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マジック★ソルト 〜JKと異世界転生したのに、固有魔法が地味すぎて勇者の荷物持ちになりそうな件〜  作者: 揚げたてアジフライ
第一章 フェルメウス地方 冒険の始まり編
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<第11話 昇級>

(作者の)箸休め回。


次話以降で展開が少し動いていくので、このお話で第一章は終了です。

 暴君蝦蟇タイラント・トードの討伐報告を終えた俺達は、その場でギルドマスターであるグレゴリオの居室へと招かれていた。


 いかにも高級そうな革張りのソファに腰を掛けると、どこからか運ばれてきたティーセットと茶菓子が目の前に差し出される。

 ハーブティーだろうか、湯気と共に立ち込める良い香りが鼻をくすぐる。


「……まずは、ご苦労だったと言っておこう。Eランクに昇級したばかりの冒険者が、それもたった二人で、格上の魔物である暴君蝦蟇を討伐したこと、月並みな言葉ではあるが、流石としか言いようがない」


「今回ばかりは、諦めて撤退することも何度か考えましたけどね……」


「そうね、塩谷さんの機転と、魔法が無ければ倒せなかったかも」


「ほう、ちなみに、どのような方法であの蝦蟇を討伐したんだ?」


「ええと、俺の魔法……塩魔法と言うんですが、それを蝦蟇の全身に浴びせた後、【水流スプラッシュ・ウォーター】で洗い流して、ぬめりを取りました」


「ぬめりが取れた所で、私がお腹の柔らかい部分を、ナイフでズバッと……」


「……ふっ、ははははははは!まさか、そんな主婦の知恵袋みたいな方法であの蝦蟇を討伐するとはな!いやはや、スライムの時といい、お前達の話は聞いていて退屈しない!」


 俺達の討伐方法に目を丸くしていたグレゴリオが、不意に声を上げて笑い出す。

 そして、暴君蝦蟇は『初心者殺し』と呼ばれる程には討伐難易度の高い魔物だったんだがな、と付け加えた。


「……と言うことは、他に討伐方法があったと?」


「そりゃあ、そうだ。そんな特殊な方法、お前らじゃなきゃ使えんだろう」


 グレゴリオ曰く、暴君蝦蟇は口に入るサイズなら何でも捕食する程に食欲が旺盛である。その食欲を逆手に取り、普通であれば毒を仕込んだ餌を罠として仕掛け、そのままジワジワと毒で弱っていくのを待つだけで討伐できると言うのだ。


「いや、まさかそんなに簡単な方法があるとは……。資料室の本には、背中側の皮が硬くて、魔法や物理を軽減するとしか書いてなかったですし……」


「その情報も間違ってはいねえさ。生態調査なんかなら、学者先生の方が詳しいだろう。だが、魔物と戦闘することにおいては、俺達冒険者の方がプロフェッショナルだぜ?」


「つまりは、魔物の情報収集は、冒険者達からした方が良いと?」


「まぁ、全てがそうではないけどな。戦闘においては、実際の経験談に勝るものはないだろうさ」


「そう言うもんなんですかねぇ……」


 一口、少し冷めてしまった紅茶を啜る。

 爽やかな香りと、程よい酸味が俺の疲れた身体を癒してくれたような気がした。


「まぁ、どんな方法であれ、暴君蝦蟇を討伐したことに変わりはない。昇級手続きは俺の方で手配しておくから、明日にでもDランクの冒険者として活動できるだろう。あとは、これだな……」


 そう言うと、グレゴリオは小さな小包を取り出す。

 中を開けてみると、そこには綺麗な銀色の硬貨が入っている。


「まぁ、それだけでもお前達にとっては十分かもしれんが、俺からもう一つ餞別がある」


「餞別……?」


「ああ、見たところ、お前達の装備、かなり貧弱だろう?そのローブは兎も角として、他の装備では、Dランクの討伐依頼をこなしていく上で支障が出る」


 まぁ、それはそうだろう。

 ローブ以外の装備は、最初の村で護身用程度に貰ったナイフと、どこにでもあるような布の服だ。

 Eランクの魔物であれば真帆のステータスである程度ゴリ押しができたが、これより上の魔物と戦う上では流石に心もとない。


「ええと、装備を新調しろと言う話ですか……?」


「ああ、すまん。餞別と言うのは、俺が現役だった頃から世話になっている鍛冶師への紹介状だ。かなり気難しいやつなんだが、腕は確かだ。一応は、俺もこの街の冒険者を束ねるギルドマスターだからな。俺の名前が入った紹介状を見せりゃあ、あいつも無下にはせんだろうよ」


