<第8話 極貧?冒険者生活>
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地下水道での一件を片付けた俺達は、ギルドのクエスト窓口まで戻ってきていた。
「おや、お疲れ様です。どうやら、無事にクエストを完了なされたみたいですね」
依頼を受注した際に対応してくれた女性職員が、俺達へそんな声を掛ける。
更に、初めての依頼はどうでしたか、と続ける職員。
「いや、大変でしたよ。まさかあんな巨大なスライムがいるとは……」
「巨大なスライム……?」
「ええ、証拠と言っても、残った核だけしかありませんが……」
俺は、肩にかけている鞄から、仕舞ってあったスライムの核を取り出す。
机の上に鎮座したそれは、未だにスライムの高い生命力を秘めているようにも見える。
そして、それを見た職員は、驚いたように目を見開く。
「まさか、こんなに大きな!?核がこの大きさ、一体、本体はどれ程の……!?」
職員は、核を手に取ると、値踏みするように眺め始める。
「……ちなみに、どのくらいの大きさでしたでしょうか?」
「ええと、地下水路を完全に塞ぐ位の大きさでしたね」
「あの地下水路を!?そんな巨大スライム、一体どうやって……!?」
「あ、私が【火球】で消し飛ばしました」
「【火球】!?初級魔法ですよね……?ちょっと、時間を下さい」
そう言うと、受付嬢は大きく深呼吸をした。
そして、さらに言葉を続ける。
「倒したスライムの大きさと言い、その倒し方と言い規格外すぎますね……。今回、何事も無かったのは幸いですが、こちらに不手際があったのも事実です」
「不手際……と言うと、やはりあのスライムは俺達が倒せるレベルじゃなかったと?」
「はい、その通りです。通常、この大きさのスライムが討伐対象であれば、中級魔法を使える冒険者への依頼になっていたでしょう。なにせ、初級魔法では殆ど無効化してしまうでしょうから……」
やはり、あのスライムは俺達のランクで倒せるレベルのものでは無かったらしい。
それを、真帆は初級魔法で消し飛ばしてしまうのだから、末恐ろしいと言うものである。
「スライムがお大きくなるのって、よくあることなんですか?」
真帆がそう尋ねる。
「いえ、無い訳では無いですが、やはり稀なことですね。数年に1度、討伐を免れていたスライムが、地下奥深くで水路の水を吸収して巨大化する、などと言われていますが……」
「……なるほど。ちなみに、通常とは違うスライムを討伐したことで、追加報酬なんかは貰えるんでしょうか?」
通常であれば、魔法さえ使えれば誰でも倒すことができるスライムではあるが、今回に関しては中級魔法が使えなければ、普通は討伐不可能な個体だった。
つまりは、依頼の難易度もそれに応じて上がっている筈だろう。
そうであれば、報酬が加算されてもおかしくはない。
「はい、それは勿論です。ただ、今この場でお渡しできるのは銅貨25枚だけになってしまいます。それ以上は、こちらで上層部へ報告させて頂き、指示を仰いでからになってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、結果的に頂けるのであれば、こちらは問題ありません」
「一応、この核を討伐の証拠としてお預かりしてもよろしいでしょうか?何せ、最下級の冒険者が巨大化したスライムを討伐したという事実が異例ですので、口伝だけでは上層部が虚偽と判断する可能性がありますので……」
「ああ、そうですよね。それで大丈夫です。真帆も、それで良いか?」
「ええ。実際、お金には困ってる訳だし、多少時間が掛かっても追加報酬を貰えるなら、断る理由は無いわ」
「……では、こちらの核は一旦お預かり致します。結果が分かり次第、ギルド窓口にお越しの際にお伝えしますので、1週間を目処にお待ちください」
そう言って、受付嬢は核を受け取り、カウンターの上に麻袋を差し出す。
かちゃりと音がなったことから、中には即金で渡すことができるという、銅貨25枚が入っているのだろう。
「ありがとうございます。では、またよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ、今回はご迷惑をお掛けしました。またのお越しをお待ちしています」
麻袋を受け取り、俺達は受付を後にする。
