<第4話 冒険者の街>
いよいよ主人公達が冒険者になります。
今回は殆どこの世界の冒険者のシステムなんかの説明回です。
しばらくはのんびりと進んでいく予定です。
―――冒険都市。
人口の8割を冒険者が占めると言われるラビュアドネは、いつしかそう呼称されるようになった。
各地に点在する冒険者ギルドの本部があり、これから冒険者として一旗揚げようという若者や、冒険者達を相手にする行商人達で常に賑わいを見せている。
フェルメウス地方で最大の都市でもあるこの街は、多くの高名な冒険者を輩出しているという。
「―――ま、同時に冒険者ばっかりだから喧嘩が多いのも名物なんだがな。裏通りなんかは特に柄の悪い連中が多いから、近づかないのが賢明だと思うぜ」
俺達にそう説明してくれるのは、村から仕入れのついでに送ってくれた男性だ。
昔はラビュアドネで冒険者をしていたが、冒険中の怪我が原因で引退し、今は故郷であるあの村に戻って暮らしているのだという。
そんな説明を受けながら、俺は改めて街の様子を観察する。
忙しなく行き交う人々は皆腰や背に武器を携えており、一様に鎧やローブを身につけている。
恐らく、その殆どが冒険者なのだろう。
時折、商人に呼び止められた冒険者達が、露店に並ぶ品を吟味するように眺めていた。
(おっ、あれは獣人ってやつか……!)
道を行く大勢の冒険者達の中でもそれほど多くないが、俺の目には一際よく目にとまった。
まんま人に耳や尻尾が付いたような獣人から、まるで犬や猫が服を着て二足歩行で歩いているような姿の獣人まで、その姿は様々だった。
獣化度合いにかなり個人差があるのは、純血の獣人属とハーフの獣人属でもいるのだろうか。
何にしても、ここが異世界であることを改めて実感させられる。
「このまま通りを真っ直ぐ進めば、目当てのギルドに辿り着けるぜ。この街で1番大きい建物だから、見りゃすぐに分かると思うが……」
「はい、ありがとうございました」
「本当に助かりました!ありがとうございます!」
俺と真帆は、荷馬車を降りて順に礼を告げる。
「なに、礼を言うのはこっちの方さ。俺ら男衆がいない間に村を守ってくれたのはあんたらなんだからな。しかし、今までこんなことは無かったんだがなぁ……」
少し伸ばした顎髭を撫でるように、男性はそう呟く。
「へぇ、てっきり、よくあることなのかと……」
「馬鹿野郎、ゴブリンの襲撃なんて、よくあってたまるか。そんな危ない場所に、村を立てられるわけがねぇだろうよ……」
俺のそんな発言に、男性はやや呆れながらもそう答える。
まぁ、確かに当たり前のことではある。
ただでさえ小さな村が、いくらゴブリンとはいえ度々襲撃を受けていれば、流石に厳しい面があるだろう。
「ま、兎も角、兄ちゃん達も気をつけてな。風の噂じゃあ、最近は失踪事件なんてのもあるらしいしよ……」
「ええ、気をつけます。おじさんも、気をつけて」
「おう、また機会があったらウチの村にも来てくれや。まぁ、何にもねえところだが、多少はもてなさせてもらうぜ?」
「はい!絶対また行きます……!」
「はは、そりゃ嬉しいね。じゃあ、達者でな……!」
手をひらひらと振りながら、男性はゆっくりと荷馬車を進めていく。
「……さて、俺達も行くか」
「うん、確か、このまま真っ直ぐだったわよね」
「ああ、というか、あれがそうじゃないか?」
俺は、正面に見える大きな建物を指差した。
周囲の建物と比べても一際大きなそれが、恐らくは冒険者ギルドなのだろう。
「あ、ほんとだ!他の建物よりかなり大きいし、みんなあっちに向かってるわね!」
「とりあえず、軽く街を見ながら進もうか。商店なんかも見ておきたいしな」
「そうね。でも、私達ってお金持ってないわよね……?」
「……その辺はおいおい考えよう。とりあえず、物価が分かればいいさ」
真帆の言葉にやや目を逸らしながら、俺はそう答える。
確かに、前世の金なら多少財布に入っているが、この世界の金は一銭たりとも持っていない。
女神からは金銭の類は貰っていないし、村人から貰った謝礼も現物だった。
女神が気を利かせてこの世界の金を入れてくれていないかと財布をもう一度確認したが、そこに入っていたのは見慣れた日本円だけだった。
(両替とかしてもらえねぇかな……)
そんなことを考えながら、俺はやや足早にギルドへの道を進む。
まぁ、とりあえず冒険者になって依頼さえこなせば、多少なりとも収入はある筈だ……。
◆◆◆
「ラビュアドネ冒険者ギルドへようこそ。冒険者登録の受付でよろしいでしょうか?」
「はい、俺達二人ともそうです」
「では、こちらの書類に記入をお願いします。こちらで代筆も可能ですが、どうなさいますか?」
「ええと、代筆をお願いします」
「かしこまりました。では、まずお名前からお伺いします―――」
受付の女性職員に代筆して貰いながら、俺と真帆は書類の記入を進めていく。
耳から入る言葉は理解できるのだが、目に映る文字は読めないし、勿論のこと書くことなんてできない。
冒険者になる者も皆が読み書きをできるわけではないので、ギルドはこうした代筆のシステムを採用しているようだ。
村人達と話すことができた時点で、言葉のやり取りは問題ないことが分かっていたのだが、流石に読み書きまでは転生の特典外であったようだ。
