<第17話 侵入>
投稿が遅くなり申し訳ございません。
今回の一件は残り1~2話で完結予定です。
よろしければ裏で更新中の小説も見て頂けると嬉しいです。
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「うぐっ……!?」
「よし、これで二人……!」
まず、一つ目の問題であった見張りの二人は処理することができた。
だが、次の課題として侵入の問題がある。
見張りは居なくなったが、小屋の中に何人いるのかも分からないのだ。
少なくとも、中には2人の仲間が待機している。
侵入する前に、中から仲間が出てこないか、外からの出入りはないか、最低限そのくらいは確認してもよいだろう。
「……そろそろ大丈夫か?」
「うん、中からも外からも出入りはないし……」
俺達が小屋の付近の茂みで待機してから30分程だろうか。
少なくとも、黒ずくめの男達が出入りしている様子は見られない。
あまり時間を置きすぎても、見張りが戻ってこないことに不信感を覚えた仲間が、外を確認しに来る可能性が高くなる。
そろそろ中へ侵入する頃合いだろう。
足音を殺しつつ、俺達は小屋へと近づいていく。
小屋の壁に耳を当てて中の様子を伺うが、特に物音や会話などは聞こえてこない。
覚悟を決め、俺は木製の古いドアを開く。
「うん……?誰もいない……?」
想定では中に男達がおり、戦闘することを覚悟していた。
だが、室内のどこにも、人影は見当たらない。
しかし、その一方で、俺達の目を引くものが一つあった。
「これって、階段かしら……?」
そう言った真帆が覗き込んでいるのは、紛れもなく地下へと続く階段だった。
かなり深くまで続いているようで、上から覗く限りでは中の様子は伺えない。
外から見る限りでは小さな小屋であったため、失踪した人間をどう隠しているのかと思っていたが、まさかこの地下に幽閉されているとでも言うのだろうか。
「まぁ、降りるしかないよなぁ……」
「そりゃあ、今から町に戻って人を呼んできてたら、逃げられる可能性だってある訳だし……」
真帆の言う通りだ。
二人で突入するよりは、明らかに人を呼んできた方が無難ではある。
だが、どれだけ急いだとしても、足の無い俺達では、マルースの町まで戻るのに時間が掛かりすぎる。
それだけ時間をかけていれば、せっかく見つけた犯人と思わしき黒ずくめ達の行方を失ってしまう可能性が高い。
それに、地下で捕まっているかもしれない住民達の安否も心配だ。
こつこつと音を立てながら、俺達は地下への階段を進んでいく。
かなり古いようにも見えるが、壁面に取り付けられた魔石灯で照らされており、今でも定期的に人が出入りしているのは間違いない。
「地下通路、か……?」
数分の後、階段を下り終えた俺達の目の前に現れたのは、石造りの地下通路だった。
先へ進んですぐに曲がり角になっているようで、奥の様子は伺えない。
このまま進んでいくか悩んでいると、奥の方から足音が響いてくる。
「まずい、隠れよう……!」
足音の数からして、恐らくこちらへ向かってきているのは一人だ。
だが、相手の実力も分からない状況で正面からバッティングするのは得策ではない。
幸いにも、階段を下りてすぐのこの場所は物置のようになっており、二人が隠れられるだけのスペースが十分にある。
俺達は、乱雑に積み重ねられた木箱の陰へと身を隠す。
「……ったく。交代の時間だってのに、あのアホ共は何やってんだ?」
そんな独り言を唱えながら、奥からやってきたのはやはり一人。
上にいたのと同じく、黒いローブのようなものに身を包んでいることからも、見張りの仲間で間違いないだろう。
奥から進んできた男は、階段を上りかけたところで、ふと足を止める。
「……おい、なんだお前は!」
「くそ、見つかったか……!?」
階段上からは流石にこちらの様子が見えてしまったようだ。
上手くいけばまた戦闘をせずに捕縛できるかと思ったが、そうはいかないようだ。
階段を一気に下ると、俺達の進路を塞ぐように立ちはだかる黒ずくめ。
既に武器を構えていることからも、戦闘は避けられない。
「おい、そこの男!何をしている、さっさと出てこい!」
どうやら、見つかったのは俺だけのようだ。
これならば、やり方次第でまだどうにかなりそうである。