ちなみに、俺達がやり取りをしている間に、いつの間にか居なくなっていた真帆は、この地域の貨幣制度について聞いてきたようだ。
この街に来たばかりで詳しくないという体で話したそうだが、言語と同様に貨幣についてもかなり広い範囲で共通して使用されているようで、訝しげな顔をされたとのことだった。
真帆の聞いてきた情報はこうだ。
青銅貨10枚=銅貨1枚
銅貨10枚=大銅貨1枚
大銅貨10枚=銀貨1枚
銀貨100枚=金貨1枚
やはり、街で見たように、流通しているのは硬貨のようである。
そして、俺達が今回、即金で受け取ったのは銅貨25枚。
つまり、俺達は本来の報酬だった10倍の資金を受け取ることができた。
これだけあれば、少なくとも10日以上は宿に泊まることは出来る。
ただし、食費や諸々の消耗品代まで考えると、やはり少し心もとないのが事実だ。
「……とりあえず、宿に向かうとするか」
「そうね、地下を歩き回ってちょっとだけ疲れたかも。この世界の宿がどんな感じなのかちょっと楽しみかも」
「ああ、それもそうだな。ただ、最下級の宿って話だから、あんまり期待はできそうにないが……」
とは言え、俺自身も期待していないと言えば嘘になる。
何せ、異世界で初めて泊まる宿なのだ。
設備なんかには期待できないだろうが、それでも良い経験にはなるだろう。
そんなことを考えながら、俺達はギルドで聞いた宿へと向かうのであった。
◆◆◆
やぁ、皆さん。ご機嫌よう。
私が今回紹介するのは、こちらの宿『蝦蟇の岩戸』です。
築100年は経過しているのではないかと思うこの宿は、見る者の心を恐怖で潤してくれるでしょう。
石造りの壁は苔むしており、屋根の瓦は今にも崩れ落ちてきそうです。
古風な趣のこの宿は、どこか郷愁すら感じられます。
窓という窓には謎の板が打ち付けられており、防犯対策もバッチリ。
そして、特筆すべきはその設備です。
アンティークなそのベッドは今にも床へ沈み込むような寝心地で、寝返りを打つ度に立てられるギシギシという音が、我々の耳を楽しませてくれるでしょう。
とても風通しの良いこの宿は、どこにいても涼やかな風が吹き抜けます。
薄い壁の向こうからは、隣の宿泊客の寝言まで聞こえてくるので、噂話が大好きな方には堪らないポイントでは無いでしょうか。
残念なことにお風呂はありませんが、宿の裏にはなんと水道が通っており、そこで水浴びをすることができます。
街の喧騒の中で水浴びをすれば、あなたも解放感と、新鮮な気分を味わうことができますよ。
更には、青銅貨1枚という破格のお値段で提供される食事も、この宿の特徴です。
とても硬く、噛みごたえのある黒パンは、食べ応えがあるの一言に尽きます。
付け合せのスープはシンプルに塩のみで味付けされており、まるで海を思わせるかのような深い塩味は、一生分の塩分を補給できると言っても過言ではないでしょう。
夏場の塩分補給にはピッタリですね。
「こんな宿、耐えられない!」
朝の冷たい風が吹き込む埃っぽい部屋の中、真帆が悲鳴を上げた。
隣からうるせえという声と共に、ドンと壁を叩く音が聞こえる。
うーん、どうやらレビューは星1つのようです。
「とは言ってもだな……」
現在の宿はラビュアドネでも最安値の価格帯で、もう1ランク宿のグレードを上げようと思えば、価格も銅貨3枚にまでぐんと跳ね上がる。
Fランクの依頼は、殆どがお使いの延長線のような依頼ばかりで、報酬金の相場も青銅貨3枚程度が精々。
スライム討伐も、月に1回程度しか依頼の申し込みが無い。
上のグレードの宿屋に泊まるためには、金額にして約10個ものクエストを達成しなければならない計算になる。
複数のクエストを同時受注することはできず、移動時間なども含めると、1つのクエストにつきどう考えても数時間は掛かってしまうだろう。
そうなれば、朝一で依頼を受注しても、日暮れまでに達成できるのは、効率よく進めていったとしても3つか4つが限度だ。
いくら謝礼金のおかげである程度の余裕があるとはいえ、宿のグレードを上げてしまえば、近いうちに金銭面で限界が来る。
それに、クエストを3つか4つ達成すると言うのも、かなり効率良く進めた場合のことだ。
最下級の依頼ではあるが、いつかは予想外のトラブルが起きる可能性もあるし、体力的にも無理がある。
「まぁ、今の冒険者等級でいる限りは、この宿からは抜け出せないな……」
