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008 僅かな時だけ顔を見せる光景

 一方島の中腹。山の中にやってきているカップルの二人は妙なものを発見していた。それは洞窟だ。


 奥の方から風が通ることによって生じる唸り声のような音が響いてきている。


 洞窟の入り口部分は岩肌が露出しており、僅かに湿っているのか苔が生えている部分も見られた。


 ただ、本来洞窟の奥は暗いはずなのだが、奥の方からわずかに青い光が入り口近くまで届いてきているのだ。


「洞窟。たぶん誰も来ないよな?」


「うっわ、何ここですんの?暗すぎると怖いんだけど」


「いや、なんか奥の方光ってね?ちょっと行ってみようぜ」


「なんでテンション上がってんの?洞窟とか入って怪我したら馬鹿らしくない?」


「足元気を付けてれば大丈夫だって。ほら、割と光来てるぜ?」


 少し奥に入ると、確かに暗くなってはいるが足元は割とよく見える。表から入ってくる光に加えて、奥の方からやはり青い光が届いているのだ。


 僅かに湿った岩肌がその光を反射しているのだとわかる。風が勢い良く通る度に、湿った風が二人の肌を撫でる。


 人が二人並んでも十分に余裕を持って歩けるほどにその洞窟は広く、奥から届く光がより明確にわかるほどに岩肌は湿り気を帯びていた。


「向こう側に通じてんのかな?」


「さぁ?でもスタッフはこんな洞窟の事言ってなかっただろ?なんていうか、不親切だな」


「変なところに行って怪我されるのも嫌じゃん?そういう意味でも隠してるんじゃない?っとと……湿ってるから滑るじゃん」


「ここじゃちょっと危ないな。ん?光が強くなってきたな」


 ほんの少し洞窟に足を踏み入れ、大きな弧を描くように奥に続く洞窟を進むと、奥から届く光はどんどん強くなっていく。


 どういうわけか奥の方に光源があるのだと理解した二人は、時折吹く風を感じながら洞窟のさらに奥へと進んでいく。


 岩肌の洞窟は、時折段差が存在しており、奥からの光が僅かに湿った岩壁で反射していなければ足を踏み外してしまうだろう。


 だが、不自然なほどに明るい洞窟内は、二人にとってそこまで苦労するような道のりでもなかった。


 時間にすれば、十分も進んでいないだろう。大きく弧を描き、途中高低差のある段差をいくつも超えたせいで、洞窟がどこに続いているのか、今どのあたりにいるのかも全くわからなかった。


 そうして進み、光がどんどん強くなっていく中、二人の目の前に、ここが本当に現実かどうかを疑うような光景が広がっていた。


 一面、洞窟の中が真っ青に染まっているのだ。


 雨水だろうか、それとも地下水だろうか、あるいは海水か、洞窟の一角に大きな池ができており、その池の底から強い光が差し込んでいるのだ。


 水の底から入り込む光によって、水が輝くように洞窟の中を照らし、青く輝いて見えるのである。


 一体どういう構造だろうか。洞窟の凹凸のせいで今どのあたりにいるのか詳しく判別こそできないが、おそらくこの洞窟のどこかが外に繋がっているのだろう。そして太陽の光が水を経由して洞窟に入り込み、洞窟内を照らしているのだ。


「……綺麗……」


「すごいな。やっべー携帯!あ、しまったよ、カバンの中に忘れてきた。持ってくればよかった!これすげーいい景色じゃん」


 揺らめく水面から放たれる光が、洞窟内に不規則な光の膜を作り出している。僅かに明滅しているかのようにすら見えるその光のおかげか、洞窟内の一角には苔のようなものも生えていた。


 通り抜ける風がさらに水面を刺激し、青い光の波を更に細かくしていく。


 洞窟はさらに奥まで伸びているのだろう。いったいどこまで続いているのか気にもなったが、二人はこの場所から離れようとは思えなかった。


 圧倒的な光景を前にすると、人はそれ以外に目を向けられなくなる。それは恋人解いても同じことだった。互いに手を握り、目の前に広がる青い光景から目を離すことができなくなっていた。