そのうち、一般的に使われているという共通言語だけでも読み書きできるようにしなければならないだろう。
ちなみに、読み書きができないことに気づいたのは、ラビュアドネの街へ入るための検問の際だ。
出入りした人物の管理の為に署名をする必要があったのだが、そこに自分の名前を書いた時点で、門兵から怪訝な顔をされてしまったのだ。
いくらこの世界の人間として生まれ変わったとはいえ、急に共通言語の文字が書けるようになった訳ではなかったのである。
「―――はい、これで手続きは完了です。こちらがお二人の冒険者証です。紛失等で再発行される場合には、銅貨1枚の料金が発生しますので、ご注意ください」
登録と同時に、俺達はギルドと冒険者のシステムについても説明を受けた。
まず、冒険者にはF〜Sランクまでの冒険者等級が与えられる。
ギルドへの貢献度や依頼の達成数等に応じて昇級していくシステムで、ギルドで受けることができる依頼は自分の冒険者等級と同じランクのものだけ。
また、冒険者等級は全ての地域で共通しているそうだ。
そして、冒険者証。
金属製のそのカードには、俺達の名前と等級が刻印されている。
カードには特殊な魔法が込められており、冒険者等級が上がると、自動的に更新される仕組みとのことだ。
「それでは、ユウキ・シオヤ様、マホ・キリュウ様、最後に【鑑定】をしますので、こちらの水晶へ手をかざしてください」
そう言うと、職員は重そうな水晶玉をごとりと机の上に取り出す。
怪しげな占い師が使うようなその水晶は、ぼんやりと発光していた。
「【鑑定】……ですか?」
「はい。新規で冒険者登録をされる方には、ギルドから【鑑定】をおすすめしています。【鑑定】をすることで、所謂ステータスと呼ばれる能力値を視覚化することができます。ギルドでは、初心者の冒険者向けに、そのステータスから、今後進むべき職業などをアドバイスしているのです」
「なるほど、それは有り難い。是非お願いします」
ステータス。
それはRPGなどのファンタジー作品において定番の要素と言える。
作品によって細かな部分は違えど、この世界でもそれは1つの大きな指標となるだろう。
攻撃よりのステータスなのか、防御よりのステータスなのか、物理攻撃が得意なのか、魔法攻撃が得意なのかなど、ステータスの傾向が分かれば、今後戦闘していく上での方針も決まってくる。
俺が手をかざすと、水晶の光が少し強くなる。
そして、ギルド職員の後方で、何やらカタカタと音を立てて機械が動き、1枚の紙が印刷される。
水晶と連動したFAXのようなものなのだろうか。
「はい、それでは、これがシオヤ様のステータスです。こちらで代読いたしますね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ユウキ・シオヤ 冒険者等級:F
筋力:25
忍耐:40
敏捷:25
知力:25
運:0
スキル:無し
魔法:【未鑑定】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ええと、これは、どうなんです……?」
代読されたステータスを聞き、俺は判断が付かずにそう尋ねる。
初期ステータスの平均値がどの程度なのかは分からないが、少なくとも聞いた限りでは高いということはないような気がする。
「う、ううん……。成人のステータス平均値が25と言われていますので、平均程度でしょうか……」
「な、なるほど……。俺は、どんな職業を目指すべきでしょうか……」
「えー、そうですね……。ここまでステータスが平均値の人は滅多にいないので、なんとも言えませんが……忍耐の値が少し高いので、現時点では前衛寄り……でしょうか……?」
なんとも歯切れ悪く、職員はそう答える。
俺のステータスは忍耐以外が平均値ジャスト。
何故か忍耐だけが高いのは、社畜生活で鍛えられたからだろうか。
ステータスが今後どう伸びていくのかはさておき、とりあえずはこの人が言うように前衛で戦うのが無難かもしれない。
と言うか、運0ってなんだよ。
せめて、真帆の方が攻撃寄りのステータスだと良いんだが……。
「じゃあ、次は私の番ね!」
やや落ち込む俺を尻目に、今度は真帆が水晶へと手をかざす。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マホ・キリュウ 冒険者等級:F
筋力:50
忍耐:25
敏捷:75
知力:60
運:15
スキル:【棒術】
魔法:【未鑑定】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これは……!」
【鑑定】された真帆のステータスに、ギルド職員が目を丸くする。
あれ、俺のステータスと比べると、なんかもうインフレしてる気がするんですが。
「えっと、どう、なんでしょうか……?」
やや自信なさげに真帆がそう尋ねる。
いや、殆どのステータスが俺より倍以上高い時点でやべえだろ。
成人のステータス平均値が25なんだから、敏捷値なんてトリプルスコアだ。
唯一、忍耐だけは俺の方が高いが、それでも平均値の25はしっかりキープしている。