「……いやあ、私は行商人なのですが、道に迷ってしまいましてね」
ゆっくりと男の前へと躍り出た俺は、そんなブラフを張る。
無論、そんな嘘が通じるとは思っていない。
こうして言葉のやり取りをすることで、隙を作るのが目的だ。
「馬鹿が。こんな街道から大きく外れた森の中に、商人が迷い込む訳がねえだろうがっ……!」
その言葉を皮切りに、黒ずくめはナイフを振りかざし、こちらへ飛びかかってくる。
チャンスは一瞬。
「喰らえ!【塩煙幕】ッ……!」
男がこちらへと飛びかかったのと同時に、俺は右手を宙に向けて突き出す。
そして、一気に魔力を込めると、その魔法を放った。
多量の塩が辺りに舞い散り、視界が白く染まる。
新しく覚えた魔法である【塩煙幕】だ。
一見、【塩創成】と変わらないように見える魔法ではあるが、この魔法で生み出した塩は、一定時間、空中に滞留する。
「くそっ、煙幕か……!?」
煙幕によって、男は俺の姿を見失う。
大きな隙ができた。
そして、この煙幕の目的は、ただ俺が姿を隠す為だけではない。
「今だ、真帆!真っすぐ突っ込め……!」
「なんだ、うぐっ……!?」
俺の合図を受け、これまでは終始身を隠す事に努めていた真帆が、物陰から飛び出す。
そして、男までの距離を一気に詰めた真帆が一撃、男の意識を刈り取った。
「……よし、お疲れ」
「うん、塩谷さんもナイス。気を失ってるだけだがら、また縛っといて」
「ああ、分かった」
気を失った男を物置の奥まで引きずり、縄で縛り上げて布を噛ませる。
これで、しばらくは仲間が通りがかっても見つかることはないだろう。
「それにしても、埒が明かないわね……」
確かにその通りだ。
ここまではどうにか上手く切り抜けられているが、この先の通路がどんな構造かによっては戦いの方法も限られてくる。
それに、敵と遭遇する度に戦闘していれば、気力も体力も、魔力も消耗してしまう。
「……そうだな、俺に良い考えがある」
「良い考え……?」
「ああ、実は、見張りを片付けた時に、これを拝借してきてたんだよ」
俺が密かに黒ずくめ達から拝借してきていた物。
それは、奴らの象徴とも言うべき黒いローブだ。
どこまで誤魔化せるかは分からないが、少なくとも、これを被れば、視界の上では同じ格好になることができる。
「あんまり気は進まないけど、仕方ないわね……」
「ああ、とりあえず、これを被って先へ進もう。できるだけ戦闘は避けたい」
趣味の悪い黒いローブを目深に被れば、こちらの顔は相手から伺えない。
少なくとも、相手も接近するまでは、こちらの正体に気づくことはできない筈だ。
だが、こんな子供だましの策で、本当に大丈夫なのだろうか。
一抹の不安を抱えつつも、俺達は地下通路を奥へ奥へと進んでいくのであった。
◆◆◆
俺達が地下通路を進み始めてから、どれくらいの時間が経過したのだろうか
地上の小屋からは想像もできなかった広大さだ。
時折、怪しげな器具が多数置かれた研究室のような部屋や、多数の本が並ぶ資料室のような場所まで存在していた。
ここまで、かなりの距離を移動してきたのだが、幸いなことに新たな黒ずくめとは遭遇していない。
かなり入り組んだ構造ではあるので、運良く遭遇しなかったのか、はたまたこの施設にいる黒ずくめの数自体が少ないのか。
なんにしても、捜索は順調であると言える。
(……なんだ?人の声が聞こえる?)
奥へ奥へと進み続けていた時だった。
少し先の方から、何やら声が聞こえてくる。
恐らく、声の主は敵だと思って間違いないだろう。
(ねぇ、あれって、何なの……?)
声のする方へと向かった俺達の目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。
視界の先には、これまでとは比較にならない程の、ドーム状の大空間。
部屋の中央には、怪しげなパイプが繋がった不気味な色の巨大な水晶玉のようなものが設置されている。
そして、水晶玉を囲むように、5人ばかりの黒ずくめ達が、跪いて言葉を発している。
『……偉大なる……様へ捧げる!』
『……この者達を……に!』
その言葉に耳を傾けるが、やはり内容までは聞き取れない。
だが、何やら、黒ずくめ達は、水晶玉へと祈りを捧げているようにも見える。
(ねぇ、壁際……!よく見て……っ!)
