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003 にぎやか要員動画配信者たち

「いやマジテントってどうやって作るんだ?ドーム型ってお願いしたけどさ……説明書見てもわからん」


 動画投稿者五名は渡されたテント二つを作ろうとあぁでもないこうでもないと説明書を読みながら四苦八苦していた。


 テントを立てて宿泊する組は、テントが設営できるだけの平地がある場所を案内されていた。


 この辺り一帯はしっかりと整地してあるらしく、テントを立て、なおかつ別のものを置けるだけの十分な空間がそれぞれ、合計で五カ所以上用意してある。


 その一角にテントをいざ建てようとしているのだが、テントの組み立て方がわかっていない三人はそれぞれ意見を言い合って上手くいっていない様子である。


「骨組みあるからこれを立てるんだろ?」


「え?立てるの?説明書だと曲げるってなってるぞ?」


「いや、曲げたらダメだろ?曲がるのこれ?」


 それぞれが道具と部品を持っているが、こうではないかという意見がそれぞれ違っており、非常にもったいない時間が続いている。


 さすがに見ていられなくなった司会役の人間がしびれを切らして口を出していた。


「おいおい君らいい大人の男三人集まってテントも立てられないの?恥ずかしいと思わないの?」


「うるせえよ!ってかお前マジで手伝わねえのな!片方はお前らが使うんだろ!?」


「使うけど君らに作ってもらいますよ?今回は君らのための罰ゲームなんだから当然じゃないですか」


「むかつく!あいつむかつく!あとで一発殴りたい!」


「腹立てんのは後にしろ!さっさと立てないと荷物もしまえないぞ!」


 わいわいとテントを立てようと四苦八苦している中、近くですでにテントを立て終えた鯖井が見るに見かねてやってきていた。


「大丈夫ですか?もし必要ならお手伝いしますが」


「さ、鯖井さん。いいんですか?もしよかったらこの使えない三人に教えてやってくださいよ」


「使えねえのはお前も同じだろうが!すいません鯖井さん!お願いします」


「えーそれでは使えない三人にご指導していただきますのは、今回無人島ツアーでご一緒します、アウトドアが趣味の鯖井さんです。あ、名前とか顔出しがダメでしたら後で編集しますんで」


「大丈夫ですよ。えー、アウトドアが趣味の一般中年の鯖井と申します。よろしくお願いします。それではまず骨組みと本体を……」


 鯖井の指示によって先ほどまでのもたもたした時間が嘘のようにてきぱきとテントを立てていく。


 同じものを先程設営したからか、鯖井の指示は非常にわかりやすく、実際に作業している三人はあっという間に、実際の時間は十分程度でテントを一つたてることができていた。


「おー……こういう風に立てるのか」


「んじゃ君らはそっちでもう一個テント立ててよ。こっちはフライシートやるから。鯖井さん、フライシートのやり方教えていただいてもいいですか?」


「構いませんよ。この辺りは木もありますからそれにロープを縛りましょう。縛るときは木を痛めないように新聞紙か麻布を木に巻くといいですね。全て均等にするのではなく、一カ所意図的に低く結ぶのがポイントです」


「よっし。んじゃ君ら頑張って。こっちは食事とかのスペース確保するから」


「お、なんだ、司会者が仕事し始めたぞ?」


「いやもう二つ目だったら同じ絵を二度も映す必要ないからこっちの映像取っておくの」


「おいあいつやっぱり殴ろうぜ!あいつらのテント作るのやめようぜ!」


「やめてもいいけどそしたら俺らロッジに泊まれるようお願いしてくるだけだぞ」


「マジであいつ殴りたいんだけど!クソが!絶対今度酷い目に遭わせてやる!」


 そう言いながらも三人はそれぞれ教わったようにテントを設営していく。さすがに二つ目ということもあってやることがはっきりしているためか、作るのはだいぶ早くなっている。


「いやぁ、君達は仲がいいね。五人とも動画投稿?をしてるんだっけ?」


「えぇ、趣味みたいなもんです。高校からの付き合いで。あ、今は大学生です」


「大学生か。そりゃ楽しい時期だよね。聞いてた限りだと、何かの罰ゲーム?みたいなことを言ってたけど」


「はい。別の動画で、俺らとは別グループの動画投稿者と対決して、負けたんで、その罰ゲームって感じで。でもこうしてると結構楽しいっすよ」


「うん、楽しんでくれるとこちらとしてもうれしいかな。よし、これでフライシートはオッケーだよ。夜になって活動終了するタイミングで少しロープを緩めておくんだ。また必要になったら声をかけてくれれば手伝うよ」


