を陰ながら侍らせておきますので、有事の際はいつでもお命じ下さい』


『うむ』


 メイアとの秘密の話し合いが終わった事で、わらわ達は二手に分かれて行動を開始する。

 メイド隊の誘導を受け、わらわ達はすぐに町に世界獣の姿を確認した。


「さすがにあの巨体は見逃しようが無いのう」


「ですね。しかしそれは町側も同様のようです」


 見れば世界獣が向かう町から、小さなゴマ粒のようなものが出てくるのが見える。

 恐らくは町の警備隊じゃろう。


「しかし世界獣はエルフ達の守護獣、攻撃するつもりでしょうか?」


 確かに、世界獣はエルフ達にとって神聖な存在。

 であればそのような存在を攻撃できるとも思えぬ。


「これが人族であれば自分達にとって神ごとき存在である事も忘れて攻撃しそうなんじゃがな」


 何せ人族は自分達にとって重要な同盟者であった聖獣すら、属性相性が悪いからと酷い扱いをしておったからのう。

 初代聖女に対する義理が無ければ等の昔に見限っておった事じゃろう。


「ふふっ、その通りですね」


 だからこそ、世界の破壊を目論む邪神の使徒達にとっては都合が良いというのも皮肉じゃな。


「ああ、動き出しましたね」


 エルフ達から大きな魔力の動きを感じる。


「流石エルフ、あれ程の人数で大儀式魔法を発動させますか」


 儀式魔法、それは何人もの魔法使い達が協力して、単独で発動させる以上の威力を発揮する魔法術式じゃ。

大儀式魔法はその大人数版というだけじゃ。しかしエルフ達の儀式魔法は普通とは違った。


「大したものじゃな。儀式をする為の下準備をせず、単純な術式だけで魔法と収束させておる」


 そう、儀式魔法とはただ魔力を集めるだけではまともに制御できん。

 それ故魔法陣や祭壇、マジックアイテムなどを使って制御補助をするのじゃが、エルフ達は全てを自分達だけで賄っておった。

 少なくとも今の人族には不可能な芸当じゃな。

 あと脳筋タイプの魔族にも無理じゃ。


 そして大儀式魔法が形を成す。


「巨大な土の蛇?」


 ルオーダの言った通り、大地が大きく動きだし、巨大な蛇の形を作りだしたのじゃ。

 その大きさは彼等が背にしている町よりも大きく、一国の軍隊が相手であっても互角以上に戦えるじゃろう。


「成る程、アレで世界獣の動きを止めようという訳か」


 わらわの予想通り、土の大蛇は世界獣の体をグルリと取り囲んで、その体を締め付けて拘束しようと……


 パタパタ……


「届きませんねぇ」


「届かんのう」


 悲しいかな、エルフ達が生み出した土の大蛇は、世界獣の体を回り切れず、自身の体に絡みつく予定だった尻尾がパタパタと揺れ動くのみじゃった。


「……あー、アイデアは悪くなかったと思うぞ。長さが足りなかっただけで」


「そうですね。いかに魔法に長けたエルフといえど、山脈級の大きさの相手を対処する程のサイズの魔法を発動するにはいささか数が足りなかったようです」


 それでもあれだけの大きさの大蛇を産み出したのは相当なものなのじゃがな。いかんせん相手が悪かった。

 その後、土の大蛇を維持する魔力が失われたのか、エルフ達はあえなく撤退していった。

 そして町の後方から、避難する人々の姿が現れる。


「どうやら逃げる事にしたようですね」


「まぁ妥当な判断じゃな」


「人が居なくなるのなら、放置しても良いのでは?」


「そういう訳にもいかんじゃろ。町が破壊されれば復興にも時間がかかる」


「では貴女にはアレをどうにか出来る手段があると? 失礼ですが、貴女だけでは何十人ものエルフ達が大儀式魔法を発動させた大蛇以上の魔法を操る事は出来ないと思いますが」


「うむ、手はある」


 そう、手はあるのじゃ。


「そう難しい話ではない。相手の特性を考えればの」


「特性?」


 わらわもそうじゃったが、皆世界獣の大きさにばかり目が向いておったのじゃ。


「うむ、世界獣の特性、それは植物であるという事じゃ」


 わらわは魔力を集め、ある魔法を放つ。


「サンライトフロー!」


 直後、周囲の景色が薄暗くなる。

代わりに世界獣の周囲だけが光り輝いてゆく。


「これは……?」


「流光魔法サンライトフロー、周囲の光を指定した場所に流す園芸用の魔法じゃよ」


「園芸!?」


 そう、この魔法はただ光の集まる位置を変えるだけのごくごく単純な魔法じゃ。

 用途は日当たりの悪い場所に植えられた植物に光を与えるただそれだけ。

 ちなみにコンバージェンス(収束)でなくフロー(流れ)なのは収束じゃと光が一か所に集まり過ぎて植物を焼いてしまうからじゃ。


「何でそんな魔法を?」


「それはアレを見れば分かる」


「アレ? ……あっ」


 わらわが指さした先、そこにいる世界獣を見てルオーダが声を上げる。


「世界獣が止まっている?」


 そう、ルオーダの言う通り、世界獣は止まっておった。


「何故です? 何故光を集めただけで世界獣が?」


「簡単じゃ、世界獣が動き出したのは、本来得られる筈じゃった光が足りなかったからじゃ」


「あっ」


 わらわの説明を聞いてルオーダが納得の声を上げる。


「そうでした。世界獣は蓄えた光を子供に与えてくれるダンデライポンを求めていたんでしたね」


「うむ、つまりダンデライポンの代わりになるだけの光量が得られるなら、世界獣は止まるという事じゃ」


 そしてわらわの予想が正しかった事は、この光景からも一目瞭然じゃ。


「ではこれで世界獣の問題は解決ですか?」


「……」


 と言いたいところなんじゃが、本当にそれだけなのかのう……

 まだ何かある気がするのじゃ。

 何しろ、他の世界獣達はあの場から動いておらんかったのじゃから……

 何故この個体だけが動いたのか。


「とはいえ、時間稼ぎにはなっておる筈じゃ。あとはクリエ次第じゃな」

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