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002 無人島キャンプ開始

 島が視界に入ってから少しして、無人島キャンプツアーの客を乗せた船は目的地の無人島にやってきていた。


 無人島にしては整備された港、というより桟橋だろう。その場所に向けて乗ってきた中型の船から小型のゴムボートに乗り換えて向かうことになる。


 先ほどまで乗っていた船よりも波の影響を大きく受け、何より海がかなり身近に感じられるそのゴムボートに乗り込むと、それぞれの客は海面に手を伸ばしたりして楽しんでいた。


 ボートから見える海は透明度が高く、しかもそれなりに浅いために海の底まではっきりみえる。この段階でも深さは三メートルあるかないか程度の深さしかない。


 そのためこの辺りを住処としている魚たちの姿をボートの上からでもしっかりと視認することができていた。


 僅かに青みがかった海水と、その中を泳ぐいくつもの魚の影。そして波が立つたびに海面が光を反射し、屈折させて海中をより美しく彩っている。


「うっは!めっちゃ冷たい!きもちー!」


「やっば、めっちゃ綺麗じゃん。あとで泳ごうぜ」


「水着もう着ておけばよかったかも。すぐ泳ごうよ」


 カップルが分かりやすくはしゃいでいる反対側では、家族連れの四人が海面を見ながらはしゃいでいる。


「わー!おさかなさん!いっぱいいる!」


「お父さん!あれなんて魚?食べられる?」


「ほら、危ないから乗り出さないの。あとで泳ぎましょうね」


「っと。しっかり捕まってなさい」


 体をボートの縁に乗り出しながら海面を眺める子供をしっかりと掴みながら、良心は心配そうに、だが楽しそうにしている。


 子供は海面の向こう側にいる魚や、海底にある海藻やイソギンチャクなど、色とりどりの存在に目を輝かせていた。


「やべー。普通に良いところじゃん。これサバイバルは置いておいて、とりあえず遊んでもいいんじゃねえの?そのほうが再生数伸びる気がする」


「ダメダメ、君らはちゃんとサバイバルしてください。君たちの分まで僕らが遊んでるから」


「だからなんでお前は遊ぶ前提なんだっての。お前もサバイバルやんだよ」


「っと!思ったより揺れる!機材押さえとけ。あとカメラ、もうしまったほうがいいぞ。結構飛沫が飛ぶ!」


 ボートは先ほどの船よりも大きく波の影響を受けるうえに、海面までの距離が近いせいでちょっとした波を越えた衝撃でも大きく飛沫が立ち、船の上の全員に襲い掛かる。


 空中を舞う飛沫が光に照らされて美しく輝いて見えるのだが、動画投稿者からすればその光景に感動するよりも機材に海水がかからないようにするほうがよほど重要だった。


「えー!皆さん、これから島に到着しましたら、皆さんの荷物をベースキャンプの方に運んでいただきます。それからベースキャンプのご説明をさせていただきますので、泳いだりするのはその後にお願いいたします!それではもう間もなくで到着ですので、座ってお待ちください!」


 ボートの操作をしている人間とは別に、今回の無人島キャンプを運営している会社のスタッフが全員に聞こえるように大きな声で全員に通告する。


 あまりにも遊ぶということに傾倒している全員の意識は、とりあえずベースキャンプで説明を受けてからという話に遮られていた。


 とはいえ遊びたいがこれから三泊四日の基本がわからないのであればどうしようもない。ツアーとはいえ命にかかわる部分もあるだろう。ここは真面目になったほうが良さそうであると、全員が理解しているようだった。


「皆さんの大きな荷物はもうすでに桟橋の方に運ばせていただきましたので、そこからは皆さん個人で荷物を運んでいただきますようお願いいたします!それと降りる際は、一人ずつ順番にお願いいたします!……っと、到着しましたね。それでは前の方から一人ずつ降りてください!」


 桟橋、というよりは小さな港だ。コンクリートで固められた港は小さな船だけを入稿させるためだけに作られたような、コンクリートで浜辺にコの字を描くように作られただけの小さなものだ。高さも高い部分と低い部分の両方を作っているが、それでも小型の漁船程度の船しかこの港につけることはできないだろう。


