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犬を連れた少年


あの島にはセイレーンがいる。

昔からそんな伝説があった、でもそれは風の音が

歌に聞こえるだけだってのが夢のないよくある現実。


ところが最近船乗りの間でこんな噂が流れ出した

普段から人っ子一人寄り付かない凍り付いた孤島の

あの島から歌が聞こえる、その歌はうっとりする程美しい。


大人達は言う、あれは魔物に違いない、遥か昔島流しにされた罪人の怨念だ、いやあの島には昔幽閉された姫がいたらしい

そんな事を誠しやかに言うものだから、何がなんだかごっちゃで本当のところ誰にも分からない。



だけど話の締めが怖くて危険なのは全部一緒だから行っちゃいけません。

だけどだからこそ興味がそそられてしまう、

怖い怖いだけど気になるあの向かう煌めく海を渡ってみたい。


あの島へ行ってみたい

今、僕の胸にはそんな夢が高鳴る鼓動と共に詰まっていた。


チャンスはいつだっていきなり来るもんだ

それが指からすり抜けるかは自分次第だって親父は言う

だからいつだって食らいつけってね


そうその日が僕は今日だったのだ

天気は最高、海は凍りつき分厚い氷を張った

これはどう見てもチャンスでしょ?


僕は愛犬達にソリを引いて貰い全速力で島へと向かった。





島に近づくにつれて

昔話の通り、風の音が確かに歌っている様にも聞こえる

少し不気味だけどこのくらいは大した事じゃない。


すっかり氷に埋まった砂浜が透けて見える

その下には貝殻やら大昔に流れ着いてきたものなのか

変わった形の金属製の何かが埋まっている

取り出せそうにはないけど金塊やらも埋まっていて

冒険!って感じでワクワクする。



僕はすっかり冒険気分に火がつき

愛犬達と我が物顔で島を探検し走り回った。


シロンはウーサを追いかけ回し狩りごっこを始めるし

クロンは雪遊びに夢中だ、サラサラの雪がふわふわの毛に乗っては落ちてそこだけ吹雪いてる。

アーサーは我関せずと難しい顔をしてジッと僕達を見ているし

バロンはキョロキョロと周りを警戒している。

…流石は親父に躾けられただけあってしっかりしている。




暫くすると、何処からか微かに声が聞こえてきた。



その声はさっきの風の歌とは明らかに違う。

張りのある力強い…抑揚のハッキリとした声!

風じゃない!


走り出した僕の後を追って

シロンとクロンがキャッキャと楽しそうに無邪気に横に並び

アーサーとバロンが唸りながら僕の前後につく

…この温度差に吹き出しつつ僕はがむしゃらに走った。



その先には、一人の女の子が立っていた。



全身真っ白の服は、見た事ないような奇抜そのもの

ファーの付いたポンチョ、短いスカート

やたらとカッコいいゴッツいブーツ。


そして目を引く夕日色の赤い髪

その目は力強くギラギラと不敵に笑っている

明らかに不審なのに


「…可愛い」

「知ってる」


ふふっと満開の笑みでその女の子は答えた

そこそこの距離があるのに鈴の鳴る様な声がしっかりと僕の耳に届いた。



「貴方が最初のお客さんね」


ニッコリと彼女はそう言うとハープにも似た弦楽器で

ハープにしては派手な音を軽快なリズムで掻き鳴らす

獰猛な猛獣のように、生き生きとした猫のように

伸びやかな歌声が楽器に負けず響く。


その声は体の芯に響いて、ゾクゾクとするような高揚感を持っていた、あぁなんだろうこの衝動は!


酷く楽しそうに力強く自信満々っ!に歌う彼女に釣られそう

世界で一番輝いているのは私は!って言ってるような

のくせ、子猫みたいな表情を見せる不思議な感じ

けして甘い声じゃない、のに『可愛い』がそこにある。



所々知らない言葉が混じるのに、苦じゃない

その声色表情に乗せられるこれは何⁈








私は歌う。

あの子の代わりに歌うの、懐かしのデビュー曲

それは冒険前夜の眠れない夜の歌。


なんか知らないけどいきなり現れた男の子丁度良い!

私のステージに付き合って貰おうか!


あの子は私の世界の半分だった、大好きなあの子

もう居ないあの子それでも私の内には歌っていう

言葉が残ってるなぞるように、その言葉を辿るの

それにこの歌は今の私にはぴったりだから。


これから飛び出す世界に挑戦状はいらない

ラブレターもいらない、必要なのは勇気だけ

信じ続けて此処に立ち続ける事それだけ。


大好きな声が何処までも響いて

跳ね踊る指先は今此処にあって、もう此処にしかない

悔しいも寂しいも飲み込んで、笑ってたい

今はただ、この歌を私の脳裏に焼きついた記憶のままに発したい。



何よりも熱いあの輝きをなんかどっか切なくなるような

あの愛しさを忘れたくないから、ばら撒くの。



私の中でまで、死なせない

今生きて!この世界で本当の本当に輝いて

誰もが知ってるあの子になろう、そしたらきっと

皆んなの記憶の中であの子は生き続けるから


それってファン冥利につきない?

そんで、誰かの生き甲斐になれたら私的に万々歳

だってその幸せを知ってるもん。


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