 だが、不意にその光が弱まっていくのを二人は感じていた。


「あれ?光弱くなってない?」


「ほんとだ。あれだな、たぶん太陽の位置が変わって光が入らなく……やばい!早くここから出るぞ!」


「え?なんで?もうちょっと見てようよ」


「バカ!光がなかったら真っ暗になるぞ!出られなくなる!」


「…………ヤバ!早く行こう!あー!カメラ持ってこなかったのマジで失敗!」


「明日もこの時間だったら見られるかもな。今何時?」


「わかんないし。でもお昼前じゃない?お腹空いてきたし」


「よっし、明日も来てみようぜ。ただあれだな、非常に申し訳ないけど、あれ見ちゃったらなんかこう、ムラムラした気持ちは一切なくなっちゃったな」


「はぁ!?あたしが魅力的じゃないっての!?今度はお経ラップしてないんですけど!?」


「お経ラップはもういいっての!ってかやばい!どんどん暗くなってる!」


「薄暗い……ちょっといい雰囲気じゃない?」


「出られなくなってもいいのか!おバカ!早く出るぞ!」


「早いのは嫌われるし!もうちょっと我慢をしてもいいんじゃないの?」


「誰が早漏だ!お前今度覚えてろよ!」


「やっば!めっちゃ暗くなってきてるし!」


 カップルはこの状況がまずいのを自覚して喚きながら洞窟から脱出しようと駆け足で出口へと向かっていた。


 幸いにも、彼らは完全に洞窟が暗くなる前に外から光が届く場所に到達でき、無事に洞窟から脱出することができていた。


「いやー。マジでやばかったわ。でもめっちゃ綺麗だったんだよ。本当に!」


「そうそう!洞窟の中にめっちゃ綺麗な池があってね!滅茶苦茶青く光ってたの!カメラ持ってけば良かったし」


 カップル二人は一度ベースキャンプに戻り、昼食をとりながらその話を他の参加者に話していた。


 二人だけが見たその光景を、自慢したかった、というわけでもないのだがとにかく誰かに話したかったのである。


 話を聞いているのは動画投稿者メンバーと、鯖井の六人だ。興味深そうに聞いているのは動画投稿者メンバーである。動画のネタにできないかと考えているのだろう。


「たぶんですけど、海水が流れ込んでいる場所から太陽の光が入っていたんでしょうね。岩の形が絶妙に太陽光を洞窟の中に届けていたということでしょう。それは良いものを見ましたね。おそらくは特定の時間限定でしょう。もしかしたら時間帯によっては光の色も変わるかもしれませんね」


「そうっすね。実際俺らが出る直前で光がどんどん弱まっていってたし。あれは見て損なしって感じだった」


「やばかったよね。せっかく二人きりだったのにずっと黙ってそれ見てたもん。あれもし夕焼けの赤とかになったらやばくない?めっちゃ綺麗じゃない?」


「いやマジで。でもあんなのあるんすね。俺あぁいう洞窟ほとんど入ったことなかったから知らなかったっすけど」


「そう言う光の変化というものは、自然界ではままありますが、それでもなかなか稀有な礼であることに変わりはありません。自然が作り出した芸術という奴ですね。お二人は本当に運が良かったのでしょう」


「すごいですね、俺らもこれから行ってみるか。ライトとカメラ持って。どのあたりでした?」


「えっと、山に入って、川を上っていくと池があるんだよね。その池から少し……どっちだっけ?少し歩くと見つけたよ」


「池を中心に歩いて探せば見つかると思うぜ。写真撮ってこられたら俺らにも共有してくれ。本当にもったいないことした」


「いいっすよ。いい情報手に入れられたお礼っす。動画も写真も撮ってくる予定なんで。よっしゃお前ら!飯食ったら早速行くぞ!」


「うぃー。じゃあライトと……あ、洞窟ってどんな感じでした?」


「岩がごろごろしてたな。結構湿ってたから、転んだら痛かったと思うぞ?俺らの時は明るかったけど」


「今はまだ暗いかもだし。気を付けたほうがいいよ」


「んじゃ長袖とかに着替えて、手袋と、それに無線も複数持っていくぞ。念のためだ」


「オッケー」


 外での活動では長袖長ズボンというのは小さな傷を作らないためには必要な服装だ。


 手袋、軍手のようなものもあって損はない。足元が不安定な場所ではなおの事。こういった野外活動で傷を作るというのは面倒なものだと、経験の少ない彼らも理解していた。


「そういや途中で池があるんすよね?その池はどんな感じでした?」


 カップルの二人は互いに視線を合わせてから思い出すように目をつぶる。


「いや。普通に水たまりって感じ。たぶん深いのかな?水の底は見えなかったな」


「魚とかもいそうだったよ。釣りをするのもありかもね。周りは木がめっちゃあって……あ、虫はそれなりにいたかも」


 思い出して伝えられた情報から察するに、湧き水が出ている場所でもあるのか、それなりの深さの池であるらしい。


 せっかくなのだからそのあたりを散策するのもありだろうと、配信者チームは予定を組み始めていた。


「よし、じゃあ山の中を探検って感じで行くか。川の上流にあるという伝説の洞窟を目指して!みたいな感じで」


「伝説って何のだよ。いつからある伝説?」


「二分前にとあるカップルから聞いた伝説」


「それもはや噂レベルなんだわ。よく伝説何てことば恥ずかしげもなく使えたな」


「いいんだよ!それを見ることができたカップルは仲睦まじくなれるんだよ!そういう伝説にすりゃいいんだよ!」


「その伝説を追う俺ら全員男っていう欠点を見つけてくれ。俺男色の毛はねえんだわ」


「なんでも伝説ってつけておけばそれっぽくなんだろ!とにかく準備しろオラァ!」


「すいませんね、騒がしくて」


「いえいえ、楽しそうで何よりです。そういう盛り上がりは若い時にしかできませんからね」


「そう言ってくれるとありがたいっす。おいお前ら釣り竿ももっていくぞ!なんもなかった場合池で釣りして時間潰すからな!」


 身もふたもないと思われるかもしれないが、こういう時間つぶしが案外アウトドアでは必要だ。


 何せやることなどほとんどないのだ。だれでも自由に、何でもできる。できないのは文明の利器を使ったことだけだ。


 電波が届かないせいでネットサーフィンもできやしない。そのため自分で動いて活動するしかないのである。


 釣りなどは時間を潰すには最適だ。先日魚を取ってきた人物がいたのだから釣れることは間違いない。


 仮に洞窟で大した成果が得られなくとも、得られるものはあるだろうと全員が考えていた。


 昼食を食べ終え英気は十分。


 彼らは意気揚々と川の上流を目指して移動を始めることにしていた。


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