真帆の、切羽詰まったようなそんな呟きに、俺は壁際へと目を向ける。
薄暗く、先程までは気づくことができていなかったが、そこにあったのは、ただの壁ではなく、牢獄のようなものだった。
円形の部屋の壁が、ぐるっと一周するように、全て牢で囲まれている。
中の様子までは見えないが、失踪した住民達が囚われているとみて、まず間違いないだろう。
「……侵入しましょう。塩谷さん、また煙幕をお願い」
「それは良いが、部屋が広すぎる。流石に、【塩煙幕】では部屋全体を覆えそうにない」
「大丈夫。敵の隙を突ければ良いわ。1人でも処理できれば、断然戦いやすくなる筈」
室内にいる敵の数は、恐らく5人のみ。
ここまで進んできて、一人の敵とも出会わなかったという事は、ほぼ間違いなくこれで全てだろう。
真帆の言う通り、不意を突いて1人でも倒せれば、戦いはぐんと楽になる。
「……分かった。できる限りの魔力を込めて煙幕を作る」
掲げた右手へ向かって、俺は全力で魔力を流し込む。
こいつらを倒してしまえば、この一件も全て解決できる。
出し惜しみはできない。
「……いくぞ!【塩煙幕】ッ……!!!」
魔力によって生み出された塩が、前方へ向かって勢いよく放たれる。
そして、宙へと舞い散ったそれは、辺りを白く染める。
流石に、部屋全域とまではいかなかったが、どうにか空間の半分程は白い煙に覆われた。
「なんだ、この煙は……!?」
「敵襲だ!攻撃に備えろ……!」
突如として辺りを覆った煙幕に、黒ずくめ達も慌てふためいている。
武器を構え、辺りを伺ってはいるがその行為にどれだけ意味があるだろうか。
視覚外からの不意打ち。
よほどの達人でもなければ、それを防ぐことなど不可能に近い。
「天翔る風の精よ、我が魔力を喰らいて、その姿を風と成せ……!【風撃】ッ……!」
真帆の【風撃】が、煙幕を切り裂くようにして放たれた。
瞬間、魔力を帯びた風の一撃が、一人の男へと直撃。
不意を打たれた黒ずくめは、攻撃を受ける間もなく壁へと叩きつけられ、そのまま動きを止める。
どうやら、上手い具合に意識を失ったようだ。
「おい、侵入者だ!敵は2人、俺達の方が有利だぞ!」
煙幕が少しずつ薄くなり、敵も俺達の姿を確認したようだ。
このままもう何人か倒すことができれば楽になったのだが、流石にそう上手くはいかない。
黒ずくめ達は、俺達を囲むようにして陣形を取る。
「のこのこ入ってきて、ただで済むと思う名よ……!おらっ……!」
男の一人が、持っていた片手剣を俺に振り下ろす。
「その程度の攻撃、喰らうかよっ……!」
男の攻撃を、俺は左手に装備した籠手で受け止めた。
攻撃を防がれたことに驚く男の一瞬の隙をつき、こちらも右手に持ったメイスで応戦する。
男も流石にそんな見え見えの反撃を喰らう訳もなく、後ろへ飛び退いて攻撃を交わした。
(くそ、めんどくさいな……!)
俺程度で相手をできていることからも、敵の実力はそれ程ではない。
だが、俺が相手をしているのは生身の人間である。
魔物であれば全力で戦い、倒すことに、それ程躊躇うことは無くなった。
しかし、相手が人間ともなると、それは違ってくる。
相手がいくら悪に類する者であるとは言え、もし命を奪ってしまえば、俺も同じ側に回ってしまうのではないか。
そんな思考が頭をよぎり、俺の動きを鈍らせる。
そう思っているのは真帆も同じなようで、普段であれば多対一であっても軽く蹴散らしてしまう真帆も、かなりの苦戦を強いられていた。
今は実力差でどうにか相手ができているが、何か一つ間違えば一気に攻め込まれてしまうだろう。
そうなる前に、どうにかサポートに向かわなければ……。
(何か、突破口は……!?)
