叶に望む
天野望は一卵性の双子である。
元々引っ込み思案で姉と比べると非常に大人しい子だった
一方姉は、非常にフットワークが軽く行動力の鬼だ
思いつくがまま、アッサリと色んな事をやってのける
所謂神童と言うやつだった。
そんな姉でも苦手な物はあるそれが歌とダンスだった
楽器は出来るのに何故か絶望的な音痴
対抗心で始めたわけじゃないけど
好きこそ物の上手なれ?だっけ。
私にとって歌は人生だった、歌に乗せれば
思いは素直に言葉になって緊張は力強く身体を走って
むしろ伸び伸びと私を踊らせてくれた
歌にすれば私の全てが爆発したように、音に乗り
信じられないくらいに強くなるの
まぁだから、パフォーマンス中とトークは別人ってよく言われた。
あれよあれよと駆け上り国民的アイドルにまでなっちゃった。
だけどアッサリポックリ
まぁ人って案外コロッと亡くなるものだ
母方の親戚にはそう言う人が多い、まぁ遺伝的体質なのかなぁ?
自称神様に、貴女は死にましたーと言われても
はぁそうですかー、だ。
あっ自称って言うなって?ごめんごめん。
これと言って夢があった訳じゃない
ただの自己表現の一環が偶然それで、偶然人気が出て
ラッキーで此処まで来ちゃってたの
ねーだから別にもー何も望んでないよー?
いやーそりゃ望なんて野望持ってそうな名前だけどさ
心残り?んーまぁ姉ちゃんかなぁ
昔から可愛がってくれてたけど
アイドルになってからは私の事すっごい応援してくれてたの
おんなじ顔なのに可愛いー可愛いって褒めてくれてね
一卵性なんだからビミョーにしか変わらないのにね
ファンの皆んなが私の事好きだよーって言ってくれるのも勿論嬉しいんだけどね
私やっぱりコンプレックスだったのかなぁ
姉ちゃんに褒められるのが1番嬉しかったのだからね
姉ちゃんの言う世界的スーパースター!になれなかったのはちょっと悔しいかな。
ふーん?あっ姉ちゃんもこっち来るの?
えっ?じゃあ死んじゃうってこと?
えーやだなぁ普通に幸せに老衰でポックリ大往生して欲しかった
双子の魂は扱いづらい?ふーん
くっついちゃう?あっもう手遅れミスった⁈
あーまぁ良いよ元々二人で一人みたいなものだし
私達シスコンだから問題ないよ大丈夫、大丈夫。
あっじゃあ折角なら私の良いとこ全部
そのスキルってやつで姉ちゃんにあげてよ
うん、で貴女の世界で楽しく生きる!
それなら悪くないかなぁって
私は無理だったけど、姉ちゃんなら多分
きっと貴女の世界も明るくしてくれるよ、なんせ行動力の鬼だからね。
うん、そうその子。
《スキル・夢託す者》
効果 所有者の望む相手に自分の持てる全てを託す。
対象のスキルを確認、夢継ぐ者により統合を開始。
「天野叶に、あげてね」
アザラシと兎っぽい変な生き物通称ウッサーの
出来合い衣装でこの世界での初ステージから早数年。
行く街、行く街で酒場を盛り上げ、道場破り扱いをされて
なんか知らないけど何回か大きな舞台で勝負を挑まれ
何処ぞの武道大会のようなゲリラライブをしてきた
それも慣れた頃街に押し入って来た魔物の群れを歌でメロメロにさせ撃退、でも魔物はしつこいかったむしろ街の入り口で出待ちするようになったから責任者何処だー!と
魔王にラップバトルを挑み完勝!
来るのはいいけど魔物にもちゃんとマナーを守らせてねと魔王兼保護者に約束してもらった。
最近は魔王が最前列陣取ってオタ芸をしてくれる
…教えた甲斐があったわーキレがやばい。
さて…立つ背のない勇者に適当なラブソングを歌い姫をけしかけといた、男見せんのは何も雄姿だけじゃありやせんぜっ!と
いやぁ…踊り子として勇者パーティーに入ったのが悪かったのかなまぁ良いや結果オーライ!
脈々とファンは増えている…増えてはいるんだけども
…なんか魔物もいるなぁ、まぁ平和だからいっか!
「望、見てる?どう?これ可愛い?最強?」
鏡の前でくるくると回り今日の衣装を確認する
私の推しは完璧でなきゃ気が済まない
だからこそチェックは欠かせない!のだが
ん〜?と眠そうな声が頭の中で微かな声を上げる
なんやかんやあって、こうして話せるようにはなったのだ
うん…魔王に挑んだ甲斐があったわぁ。
(あーうんいいんじゃない?可愛い可愛い)
「ねぇちょっと適当過ぎでしょ!今日はなんの為のライブか分かってんの?」
(分かってるよ〜もー今更ジタバタしても仕方ないじゃーん)
「最善は尽くすべきでしょ!」
(いっつも、それじゃ疲れちゃうじゃんたまには気抜いてこーよ、案外ギャップになるかもよ〜)
そんな感じにゆる〜い返事しかしない望のいつも通りさに
私は逆に冷静さを取り戻した。
まぁそうだ焦ってもしょうがない
でもこれだけは言っとこう。
「ねぇ今日のライブのお客さんは竜神なんだよ?
気にいられれば、なんだってお願い事叶えてくれるんだよ?」
(えー神様って言ってもねぇ)
「もー!もうちょいガツガツ行こうよ!
上手くいけば望と私二人に戻れるんだよ⁈嬉しくないの⁈」
(うーんそれは、そっちの方が楽しいかもだけど
今と大差ないと思うよ〜?それに)
「それになによ?」
(自称神に、期待しちゃいけないと思う)
「…ん、それは…同意」
竜神の接待の為の手に汗握るライブの後
叶と望は無事二人に戻ったのだった
その後、お祝いもそこそこに
叶は面倒がる望を半ば無理矢理引き連れ布教活動に奮闘したとか…しないとか。
そして元凶の自称神に半ば無理矢理連れられて異世界ライブツアーをしたのはまた別の話。