「じゃあ、すぐにでも冒険者等級を上げましょう!どうすればいいの!?」
「……落ち着けって。その辺も、しっかり聞いてある」
冒険者等級は、ギルドへの貢献度や依頼の達成数等によって昇級するシステムだ。
その昇級条件を具体的に説明すると、ギルドからの直接の依頼の達成や、貴重な情報の提供(薬草などの植生、魔物の詳細な生態や対策方法、未踏のダンジョン等のマッピングデータ等)、依頼の達成数とその成功率なんかが関わってくる。
等級が上がる程に昇級条件もその難易度も上げていくが、最下級のFランクからEランクに上がる条件は簡単だ。
種類を問わず、依頼を10回達成するだけで良い。
そして、受けた依頼の成功率なども問われない。
「……つまりは、何でも良いから、あと9つ依頼を達成すれば良いわけだ」
「なるほど!じゃあ、早速行きましょう!」
そう言うやいなや、真帆は部屋を飛び出す。
あっという間に宿を出ると、そのまま街道へと消えていった。
「おいおい……」
そんな姿を目で追いかけながら、俺はやれやれとばかりに荷物をまとめて部屋を出る。
そして、態度の悪い宿の店主に声を掛けてチェックアウトを済ませると、ギルドへと向けて、雑踏の中へと足を進めるのであった。
◆◆◆
「にゃーん……」
「お前だな?バルドルさんちのルドルフは……」
路地裏の薄暗い中、俺は黒猫を抱えたままで依頼書のイラストと睨めっこしていた。
黒い毛並みに靴下のような足元の白い模様、ベルを模した飾りの付けられた赤い首輪。
間違いなく依頼書にあった迷い猫だろう。
「……っと、そろそろ待ち合わせの時間か」
聞きなれないメロディーのチャイムと共に、街中に鐘の音が響き渡る。
日暮れ前になるとラビュアドネの街で流れるのだ。
俺と真帆は、このチャイムを刻限にしてギルドで待ち合わせをする予定になっていた。
「とりあえず、こいつを連れてギルドまで戻るとしよう」
「にゃおん……」
呑気に寝息を立て始めた黒猫を抱え、俺は大通りへ出てギルドへと向かう。
冒険者達で賑わう通りは、夕焼けの色で染まっていた。
(真帆はもう着いているのか……?)
ギルドの扉を開き、辺りを見渡す。
酒場のテーブルの一角で、真帆はなにか飲み物を飲んでいるところだったようだ。
「よう、すまんな。待たせたか?」
「ううん、大丈夫。街の外でクエストを受けてると時間が分かんなかったから、少し早めに帰ってきただけだから」
「そうか、じゃあ俺も早くクエストの終了報告だけしてくるよ」
「そう言えば、その子はどうしたの?」
俺の手元で寝息を立てる毛玉を見て、真帆が不思議そうな顔で尋ねてくる。
「ああ、こいつか。街の中で迷い猫探しの依頼を受けてたんだ」
「なるほど。というか、この街、結構広いのによく見つかったわね」
「おう、今日だけで迷い猫なら3匹、落とし物なら5つは見つけたぜ」
「……あんた、冒険者じゃなくて探偵とかやった方がいいんじゃないの?」
「うっせえ。とりあえず、行ってくるわ」
そんな会話を後に、俺は受付で黒猫を預け、手続きを済ませる。
報酬は青銅貨1枚。街の広さを考えるとわりに合わないので、半ばボランティアのような依頼で、人気が無く溜まりがちになってしまうそうだ。
まぁ、俺は長年の野良猫との戯れでなんとなく居そうな場所が分かるので受けてみたのだが、思った以上に向いていたようだ。
「とりあえず、お疲れ。そっちはどんな感じだったんだ?」
真帆が頼んでくれていたミント水のようなものを一口飲み、俺はそう尋ねる。
恐らく、俺は街の中で依頼をかなりこなしてきたので、達成数だけで言えばこちらが上だとは思うのだが……。
「えーと、達成したのは4つだけね。流石に、街と外を往復しないと依頼を受けられないし……。でも、報酬としては青銅貨20枚は稼げたわよ」
「まぁ、流石に真帆のステータスがあっても時間的な問題は解決しないよな……」
「そうね。私達のランクじゃ、同時に受注できる依頼は2つまでだし……」
依頼を個人が独占することを防ぐため、クエストを同時に受注できる数には限りがある。
具体的に言うと、Fランクでは2つまで。
ランクが上がるにつれて同時受注できる数は増えていくそうだ。
「そういえば、ステータスってどんな感じ?」
「ステータス?ああ、そう言えば確認してなかったな……」