ふと、考える。
舐められているのか、偶然なのか、俺の方の相手をしている敵は1人だけ。
幸いなことに、実力は拮抗もしている。
この勝負、相手の隙を突いた方が勝ちだ。
「……お前らが、デメトール地方の失踪事件の黒幕か!」
度重なる応戦の中、俺は黒ずくめへとそんな言葉を投げかける。
ここまでの探索では、なんの情報も得られていない。
このやり取りの中で、こいつらが何者なのか知る事ができれば良い、そんな考えもあった。
「くくっ、何を今更!そうさ、ロート様の力を借り、俺達がこの馬鹿共を攫ってきたのさ!」
やはりと言うべきか、この失踪事件の黒幕はこいつらだった。
だが、こいつらの背後には、まだ『ロート様』とやらがいるらしい。
その人物は何者で、何のために住民達を攫っているというのだろうか。
「何のためにそんなことを!」
「決まっているだろう。こいつらは供物さ!あの水晶で魔力を吸い上げ、魔王様に捧げるのだ!」
まさかとは思っていたが、今回の一件の裏にいるのは魔王であったらしい。
となると、この黒ずくめ共が魔王軍で、ロート様と言うのはグレゴリオのパーティを壊滅に追い込んだと言う幹部なのだろうか。
今のところは下っ端であるこいつらとしか遭遇していないが、裏で幹部が関わっている事件なのであれば、今後幹部にまで遭遇してしまう可能性は十分にある。
そうなれば全滅は必至だ。
できる限りこの案件を早く片付け、ここから離れるべきだろう。
「くっ、ふざけたことを!そんなことをして心が痛まないのか!?」
「ふははッ……!魔王様の糧となること、光栄と思うべきであろうが!」
こちらの言葉に、黒ずくめはすっかり饒舌になって語る。
攻撃の勢いも、心なしか緩んでいるような気がする。
目論見通り、仕掛けは万全だ。
「お前も、魔王様の糧となるがいい……ッ!!!」
「お前達の目論見は一つも叶えさせないッ!ここで俺達が、お前達を倒す!」
「くくッ!勇者気取りでここに乗り込んできたこと、後悔させてくれるわ!」
「……はい、お疲れ。【塩創成】ッ!」
意気揚々と俺に斬りかかる黒づくめの攻撃をいなし、顔面へ向けて魔法を放つ。
勢いよく放たれた塩が、敵の視界を潰し、男を大きく怯ませる。
そう、ここまでの会話の真の目的は、敵を油断させることにあった。
思っていた以上にこちらの会話に乗ってくれたので、思わぬ情報まで仕入れることまで出来たが。
「ぐああっ!?なんだ、テメェ!卑怯だぞ、ぐおッ……!?」
「うるせえな。これしか魔法使えねえんだから、仕方ないだろ……!」
視界を失った黒ずくめの腹を目掛け、思いっきり拳を振るう。
鳩尾の辺りに勢いよく入ったので、しばらく呼吸すらままならないだろう。
悶える黒ずくめを押し倒し、再び締め落とす。
ここまで来ると、人を締め落とすコツすらも掴んできたように思える。
悲しい事に、まともな魔法は使えず、ステータスも上がらないのに、今回の旅で嫌な技術ばかり身についてしまったような……。
俺は一体、何を目指しているというのだろうか。
「……真帆ッ!大丈夫か!?」
「……ええ、待ってたわ!いつものフォーメーションで行きましょう!」
俺の呼びかけに答えた真帆が、男達の足元へと向かって魔法を放つ。
真帆によって打ち出された小さな火球が石畳を砕く。
これまで近接攻撃のみで応戦してきた真帆による、魔法の一撃。
敵の不意を突き、俺達が陣形を整えるには十分な時間だった。
「……ここからだ!ガンガンいくぞ!」
「ええ、ここまで魔力も体力も十分温存してきた。ここからは、本気でいくわよ!」
「くそ、不意打ちで二人倒した程度で、調子に乗りやがって!」
「そうだ、まだ俺達の方が人数が多い。ここからはこっちも全力だ!」
前衛を俺、後衛を真帆が務めるのが、俺達の必勝フォーメーションだ。
まぁ、耐久値が少し高いだけの俺が、前衛しか務められないと言うのが正しいところではあるのだが……。
兎も角、こちらだけでなく、相手も準備万端だ。
ここからは互いが死力を尽くした戦いへ移行していくだろう。
そうなれば、戦闘も一気に加速していく。
改めて、気を引き締めて望まねば。
次話今週中に更新予定です。詳細決まり次第こちらに追記します。
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5/22 AM 追:極力本日中に続きを上げたいですが、もしかすると明日23日の投稿になるかもしれません。
5/26 追:本日お昼頃に投稿します。




