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第130話 魔王、黒緑が侵略に驚愕するのじゃ

 ルオーダがカツラ達を攻撃しようとしたその時、凄まじい揺れと共に世界獣の群れが目を覚ました。


「周辺の山脈全てが世界獣じゃと!?」


 まさかの展開に流石のわらわも驚きを禁じ得ぬ。

これほどの巨体を持った生物が群れで活動しているなど、食性の問題も考えればあり得ぬ!


「これは不味いぞ!」


 世界獣達が突然目覚めたのは、おそらくルオーダが同族に危害を加えようとしたからに他ならん。

 ということは世界獣達はカツラ達を守る為にわらわ達を襲ってくるじゃろう。

 わらわが攻撃しようとしたわけではないが、巨大過ぎる世界獣に羽虫以下の大きさのわらわ達が判別できるとは思えん。


「急いでこの場を離れねば!」


 わらわが世界獣から距離を取ると、ルオーダも同じように世界獣から離れ……


「ってこっちに来るでないわ! 巻き込まれるじゃろ!」


「つれない事を言わないでくださいよ! 私達は仲間でしょう!」


「そんなもんになった覚えはないわ! あくまでも緊急時の休戦程度じゃ!」


 こやつ、わらわを巻き込もうとしておるな!

 冗談ではない。邪神の使徒と同列扱いで襲われてたまるか!


 わらわはルオーダを引き離すべく、全力で上空に逃げる。


「逃しませんよ!」


 ちっ、腐っても邪神の使徒か、なかなか引きはがせん。


「む?」


 上空に逃げたわらわじゃったが、そこから見えた光景に違和感を覚える。


「待てルオーダ」


「待ちませんよ! 私を置いて逃げようとしてもそうは……」


「世界獣が動かん」


「え?」


 そこに至ってようやくルオーダは世界獣が自分を高下くしてこないことに気付く。


「これは……なんじゃ?」


 世界獣達は、何かをするでなく、横になってゴロゴロしたり、背中を地面にこすりつけたりといった行動をするばかりで、敵意も見せなければ、わらわ達を気にする様子もなかった。


「まるで犬猫の様な光景じゃな」


 その巨大さこそ異様であるが、遠く上空から見る分にはごくごく普通の動物にしかみえん。


「こんな巨大すぎる犬猫が居たら大惨事ですよ」


 まぁそうじゃな。巨大な山脈サイズの生物が犬猫のようにはしゃぎまわったりじゃれついたりしたら、それこそ天変地異以外の何物でもない。


「けれどこれは……どういう事でしょうか?」


 世界獣達からは敵意を感じず、その行動も危険なものには見えん。

 至近距離であればあの何気ないしぐさも危険であろうが、少なくともリュミエが言ったような世界の危機に繋がるとは到底思えなんだ。


「リュミエの話では世界を滅ぼす危険な存在という事じゃったが……」


「宰相のハッタリだったということですか?」


 いや、それはありえん。わらわはリュミエの事を昔から知っておるが、アレはつまらん嘘はつかん。


「それはないな。あ奴があるといった以上、世界獣には何かしら危険な部分がある。それも致命的にな」


 じゃがあの様子では、攻撃的な生物には見えんのじゃよなぁ。

 よくよく考えると最初に遭遇した世界獣もそうであった。

 歩き回るだけで、何かを壊したり襲ったりする場面を見ておらん。


「では何が世界を滅ぼす要因となるのじゃ?」


「「「「……」」」」


 その時じゃった。世界獣立が突然動きを止めたのじゃ。


「なんじゃ?」


 そのただならぬ様子にわらわ達は警戒する。

 すると世界獣達は量の腕を大きく広げる。

 しかしそれで動きは止まってしまった。


「これは……何かの儀式でしょうか?」


「分からぬ」


 なんじゃ? 何かするかと思ったら微動だにしないではないか。

 腕を広げて何がしたかったのじゃ?

 周囲を見回しても何もおかしなところはない。

 せいぜいが世界獣の下の大地は巨大な腕によって大きな影が出来ているくらいじゃ。

 何体もの巨体によって光を遮られた事で、分厚い雨雲の下に居るかのような光景じゃな。


「いや、光? もしや……」


 その光景を見たわらわは、ある考えに思い至る。


「何か分かったのですか?」


「恐らくじゃが、光合成をおこなっておるのではないか?」


「光合成!?」


 光合成、それは木々が太陽の光を得て酸素やデンプンを生みだす仕組みのことじゃ。

 しかし魔物植物の場合は、魔力の効率的な蓄積や毒の生成精製を行うものもおる。


「おそらくは世界獣も光合成をおこなって自らに有益なものを生み出しておるのじゃろう」


「それは、本当に普通の植物のようですね」


 うむ。光合成をおこなうという事は、世界獣達の食事は水と光が主という事じゃろう。


「少なくとも、人や魔物をバリバリと食べるような生態でないと分かったのは朗報じゃの」


これは思ったより危険ではないのか? そうわらわ達が安心しかけた時じゃった。

 バキバキバキバキッ!!


「な、なんじゃぁぁぁぁ!」


 突然激しい音と共に、世界獣達の体から太く長い枝が伸び始めたのじゃ。


「こ、これも光合成なのですか!?」


「おそらくはそうじゃ!」


 世界獣から伸びた枝は雲を超え、周囲の空を覆い、辺りはまるで日暮れ前の空のように光が遮られてしまったのじゃ。


「これは流石に迷惑じゃな。昼が夜のようになってしまったら、他の生き物の生活が滅茶苦茶になってしまうぞ」


 なるほど、リュミエが危険な存在だと言っていたのも納得じゃ。

 他の種族だけでなく、自身に近しい植物達すらまともに育てなくしてしまうとはな。

 世界獣が世に広がれば、世界樹が夜になってしまう。

 そしてどんどん世界獣が成長して僅かな光も通さなくなってしまえば、世界は常夜の国となってしまうじゃろう。


「やれやれ、地味に迷惑じゃな。クリエの交信が間に合わんようなら、力づくで燃やすことも考慮せねばならんな」


 これほどの巨大ではあるが、本質的には種植物じゃ。

 わらわ達が極大火炎魔法を放って燃やしていけば、時間はかかるが倒せることじゃろう。


「ヴォォォォォォッ」


 けれど、世界獣達の動きはそれで終わりではなかった。


「む? なんじゃ?」


 日暮れ前のようだった周囲の光が、急速に失われていくのを感じる。


「よもや世界獣の葉の密度が増しておるのか?」


「いえ違います! 世界獣の体を見てください!」


 ルオーダに言葉に世界獣を見れば、そこには奇妙な光景が広がっておった。


「なんじゃあれは!? 世界が世界獣に吸い込まれてゆく?」


 わらわ達が見たのは、世界獣の体に周辺の景色が吸い込まれるという異様な光景であった。

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