俺は手元のカードに集中して魔力を込める。
相変わらず文字は読めないが、登録の際に鑑定を受けた紙と照らし合わせればステータスくらいは読めるはずだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ユウキ・シオヤ 冒険者等級:F
筋力:25
忍耐:45
敏捷:26
知力:22
運:0
スキル:無し
魔法
【塩創成】:塩属性初級魔法。魔力を食塩に変換する。
詠唱:無し
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
相も変わらず平凡なステータスだ。
強いて言うなら忍耐が少し上がったが、他のステータスは変わらずで、敏捷と知力の値が申し訳程度に上がっただけである。
「じゃあ、次は私も見てみるわね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マホ・キリュウ 冒険者等級:F
筋力:52
忍耐:30
敏捷:80
知力:62
運:15
スキル:【棒術】
効果:棒状の道具を使用した際における超微少の筋力値上昇補正。
魔法
【火球】:火属性初級魔法。任意方向に火球を放つ。
詠唱:炎熱の化身たる炎の精よ、我が魔力を糧に力を
【水流】:水属性初級魔法。任意方向に水を放出する。
詠唱:母なる海よりいでし水の精よ、汝、その身を水流と化せ
【風撃】:風属性初級魔法。任意方向へ風圧を放つ。
詠唱:天翔る風の精よ、我が魔力を喰らいて、その姿を風と成せ
【土創成】:土属性初級魔法。消費した魔力に応じた量の土を生成する。
詠唱:大地の恵育みし精よ、その力を我が手に授け給え
【光源】:光属性初級魔法。光の精霊を召喚し、光源を生み出す。
詠唱:汝、我が行く道を指し示せ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まぁまぁって感じかしら?」
「はぁ、相変わらずの格差でオジサンは少しショックだよ……」
真帆に関しては、忍耐と敏捷の値が5ずつ、筋力と知力のステータス値も2上昇している。
街の外でクエストを受けていたことも多少は関係しているかもしれないが、これ程格差がでるのは元々の才能の差だろう。
恐らくは、俺が外でクエストを受けていたところでここまでステータスは上昇しない筈だ。
「まぁ、結果発表といくか。俺は依頼の達成数が8つで、報酬金の合計は青銅貨10枚だな……」
「私はさっきも言ったけど達成数が4つ、報酬は青銅貨20枚ね」
「合計青銅貨30枚、1日通してこれだと、やっぱりスライム討伐はかなりコスパの良い依頼だったな。流石に、今夜はあの宿で飯を食うしかないだろう……」
「ええ……。またあの刑務所みたいなご飯食べないといけないの……?」
「まぁ、食わないよりはマシだろ……。もう少し収入が安定しないことには、あの宿からもあの宿の飯からも抜け出せねえよ」
「うえー……先が思いやられるわね……」
そういうと、真帆は力尽きたように机に突っ伏した。
まぁ、一日中ラビュアドネの街と外を往復していてなおこの収入なのだから仕方あるまい。実際、街の中で依頼をこなしていた俺ですら疲れている程だ。
「今回は個人で依頼を受けたから、私はあと5つも依頼を達成しないといけないのかぁ……。塩谷さんは今日で結構達成したから、あと1つでランクアップだっけ?」
「ああ、そうだな。俺は明日にでも冒険者等級がEランクになりそうだ。とりあえず、依頼の達成数に差が出ることに関しては一つ解決できそうな案があるから、明日にでもギルドに聞いてみるよ」
「へぇ、なにか作戦があるんだ。じゃあ、私も頑張って明日にはEランクに上がれるようにしてみようかな」
そんなこんなで、冒険者になって二日目の生活が終了した。
流石に収入はかなり少ないが、依頼の達成数を考えると順調と言えるだろう。
それに、もう少し効率良く依頼を回すための作戦も思いついている。
その作戦が目論見通り達成できれば、収入面も少しは楽になる筈だ。
(それに、流石にあの宿に泊まりっぱなしってのも真帆が可哀そうだしな……)
残っていたミント水を一気に呷ると、俺達は席を立ち、宿屋へと向かうのだった。
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