「なるほど、その紹介状があれば、何か装備を作ってもらえるわけですね。それは助かります」


「ええ、私も新しい武器が欲しいと思っていた所だったので、嬉しいです!」


「まぁ、流石にタダとまではいかんが、期待の新人だがらまけてやってくれとでも書いておいてやろう」

「それは、助かります。ある程度余裕が出来たとはいえ、金銭的に厳しいのは変わりありませんから」


「はは、違いねえな!まぁ、お前達には期待している。これからも頑張ってくれ」


「はい。では、失礼しました」


 グレゴリオの激励を受け、俺達は部屋を後にする。


 今回の報酬としては、銀貨1枚に加え、鍛冶屋への紹介状まで受け取った。

 暴君蝦蟇の討伐にはかなり苦戦はしたものの、俺も真帆も大きな怪我はなく、回復ポーションも殆ど消費していない。

 余ったポーションや野営道具は、これから先も使い回しができることを考えても、収支の上で大幅にプラスだろう。

 まぁ、準備が過剰だった感は否めないのも事実だが……。


「……あ、そうだ!」


 思い出したとばかりに真帆がポンと手を叩いて声を上げる。


「……うん?どうしたよ」


「どうしたも何も、打ち上げって約束だったじゃない!」


「ああ、そう言えばそうだったな。まだ酒場の営業開始まで少し時間があるし、宿に荷物を預けてから向かおうか」


「うん、そうね。あぁ、ここの所、美味しい料理を食べられてないから、すごく楽しみだわ!」


「まぁ、蝦蟇の岩戸よりはマシとは言え、節約の為に食費を削らざるを得なかったからな……」


 蝦蟇の岩戸で提供される食事よりはだいぶ質が上がっていたとは言え、ここ最近の食事と言えばもっぱら黒パンに野菜スープだ。

 いくら味はそこそことは言え、毎日こればかりでは流石に飽きがくる。

 真帆にもかなり我慢してもらっていた部分はあるので、今日くらいは奮発しても問題ないだろう。




◆◆◆



「それじゃあ、暴君蝦蟇討伐を祝して!かんぱーい!」


「おう、乾杯!」


 真帆の音頭を皮切りに、俺達はグラスを合わせる。

 キンキンに冷やされたジョッキには、並々と黄金色の麦酒エールが注がれている。

 しゅわしゅわと音を立てるそれを、味わう間もなく一気に喉へと流し込んだ。


「……っく、っく、ぷはぁっ!このために生きてると言っても過言じゃねぇな……!」


「お酒、好きなの?」


「いや、程々だよ。ただ、やっぱり疲れてる時に飲む酒は格別だな」


「ふーん、そういう感じなんだ。うちは、家族みんなお酒飲まないからなぁ」


「うーん、真夏の日差しの下で、キンキンに冷えた炭酸ジュースを飲んだ時に近いって言えば分かるか?」


「ああ、それは確かに格別かも」


 そう言うと、真帆はフライドポテトのような料理を口に放り込む。


「そういえば、真帆は何を飲んでるんだ?」


「これは、プルア果汁の炭酸割りってやつ。リンゴジュースみたいな感じ」


「……よくそんな得体のしれないメニューを頼んだな」


「いや、普通に酒場の店長さんに言ったら味見させてもらえたし」


「はぁ!?あのおっさん、俺のことはめちゃくちゃ睨んでくるくせに、JKには甘々じゃねえか!」


「経営者として、なんも注文せずに席を占領するやつと、定期的に少額でも注文してくれる人、どっちを優先するかなんてわかりきってるんじゃない?」


「え、お前、この酒場に定期的に来てんの?」


「そりゃそうでしょ。毎日黒パンと野菜スープだけなんて耐えられないじゃない?」


 あっけらかんとした様子で、そんなことを告白する真帆。

 どうやら、俺の知らないうちにこの酒場の常連になっていたらしい。


「いや、別に来るのはいいとして、どこからそんなお金が出てくるんだよ」


「そりゃあ、クエストの報酬金から」


「てめぇ!時々計算が合わないと思ったらそういう理由かよ!」


「だって、塩谷さんって極端すぎるんだもん。食費を極端に削って節約したかと思えば、暴君蝦蟇のクエストの前は、過剰すぎるくらい準備するし……」


「そりゃあ、多少食費を削っても命には関わらないけど、クエストではちょっとしたミスで命を落とす可能性だったあるからだな……」


「だから、塩谷さんは気を張りすぎなんだってば!」


 やや口調を荒げた真帆が続ける。


「なんていうか、仕事脳というか……。そんなにずっとクエストのことばっかり考えてたら、疲れちゃうだけでしょ?もう少し、自分に甘くなってもいいんじゃない?」


「自分に甘く、ねぇ……」


「という訳で、明日から一週間はクエスト中止!休養期間とします!」


「まぁ、金銭的に余裕もあるし、それは構わんが……」


 ぐい、とジョッキに残った麦酒を一気に呷る。

 確かに、異世界生活を楽しむ、なんて言いながら、結局は仕事として冒険者をやっていたのかもしれない。

 真帆の言う通り、もう少し気楽にやってもいいのかもな。


「……マスター、お替りで麦酒をもう一杯!」


「そうそう、そんな感じ!どうせ休養期間が終わったら、バリバリ働いてもらうんだから、しばらくは気楽にいきましょう!」


「まぁ、魔王討伐なんていう、大層な目標もある訳だしな……」


「それは、そうね……」


 そう呟いた真帆の表情は、どこか寂し気に見えた。


 今回は真帆に気づかされる形になったが、本当であれば俺が支えなければならないのだ。

 右も左も分からないこの世界に、見知らぬ男と一緒に放り出されて、早数週間。

 戦闘面では真帆に頼り切りになってしまうので、どうにかそれ以外の面で役に立たなければと思っていたが、それが真帆や自分自身に無理を強いる結果になっていたのかもしれない。


 俺達が転生する前のあの白い空間で、真帆は「絶対に元の世界に戻りたい」と話していた。

 元の世界に未練の無い俺と違って、何か思い残すことがあるのだ。


(ダメだ……頭が回らん……)


「ちょっと、大丈夫なの?私は先に帰るから、程々にしておいてよね」


やはり、何もかも頼り切りではいられない。

 俺がどうにかできる範囲は、多少無理をしてでもカバーしていかなければ……。

 

 ぐるぐると回る頭でそんなことを考えながら、ラビュアドネの夜は更けていく。


 ちなみに、無事酔いつぶれた俺は真帆に置いていかれ、気づくとギルドの裏路地で眠っていたのだった。


次話は明日の夜に投稿予定です。

書置きが少なくなってきたので、明日の更新は1話分になると思います。


また、少しでも面白いと思って頂ければ、評価、ブックマーク、感想等頂けると励みになります。


今後とも継続して更新していきますので、よろしくお願いします。

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