「はい、これなら、どんな職業を目指してもスペシャリストになれるでしょう!素晴らしいステータスです!それに、もう既にスキルまで獲得していらっしゃるとは……!」
「えっと、ありがとうございます。ちなみに、スキルって言うのは……?」
「はい、スキルというのは、ある行為に対して一定の経験値を積むことで得られることがある、ボーナスのようなものですね。【棒術】のスキルの場合、棒状の道具を扱った際のステータス向上効果があります」
「棒状の道具、ですか?」
「はい、具体的に言うと、木の棒から剣、槍、杖に至るまで割となんでも適応されるみたいですね。もっとも、適応範囲が広い分、ステータスの向上効果は微々たるもののようですが」
「なるほど、ありがとうございます。ちなみに、私はどんな職業を目指せば良いんでしょうか……」
とりあえず、真帆には既にスキルとやらがあるらしい。
スキルは一定の経験値を積むことで得られるそうだが、あのゴブリンとの戦いで獲得したものなのだろうか。
あれでスキルが獲得できるなら、俺も縄使いとか、捕縛とかそういうスキルが貰えても良いのではないかと思うのだが、そんなスキルが無いのか、はたまたセンスの問題なのか……。
後者であれば悲しいので、前者であって欲しいものである。
「そうですね……」
と悩むようなギルド職員。
さっきも言っていたようにどの職業を目指してもスペシャリストになれる、というのは本当なのだろう。
まぁ、あくまでも現時点では、という話で、今後のステータスの伸び代は分からないので、あまり大きなことは言うべきではない気がするのだが……。
「お連れ様がやや前衛よりのステータスですので、それを活かしての攻撃役がベターかと思います」
「なるほど、分かりました。ところで、私達二人とも、この魔法の項目だけが未鑑定になっているんですが、それはどうすればいいんでしょうか……?」
確かにその通りだ。
ステータスに気を取られていたが、俺達には女神から与えられた魔法があるのだ。
女神の話では、冒険者ギルドに行けばその効果が分かると言う話だった筈だが……。
「ああ、すみません。ついステータスばかりに気を取られてしまい、そちらの説明ができていませんでしたね。魔法の鑑定は、ここではできないんです」
「あれ、俺は魔法の診断も、ギルドで出来るって聞いてきたんですが……」
「いえ、言い方に少し語弊がありましたね。正確に言うと、この受付では出来ない、と言うことです」
「つまり、他に魔法を診断するための窓口があると……?」
「はい、その通りです。魔法の有無に関しては、生まれながらの資質に大きく左右されるので、魔法が一切使えない、なんて言う人も少なくはないんです」
「なるほど、つまり、俺達は選ばれし存在である、と……」
俺は決め顔でそう言った。
生まれながらの資質に大きく左右される。
つまりは、魔法を使える冒険者は少なく、言わばエリートと言う訳だ。
「いえ、そこまででは無いですね……」
「そこまでではねぇのかよ」
期待を裏切るんじゃない。
魔法を使えない人も多くて、更には魔法の有無は生まれながらの資質に左右される、なんて言われたらちょっと期待しちゃうだろうが。
「……まぁ、ともかく、です。魔法の鑑定には専門的な技術が必要とされるので、この窓口では受付けていません。鑑定をご希望されるのでしたら、2階の窓口へどうぞ」
そう言って、職員はギルドの奥に位置する階段を指差す。
せっかく適正があるのに、使わない理由はない。
装備しなければ意味が無い、では無いが、鑑定しなければどんな魔法かも分からないのだ。
そうであれば、選ぶべき選択肢は一つしかない。
「……一応聞くが、どうする?」
「せっかく女神サマがくれたんだし、使わないともったいないんじゃない?それに、どんな魔法が使えるのか、楽しみなところもあるし……」
「おお、中々分かってるな!そうだよな。せっかくの異世界転生なんだから、魔法くらい使えて然りだよな!俺達の最強魔法で、一緒に世界を救おうぜ!?」
「え、急に何……。コワ……」
ドン引きとでも言わんばかりに、そそくさと2階への階段を登っていく真帆。
いや、しょうがないだろ。
異世界転生だぞ。しかも魔法が使えるんだぞ。
ちょっとくらいテンションが上がってもいいじゃないか。
「おい!待ってくれよ!」
「……近づかないでくださーい」
「その反応は流石に傷つくんだけど……!?」
謝るから許してくれよ、と真帆を追いかける俺。
白い目を向けながらも、真帆は少しだけ歩を緩めた。
「……でも、楽しみなのは真帆も同じだろ?」
「……まぁ、そこは否定しないわ」
なんやかんや言っても、魔法が使えるなんて言われて期待しない人間の方が少ないのだ。
どんな魔法が使えるのかは分からないが、使えない魔法なんてのは恐らく存在しないだろう。
ましてや、女神から与えられた魔法であるなら尚更である。
(いや、フリじゃないよ……?)
やや不安になりつつも、俺は軋む階段を1歩ずつ進んでいくのであった。
少しでも面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマークを頂けると励みになります。
よろしくお願いします。