<第1話 女神と社畜とJKと>
一応、次話で異世界転移しますが、この辺は完全に前置きなので軽く読み流すくらいでも特に問題ないです。
「……ううん、うるさ…何……?」
俺の悲痛な叫び呼応するかのように、これまで倒れたままだった少女が目を覚ます。
展開が急すぎて存在を忘れてしまっていたが、俺と同じ現場に居合わせたあの女子高生だ。
俺がここに喚び寄せられているのだから、同じく事故に巻き込まれたこの少女がここにいるのは自然な流れだろう。
「え、なに、ここ……?さっきまでバス停にいたはずなんだけど……?」
辺りをキョロキョロと見渡しながら困惑の声をあげる少女。
まぁ、急に事故に遭ったと思えば、気づくと見知らぬ白い空間にいたのだから混乱して当然だろう。
俺がどう声を掛けるべきか悩んでいると、女神が先んじて少女を呼びかける。
『マホ・キリュウ様。突然の事でさぞ驚かれていることでしょう。端的に申し上げますと、貴女は事故に巻き込まれ、亡くなりました』
「は、え……?私、死んじゃったの……?」
まさに愕然といった様子の少女は、思わずその場に座り込んでしまう。
おいおい、女神様。流石に話の展開が急すぎるだろうよ……。
もはや人として死んだような社畜生活を送っていた俺は、現世に全くと言っていい程に未練がなかった。
しかし、女子高生ともなればやり残した事もやりたかった事もまだまだあっただろう。
まだ状況を受け入れることすらできていない、たかだが16、7歳の少女に突き付けるにはあまりにも思い現実だろう。
「……じゃあ、ここはあの世で、あなたはカミサマか何かなの?」
大きく深呼吸をした少女は、思った以上に落ち着いた声で女神に問い掛ける。
『そのようなものと捉えて下さって構いません。私は女神ミルフ。不慮の事故に巻き込まれた貴女に、新たな人生という選択肢を与える為に、この場所へ喚び寄せました』
「……新たな人生っていうと、今までの私じゃなく、新しい人間としてまた生まれ変わるってこと?」
『少し違います。貴女には、これまでとは違う、所謂異世界に、これまでの記憶と現在の容姿を全て反映したまま、転移して頂こうかと思っています』
「……異世界転移って奴?不慮の事故って話だけど、事故で死ぬなんて珍しいことじゃないわ。それなのに、なんでわざわざ女神サマが直々に、それも新しい人生なんていう特典をぶら下げて現れるのかしら?なにか隠していることでもあるんじゃないの?」
なんとも鋭い少女の指摘に、思わず女神も口ごもる。
コイツ、もしかすると、何も説明せず、平穏無事に異世界転移させてはい終了で終わらせようとしていたのではないだろうか。
女神に対する信頼度は右肩下がりだが、なんというか、神々しい見た目に反して色々と抜けている。
まぁ、だからと言って人違いで事故に巻き込まれてはたまったものではないし、女神が説明しないのであれば俺が話を割ってでも真相を告げるつもりだったのだが……。
『……ええと、それは、ですね』
あからさまに動揺した様子で、女神が俺にしたものと同じ説明を少女にも行う。
本当であれば、勇者として転生する筈だった人物がいたもう一つ先のバス停で事故が起こるはずであった。
しかし、その人物の力があまりに強すぎた為か、何らかの不具合が起こってしまい、貴方は巻き込まれる形で事故に遭ってしまったのだと。
あまりにもふざけた話だが、事実である。
それを聞いた少女も、やや呆れ顔で大きく溜息をつく。
「つまり、間違って死んじゃったから、お詫びって訳ね。その勇者候補とやらがどんな奴かは知らないけど、面倒なことしてくれたわ……」
『不手際で命を奪ってしまい、謝って赦しを得られるとは思っていません。もし元の世界へ帰りたいと仰るのであれば、一つご提案があります』
ほう、何か元の世界へ戻る為の手段があるらしい。
俺は別に元の社畜生活へ戻りたいとは思わないが、マホと呼ばれたこの少女は違うだろう。
「へぇ、何か生き返る為の手段があるのね。まぁ、そんなに簡単な話じゃないと思うけど、聞かせてくれる?」
『はい、とても簡単とは言えません。成功する確率は極めて低いと言えます。しかし、貴女であれば可能性はあります』
いや、待てよ。
何かおかしな流れになってないか?
この流れもどこかで見覚えがある。
『その方法とは……』
おいおい、勘弁してくれ。
それは俺が聞きたかった言葉じゃないのか。
『……貴女に、新たな勇者として、転生先の異世界を救って頂きたいのです』
「いや、それ俺が言って欲しかったやつーーーーーッ!!」
思わず盛大にツッコミ入れる俺。
え、この物語の主役って、俺じゃねーの……?
