~導入④~ アースラに転生。そして・・・
アスクレピオスから放たれたであろう閃光が収まり、視界がようやく回復した時。
俺は見たことの無い景色の場所に立っていた。
恐らくアースラなのだろう。しかし、おかしな点が1つ。
「ここ、人が住める様な場所じゃないぞ……」
そう。俺が立っていたのは周りには木がうっそうと茂る、森だからだ。
「これじゃあアースラに転生したかも分からんぞ……」
「あ、それなら大丈夫ですよ。ここは間違いなくアースラですから」
「人も居ないのにアースラなんて分かるわけ……ん?」
俺一人しか居ないはずなのに会話になっていた。しかもどこか聞いたことのある声……。
声の方向を振り返ると一人の女性がヒラヒラと手を振っていた。
「アスクレピオス!?なんでここに!?」
俺は思わず叫んだ。天界で別れたと思ったアスクレピオスがそこに居たからだ。
「いくらスキルを渡したとしても、いきなり別世界に飛ばされて不安だと思いましたからね。私も来ちゃいました。」
アスクレピオスはあっけらかんと言い放った。
「そんな事して大丈夫なのか?天界の仕事もあるだろ?」
俺がそう言うと、アスクレピオスはこっちに来る前に渡したカバンを指さし、こう言った。
「問題ありませんよ。そのカバンに収納されてる診療所は天界へも繋がっていますから何かあれば戻ること出来ますし。」
おいおい……聞いてないぞそんな事……
そんな事を内心思う俺だったが、深く考える事があまり得意ではないので、(そんなもんか)で納得する事にした。
「ここがアースラなのは理解できたが、何でこんな森に転移させたんだ?」
そう俺が聞くと、アスクレピオスは
「いきなり町のど真ん中に人が現れたら騒動にしかなりませんからね。それに、アースラは様々な種族が生きる世界です。人間に対して良くない感情を持つ種族も居るでしょうし一つの防衛手段です。」
と森に転生させた理由を話した。
続けて、アスクレピオスは
「それと、貴方にはここに住まうエルフの皆さんを治療して欲しいのです。」
と、森に転生させたもう一つの理由を明かした。
エルフなんておとぎ話の存在だと思っていた俺は
「エルフねえ・・・。見たこともないから何とも言えないけど、何かの病気なのか?」
とエルフの存在に半信半疑になりながらも、何かしらの病気にかかっていると判断した俺はそう聞いた。
その問いにアスクレピオスは
「それは、私にもわかりません。幾ら神とは言え、世界の全てを見渡せるわけではないので」
と申し訳なさそうに答えた。
「ですが、エルフたちが住む森の目印は分かるので案内はできると思います。」
「まあ、いいか。どんな病でもアスクレピオスからもらったスキルで何とかなんだろ。とりあえず、その森まで案内お願いな。」
「はい、あ。念のため自衛手段でこれを」
そう言うとアスクレピオスは俺にとって見慣れた物を差し出した。
「ん!?これ、向こうの世界で自衛手段で持ってたマグナム(ハンドガン)じゃないか!何でアスクレピオスが持ってるんだ?」
紛争地域で事に当たることがい多い俺たちは、自衛手段をいくつか持つことが多い。
俺は、整備のしやすさと見た目、それと好きなアニメキャラが使っていた事から、(M19コンバットマグナム)を愛用している。アスクレピオスは俺が死ぬ間際に、自衛のため、銃も転生させていたのだ。(無機物に転生は当てはまるのか疑問だが)
「この世界も決して治安の良い世界ではありませんし、もしものためを思って持ってきておきました。」
アスクレピオスはそう言って俺に銃を渡した。
愛用の銃を腰に提げ、森を歩きだし少しすると、不意に隣の草むらがガサガサっと不自然な揺れ方をした。
とっさに俺は、ホルスターから銃を抜き、動いた草むらのほうに銃口を向けた。
すると、血まみれの女性が草むらから這い出てきた。
「うう、た、助けて・・・」
女性は俺たちに助けを求めている様子だった。
勿論見過ごすことはしない俺は、銃を下げ、走ってその女性のもとへ駆け寄った。
「おい!大丈夫か!!。ひでえケガだ。出血の様子から見ると、動脈が切れてるかもしれん・・・。緊急オペしないと手遅れになるな。」
そう言うと、女性に淡い光が見えた。その光は、やがて小さくなり、あるところで止まった。
「おい、アスクレピオス、この光ってスキルか?」
「はい、光が見えたのでしたら、病巣透過が発動したのでしょう。ケガなどでも原因を透過するスキルですし」
「なるほど、つまりここの血管が切れたのか、この位置は頸動脈かもしれん・・・急ぎオペだ!!」
そう言うと俺は、アスクレピオスから貰った鞄を開いた。その瞬間、眩い光と共に小さな診療所が現れた。
「何かドラマとかに出てきそうな外観だな・・・。っと、こんな事言ってる場合じゃねえ!急ぎ患者を手術室へ!!出血量がひどいから輸血も必要だろうが、この女性。人間ではなさそうだな。」
俺は、ストレッチャーに乗せた女性を運びながらそう言った。女性は見た目こそ人間だ。一点(耳の形)を除けば。
「なあ、この人って・・・。もしかしてエルフか?」
俺がそう言うとアスクレピオスは
「間違いないです。この身体的特徴はエルフですね。あ、血液ならエルフ用の輸血もあるのでご心配なく」
「それを聞いて一安心!さあて、最初の患者さんを治すとしますか!」
俺はそう言ってストレッチャーと共に処置室へなだれ込んでいった。
お待たせしました!次回から異世界医療の本編が始まっていきますのでご期待ください!