 スタッフがロープを持って軽快な動きでボートから降りると、ロープを港の一角に手際よく結び付けていく。そして戦闘にいる子供たちを降ろすために手を伸ばしていた。


 港の一角には先ほど言っていたようにこのツアーの参加者の大きな荷物が既に運ばれている。おそらく人よりも先に荷物をスタッフで運んだのだろう。


 ボートで一緒に乗ってきたスタッフ以外に三名のスタッフらしき『YY』の文字の入ったキャップをかぶっている人物がいる。


 全員が降りたところで、スタッフが名簿を取り出し人数確認を行う。


「えー、それでは最後に人数とお名前の確認をさせていただきます。グループ代表者の方は人数がそろっているかのご確認をお願いいたします。まずは小暮様。四名」


「はい、全員います」


 小暮と呼ばれたのは家族で来ている一家だった。子供たちは港から今にも島の方に駆け出しそうなのを必死に止められている。元気な子供は少しでもじっとしていられないのだろう。はしゃぎたい子供たちにとっては少し辛い時間かもわからなかった。


「では続きまして。阿部様。二名」


「うっす、いまーす」


「いまーす」


 阿部と呼ばれたのは船でもずっと一緒にいたカップルだ。二人で顔を合わせてピースしながらいちゃついている。


「続きまして鯖井様。一名」


「はい。大丈夫です」


 鯖井と呼ばれたのは、船でアウトドアベテランの風格を醸し出していた男性だ。落ち着いた様子で、持ってきている荷物を抱え、無人島の周辺を観察している。


「続きまして葛飾様。五名」


「はい、五名います」


 葛飾と呼ばれたのは動画投稿者の一団で司会役をしていた青年だ。カメラ約一名、司会約一名、参加者三名という少人数での撮影を行うようで、全員で運び込まれた機材の確認を行っている。


「最後に、万里小路様。一名」


「はい。大丈夫です」


 万里小路と呼ばれた、オールバックにサングラスの男性は落ち着いた様子で手を挙げる。本当にそれ本名だったのかと、船の中で自己紹介を終えていた数人、特に動画投稿者グループは軽く驚きの表情を作っていた。


 人の苗字をとやかく言うのはどうかと思うものの、どうしても本当に本名なのかどうか怪しんでしまうのは無理からぬところだろう。


「それでは皆様そろいましたので、これからベースキャンプの方に向かいたいと思います。忘れ物だけないようにお気を付けください!」


 スタッフの誘導に従って移動を始める一同。ここから無人島で三泊四日過ごすことになる。

 天候は今のところ安定する予報となっている。


 少なくとも雨や嵐などは一切こないであろうという予報だった。


 港部分から出ると、砂浜部分をほんのわずかに経由してすぐに島の内陸部へと向かうようだった。


 舗装されていないが、しっかりと山道に近い道自体は存在しており、ここが管理されているキャンプ場なのだということを再認識させられる。


「足元気を付けてください。ここから少し登ります」


 時折段差などがある山道を進んで五分ほどすると、そこには木々に囲まれた平地が存在していた。


 そこには木製のロッジが三つ。そしてテントを張るためのスペースがいくつか存在している。


 資材置き場なのであろう建屋も存在しており、火を起こすためのファイヤーピットも存在していた。


 無人島というよりは、本当にキャンプ地といった様相である。


「お疲れ様です!それでは荷物を置いていただいて、これよりご説明をさせていただきます。十分ほどお時間をいただきますのでしっかり聞いていただきたいです」


 スタッフは何人かで道具を持ってくると、全員の前にそれらを広げて見せてくれる。


 そこにはテント、フライシート、そしてそれらを設営するための工具などが置かれていく。


 そして火を起こすための道具や、薪や炭なども置かれて行く中で、いくつか妙に近代的なものが目に入る。

 それは小型の発電機と無線機だった。


「えー、今回ロッジでのご予約は、小暮様と阿部様のグループ。テントでのご予約は鯖井様と葛飾様、万里小路様のグループとなっております。それぞれの鍵と、必要になる点と用具などをこちらからお貸しいたしますので、後ほど確認をお願いいたします」