◆◆◆
「いや、それ俺が言って欲しかったやつーーーーーッ!!」
白い空間に、またもや俺の悲痛な叫びがこだまする。
なんだこれ、こんな現実受け入れられるか。
これじゃあまるで……。
「おいおい、勘弁してくれよ女神様!これじゃあまるで、俺が巻き込まれ事故の更に巻き込まれ事故に遭った村人Aのままじゃねーか……!」
『ええと、その通りとしか言えないのですが……』
「いや、流石に虫が良すぎないか?俺はあんたにとっては村人A程度の存在かもしれないが、それでもそっちの不手際で死んでるんだぞ?そうであれば、新たな人生だけで釣り合いが取れるとは思わないんだが、その辺はどう考えてる?」
流石に「間違って死んじゃったので異世界で生まれ変わってください」と言われて、はい終了とはいかないだろう。
死んだことに関してこちらには何の落ち度もないどころか、純度100%で向こうの責任なのだ。
そうであれば、何かしらこちらにもプラスとなるような物を貰って然りなのではないか。
『確かに、そうかもしれませんね。貴方が亡くなった事に関しては、完全に此方の不手際です。しかし、どう致しましょうか……』
「普通、何かしら特殊な能力だったり、武器だったり、魔法だったりが貰えるんじゃないのか?」
『確かに、勇者として転生される皆様はそうですが、しかし……』
ほら見ろ。
やっぱり、転生する際に何かしらの、所謂チートを貰うことは可能らしい。
ゴネ得だ。黙っていたら本当に裸同然の状態で異世界に放り込まれていた。
『……女神の力を一部貸与するような形で、何らかの、貴方が仰るような能力をお渡しすることは可能です。しかし、それは基となる能力があって初めて役立つもの。言い辛いのですが、なんの適正も持たない、村人同然の貴方に能力を貸与したとしても、殆ど恩恵は得られないのです』
「え、マジで……?」
『大変に申し訳ないのですが、真実です。期待はできませんが、最低限戦える程度の能力は得られます。何もないままより確かに良いのかもしれませんが、貴方が望むような、英雄、勇者といった存在になることは、ほぼ不可能でしょう。それでも、貴方は力を望まれますか?』
つまり、才能や適性が無ければ、いくらチートを与えられても、無い物を補うことはできないということだ。
ああ、結局俺はどこまで言っても脇役という訳である。
だが……。
「でも、デメリットがある訳じゃない。断る筈がないだろ?で、一体何なら貰えるんだ?」
当たり前と言えば当たり前だ。
もう元の社畜生活に戻る気もさらさら無い。
そうとくれば、夢の異世界ファンタジー生活、とことん楽しんでやる。
その為には、やはり何かしらの力は欲しい。
『……はい。貴方にお渡しするのは二つ。一つ目は女神の力の一端。これで最低限戦えるだけの力は持つことができるでしょう。そこから先は貴方の努力次第。そして、もう一つは魔法の基となるものです』
「魔法の基となるって言うのは、どういう意味なんだ?」
『分かりやすく例えるのであれば、魔法の種となるような力を貴方に授けます。どんな魔法が芽吹くかは、適正次第ですが、魔法の種類によっては、貴方を大きく助けることになるでしょう……』
なるほど。
これで最低限の能力保証に加え、更に魔法というワンチャンスが生まれた訳だ。
どんな魔法かは分からないが、流石に全く役に立たないような魔法は存在しないだろう。
……流石に存在しないよな?
「ちなみに、その魔法が芽吹くのはどのタイミングなんだ?」
『はい、貴方が異世界へ生まれ変わったタイミングで魔法の種は実を結びます。もっとも、どんな魔法が貴方に宿ったのかは、向こうの世界における冒険者ギルドと呼称される場所で診断を受けるまでは分かりません』
冒険者ギルド。ファンタジー世界の定番も定番だ。
やはり俺が生まれ変わる世界にも存在するらしい。
そして、魔法に関しては特にこちらが努力しなければならないということも無く、異世界へ生まれ変わるだけで貰えるという。
何も無しでほっぽり出されそうになっていた最初に比べれば、段違いで優遇されたのではないだろうか。
「……なるほど。話を遮るような真似をして悪かった。ありがたく頂いていくとするよ。話を戻してくれて構わない」
俺は女神にそう答える。
今更ではあるが、明らかに少女と女神が話の核心に迫るタイミングでそれを遮ってしまった。
急に話を遮られて困惑していた少女も、平静を取り戻して声を上げる。
「そ、そうだわ!私が異世界から元の世界へ帰るための方法!そこのオジサンに話を遮られちゃったけど、まだちゃんと聞いてない。確か、勇者がどうこうって……」
「オジサンて……」
俺はまだ27歳なんだが。
いや、女子高生から見ればもうおっさんなのか?
ちょっと悲しくなってきた。
『はい。此方にとっても不測の事態ではありましたが、貴女には勇者に匹敵するだけの力を秘めています。私の女神としての力の一端をお渡しすれば、それを十二分に使いこなすだけの才能が眠っているのです』
「はぁ……。つまり、その力とやらを貰って、私が勇者様の代わりになって世界を救えば、元の世界に戻ることができるってことね。具体的に、世界を救うって言うのはどうすればいいの?」
確かにその通りだ。
世界を救うといっても色々ある筈だ。
まぁ、異世界ファンタジーで世界を救うとなれば、目的は殆ど決まっているようなものなのだが……。
『それは―――』
少女の問に、女神は鈴のような澄んだ声で答える。
『貴女が転移する異世界、アガルティアに蔓延る邪悪、魔王を倒して頂きたいのです』
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