第132話 魔王、対策を考えるのじゃ
「「世界獣が増えたぁぁぁぁっ!?」」
世界獣の数を減らそうとしたわらわ達じゃったが、逆に世界獣が増えてしまうと言う想定外の自体となってしまった。
「この巨体がこんな短時間でこんな数に!?」
「不味いのう、これでは下手に攻撃もできんではないか。回復するだけでなく、このペースで増殖までされたら数か月と経たぬ間に世界が埋め尽くされるぞ」
ただ幸いじゃったのは、世界獣はこちらを攻撃してこない事じゃった。
「私達の事など眼中にないという事でしょうか?」
「そもそもこちらの攻撃を攻撃と認識しておらん可能性もあるぞ」
それはそれで好都合じゃがな。
「とはいえどうしたものか。これでは迂闊な足止めも出来ん」
わらわ達の足止めを攻撃と判断されれば、世界獣達は更に数を増やしかねん。
「これは確かに世界を滅ぼすというのも納得じゃ」
何せこの超巨体、下手な攻撃は相手を増殖させてしまうだけじゃ。
しかも山脈クラスの超巨体が増殖すれば、小国ならあっという間に世界獣で埋めつくされてしまう。
大国とてどれだけ耐えられるか。
「ならば大規模な儀式魔法を使って回復する余裕すら与えず焼き尽くしてはいかがでしょうか」
ルオーダの提案にわらわは首を振る。
「儀式魔法を行うには魔法陣を描かなければならん。しかし世界獣を一瞬で焼き尽くす程の魔法陣となると、相当の大きさと精密さが必要になるぞ。当然必要とされる魔力もな」
儀式魔法は複数の魔法使いと魔法の威力と精度をあげる魔法陣を組み合わせて使う個人では運用が困難な大規模な魔法の総称じゃ。
戦場で敵陣を崩壊させる魔法を放ったり、それを阻止する魔法を発動させると言った運用がされる。
ただ、貴重な触媒なども使う為、あまり大規模は儀式魔法は小国程使いたがらぬ。
「それに最初の一度は成功しても後が続かぬ。一度使えば残った世界獣達に警戒されていまうしの」
少なくとも1国の国力ではどうにもなるまい。
「これほどの巨体と脅威度であれば、周辺国の協力を得られるじゃろうが……ドワーフの国がのう」
わらわが懸念している事を口にすると、ルオーダがああと頷く。
「ドワーフの国はエルフの国と本気で殺し合ってますからねぇ」
そうなのじゃ。エルフとドワーフは仲が悪く、それこそ諍いの例え話に使われる程じゃが、その実態は言葉のイメージを遥かに超えた不倶戴天の関係なのじゃ。
それこそ目を合わせたら言葉も無しに戦いはじめ、ヒートアップしたら互いに仲間を呼んで殺し合いに発展するレベルじゃ。
その為エルフとドワーフを同じ場所に連れて来るなと言うのが他種族の間で暗黙の了解となっており、両種族もそれを理解しているのかお互いの領域に近づくことが無いのが不幸中の幸いじゃ。
「事がエルフの国で起きている事ゆえに、ドワーフ達は絶対に協力せんじゃろな」
「ですねぇ」
「世界獣の脅威を回避する為にもドワーフの所有する戦略マジックアイテムの力は借りたいが、その前に間違いなくエルフの国にぶっ放されるじゃろうなぁ」
「間違いありませんね。我々邪神の使徒でもエルフとドワーフの中の悪さを利用した策は定期的に考案されますから。まぁ、両者の戦争が激化して、我々のアジトまで巻き添えで破壊されてもう関わるのは止めた方が良いんじゃないかって言われてますけど。あの両種族お互いを滅ぼす為に世界を破壊しかねない危険な魔法やマジックアイテムを持ち出しますから」
うむ、ドワーフ達なら絶対やる。
世界獣を止める為と言ってエルフの国を諸共焦土にするくらいは連中なら絶対にやる。
まぁエルフも同様の理由でドワーフの国にぶっ放すのは目に見えておるが。
「あと問題なのはエルフにとって世界獣は守護獣とされておる事じゃな。世界獣を傷つける事を受け入れはせんじゃろ」
つまり世界獣がエルフの国の中にいる限り世界獣を殲滅する作戦は不可能という事じゃ。
「こうなるとクリエの世界獣との交信にかけるしかないのう」
期せずしてリュミエの狙い通りになったという事か。
やはり世界獣の情報が無い事が一番のネックじゃなぁ。
「しかたない。一度クリエ達と合流するか」
元々の目的であったカツラ達の事は気になるが、世界獣達の周囲が光を吸収されて何も見えなくなってしまった以上、迂闊に近づく事も出来んしな。
「……む?」
ふとカツラ達が埋まった地上をに視線を向けたわらわは、そこに奇妙なものを見つけた。
「あれは……光?」
世界獣達によって光が失われた地上、そこに小さな、しかし確かな白い色が闇の中に浮かんでおったのじゃ。
「世界獣によって光は吸収されている筈。あれは一体何じゃ?」
「っ! 見てください! 空にも!」
ルオーダの声に空を見れば、世界獣によって光を消された暗黒の空にいくつもの光が浮かんでおった。
「なんじゃ? 何が起きておるのじゃ?」
わらわは魔法で五感を強化し、闇の中の光を見つめる。
するとそこには予想外の存在の姿があった。
暗闇の空に浮いていたのは、光り輝くライオンのぬいぐるみ、いや……
「あれは……ダンデライポンか!?」
そう、わらわも良く知るダンデライポンが光り輝きながら宙を舞っていたのじゃった。