 ロッジで宿泊する組と、テントを張って宿泊する組が分かれているということらしく、それぞれが用意されるものは別々になっている。


「このキャンプ場では火を起こす場所、ないし道具は決めさせていただきます。山火事などを防ぐために、その場所と道具以外での火の取り扱いは厳禁とさせていただきます。あちらにあるレンガ積みのファイヤーピットか、こちらでご用意させていただいておりますグリルの方を使っていただきたいと思います。決して地面に直接焚き木をするようなことはしないでください。グリルの方を使用する際は、ここに駐在するスタッフに一声かけて確認していただくか、予め指定した場所でお願いいたします」


 用意されているのは鉄で作られているグリル、所謂焚き木台だ。そこで火を焚き、その上に料理用の金網や鉄板などを敷いて料理をする場所である。


 スタッフが視線で示す先には、レンガで作られた調理場もある。この辺りは使い古されてはいるが、構造が簡単であるためにそう簡単に壊れることはなさそうである。


 とにかく火に関しては注意が必要であるということだろう。この無人島で山火事などになったら確かに被害は大きくなってしまう。


「薪や炭などはスタッフに声をかけていただければ提供させていただきます。無人島にある木々を使っていただいても構いませんが、可能な限り生きている木を傷つけることはないようにお願いいたします。また、発電機もありますので、もし充電などをしたい方はスタッフにお声がけください。三名のスタッフが三泊四日、こちらに駐在いたします。他にも釣り用具や食材などもご用意していますので予めご予約いただいた方や、またはそうでない方も必要に応じてご対応させていただきます」


 無人島でのキャンプではあるが、企業として行っているツアーである以上安全面からスタッフは必ず駐在するようだった。


 人数によって増えるかどうかはさておき、三名がこの場所に一緒にキャンプ生活を送るのだろう。帽子を取ってよろしくお願いしますと全員が声を出していた。


 予め食材や細かな道具を予約しているツアー客もいるらしく、その辺りは融通を聞かせられるように余裕を持っているのだろう。


 もちろん商売である以上、金はとられるだろうが、それもまた必要なことだと全員が理解している。


「さてでは皆さんそろそろ遊びたいとは思いますが最後に一つだけ。この無人島は浜辺、岩場、山や川や池、洞窟などもあります。皆さんの行動を制限することはありませんが、お出かけになる際、グループの方で最低二つずつ、無線機を所持していただきたいです。おひとりの方は一つで構いませんが、万が一怪我をした、あるいは動けなくなった、などが起きた際にすぐに無線を使ってスタッフに連絡を取ってください。バッテリーの充電などは常に行うように心がけてください。この無線は防水ですが海に行く際は念のためパッケージしていただくようにお願いいたします」


 無人島の中での行動を制限することはしないが、安全面上、自由に行動して怪我などをして動けなくなった際の対応として無線機を用意しているらしい。


 妙に数が多いのはそういうことなのだろう。グループで最低二つというのは、無線を持っている人物が怪我をしたり、壊した時のケアのためだと理解できる。


 少々面倒に思われるかもしれないが、万が一何かが起きた時に助けを呼ぶという意味でも必要であるため、全員がうなずいていた。


「では、もう皆さん遊びたくて仕方がないようなので」


 そう言いながら説明をしていたスタッフが子供の方を見ると、もうすでに服を脱ぎ始め、水着になろうとしているところだった。


 子供たちの両親が必死に止めて、申し訳なさそうにしているのが印象的である。


「ご説明はここまでとさせていただきます。もしご不明点などありましたら駐在のスタッフにお願いいたします。私は船に戻り、皆様とまたお会いするのは三日後となりますので、どうぞお楽しみください!」


 説明を終えると同時に子供たちが走り出す。だがそれを即座に捕まえてまずは無線機の準備や荷物をロッジに運び込むなど、小暮夫婦は大変そうだった。


 こうして三泊四日の無人島キャンプツアーが開始されることとなる。


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