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虹色のルドベキア

作者: 大崎座庵

胃に残るアルコールの匂いで目を覚ました。酒を飲めば少しは筆が進むかと思ったが、進むのは肴をつまむ箸だけだった。


今日で仕事をやめて2週間になる。印税生活に憧れて小説家を志したはいいものの、いざ書こうとすると何も手がつかない。


飲みかけの発泡酒と、寝てる間にぐちゃぐちゃになった原稿用紙をあきらめて銀行に向かう。毎月27日、“ルドベキア給付”の日だ。


たった70年で人権意識は大きく変わった。まず貧富の差を無くすべきだとする主張から、私有財産の保持が禁止された。

押収された富は“ルドベキア給付”として、母子家庭や収入の無い世帯に分配されている。従来の生活保護では満足のいく生活の出来なかった多くの人々が、“ルドベキア給付”で人並みの生活を取り戻した。


「平等化」の波及は経済だけに留まらなかった。多様化する性的指向に合わせて性別は16種類にまで細分化され、職業差別、部落差別の懸念から住所、出身地、職業などの情報を聞くことまで禁止された。


私の祖父母の時代に大流行した、SNSと呼ばれたサービスも規制された。誰もが傷つかずに生きていける社会の実現には、言論統制が不可欠だったのだ。諸々のマスメディアは生き残ったが、“言論庁”の検閲を通過したもの以外は、報道できなくなった。


“ルドベキア給付”とか“言論庁”ができた時は批判の声も大きかったらしい。「働かない人間に生きる価値は無い」とか「真っ当な生き方をしてない人間を批判して何が悪い」とか。今となっては考えられない話だ。


私は今の社会に満足している。いや、自分が叩かれることを恐れながら他人を叩くことに躍起になっていた昔の社会が狂っていたのだ。誰も私の怠惰な生き方を非難できない。私も他人の人生に首を突っ込む必要が無い。口を閉じることを強いられた代わりに、絶対的な安寧を手に入れた。いつまでもこの綺麗な社会が続けばいいなと思う。

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