「ありがとうございます!ご協力いただいたスペシャルアドバイザーの鯖井さんでした」


「あはは、そんなに映さなくてもいいよ」


 鯖井は申し訳なさそうに、だが少しうれしそうに小さく会釈をして自分のスペースに向かっていった。


 まだ日も高く、ここから昼食の準備などをし始めるのかもわからない。


「そう言えば、さっきのオールバックの……ま……ま……名前が出てこない……あのグラサンの人はいないみたいだな?テントも張ってないし……」


「あぁ、そういえばそうだな?どこに行ったんだろ?泳ぎに行ったとかかな?」


 今回テントでの宿泊は動画投稿者グループ、鯖井、そして万里小路という怪しい人物の三組だったはずなのだが、この辺りに張ってあるテントは三つ。動画投稿者グループで二つ、鯖井が一つだけだ。


 まだ夜まではだいぶ時間がある。現時点でもうすぐ昼になろうというあたりの時間帯だ。


 夕方になる前にテントを立てられれば問題なく夜は過ごせるだろう。


 とはいえこの場からすでにいなくなっているのが奇妙だった。


「まぁ、言っちゃ悪いけどさ、ちょっと関わらないほうがいい感じの人だったじゃん?良かったんじゃないの?」


「丁寧な人だったけどな。まぁいいか。とりあえず昼飯の準備しよう」


「オラァ!終わったぞ!お前らの荷物も運べよ!」


「お、お疲れ。じゃあ完成図の映像だけ撮っておこうか。はい並んで並んで。ポーズもとって」


「あれ?鯖井さんは?」


「もう自分のスペースに帰ったよ。いや鯖井さんめっちゃいい人」


「完成図のところに入ってもらうとかお願いすればよかったのによ。せっかく手伝ってもらったのにちょっと失礼じゃね?」


「いや、あの人趣味で来てるんだからさ、あんまり関わらせたらそっちの方が迷惑だろ。あくまでこれは俺らの企画。スペシャルアドバイザーとしてまたお願いすることがあったら、そこは酒でも提供しよう」


「あ、あの酒ここで使うのかよ。っていうか腹減った。飯は?」


「何言ってんの。君らは自炊だよ。ほら取り扱ってる食材のリストはさっきスタッフさんから貰ったからこの中で好きなもの作りなさい」


「マジで言ってんの!?え?マジで言ってんの!?」


「おいいいから並んでポーズとれって。こっちも飯にしたいんだからさ」


 カメラを構えたままのメンバーが悪態をつくと、三人は渋々二つ並べて設営したテントの前でポーズをとる。


「テント設営完了しました!イエェェェェイイ!」


「…………はいオッケー。じゃあ飯にするか」


「いや待って、さっきの話マジで言ってる?」


「なにさ。山と海に行って食材取ってこいでもいいぞ?釣り竿と銛のレンタルはしてるらしいから。でもそういうのは明日以降やってほしいんだよな。二日目あたりから絵面が地味になってくるだろうからさ。危険なのは二日目三日目あたりにお願いしたい」


「初日に怪我とかされると後半の撮影にも支障が出るからな。今日は平和に海に行って貝殻でも探してくる程度でいいと思う」


「マジでこいつら人を人と思ってねえよ。怪我したらどうすると思ってんだ」


「まぁまぁ、とりあえずじゃあ昼にしよう。とはいえ……えっと食材は……あ、案外いろいろあるんだ」


「まずは楽なのにしようぜ。肉とかも一応あるんだな。焼くだけでオッケーのバーベキューとかにするか!」


「じゃあ火を用意しないとな。火をつける道具は……」


 彼らが持ってきているのはライターだけ。もちろん道具はレンタルされているが、火付けというのは案外難しいものなのである。


 その後、火をつける段階でも鯖井の力を借りる彼らはその日の昼食を鯖井にご馳走することで手を打っていた。


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