~導入②~死後の世界と女神アスクレピオス
「もし、もしもし。起きてください……」
聞いた事のない女性の声が俺の耳に届いた。
その声により、段々と意識が覚醒していき重かった瞼がゆっくりと開き始めた。
「う、うぅぅ」
俺は、ゆっくりと瞬きをしゆっくりと呼吸をした。
すると、ぼやけていた視界がクリアになり自分を心配そうに覗き込む綺麗な女性が映った。
「あぁ、目覚めたんですね。良かったぁ……」
心配そうに見ていた女性はほっと胸をなでおろし、まるで聖母のような微笑みを俺に向けた。
そして、少ししてから悲しげな顔で
「ここは天界です。貴方は、残念ですが先程の銃撃で命を落とされました」
と、俺が今居る場所と死んだ事を告げた。
職業柄、生命と向き合っており、尚且つ紛争地域と言ういつ死んでもおかしくは無い環境にいた俺は
「そっか……俺は死んだのか。そうだ、あの時一緒に組んでた仲間達は?」
とすんなりと死んだ事を受け入れ、仲間達の安否を気遣った。
「随分アッサリですね……。」と唖然とした様子の彼女だったが、仲間達は今、俺の意思を継いで人々を助けている事を教えてくれた。それを聞くと安心した俺は、ホッとした表情を浮かべ、その後彼女の事を聞くことにした。
「俺が死んだのは分かった。ところで、貴女は誰なんだ?見た所俺の知り合いとかでも無さそうだが……」
その問に彼女は自己紹介を忘れていた事に気付いたのか、慌てて襟元を正して自己紹介を始めた。
「私は医術の神、アスクレピオスと申します。ここは、現世で沢山の善行を積んだ者の魂が導かれる場所。現世で言うなら天国ですかね。」
と自身の名前、ここの事を詳しく教えてくれた。
彼女の名前を知った俺だが1つ腑に落ちない事があった。せっかくなのでそれを聞いてみる事にした。
「貴女のことは分かったが、何で俺が天国に来れるんだ?お世辞にも坊さんじゃあるまいしそこまで善行してたつもりはないぞ?」
そう言うと、アスクレピオスはフフっと笑い。
「貴方は危険を顧みず、紛争地域で沢山の命を救っています。それを善行と判断せずどうしますか。」と言った。
「いや、医者として患者がいれば手を差し伸べて救える命は救うだけだろ。それが医者としての矜恃だよ。」
自分の行いを褒められた俺は頬をかきながらそう答えた。
その後、俺は今後どうなるのか聞くとアスクレピオスは
「貴方には、その善行を讃え、異世界に転生して頂きます。新たな人生をその世界で生き抜いていただきます。」と俺の今後を話した。
「本当に生きるだけ?なんかあるの?」
と聞くと、アスクレピオスは待ってましたとばかりに黒革の大きなカバンを取り出した。
(何でスカートの中にあったのかは謎だが)
「このカバンは、私特製の医療の全てが詰め込まれたカバンになります。貴方はこれを持って「アースラ」と言う国に転生して頂き、苦しむ人を助けて欲しいんです。」
と言い、俺にそのカバンを差し出した。
「医療の全てってどんくらいよ?」
「診療所がマルっと収納されてます。診療所と言っても外観だけで中身は検査機器から臓器移植まで可能な設備が一通り揃ってます。」
「何そのぶっ飛んだカバン。臓器移植って相当ハイレベルな病院じゃ無きゃ認可降りないのに……」
「そこは、伊達に医術の神やってる訳ではありませんし」と言ってアスクレピオスはドヤ顔と共に胸を張った。
「それと、このカバンだけでなく、貴方にはスキルを私から授けましょう。」と言うと、アスクレピオスは自身の手を俺の胸に置いた。
その瞬間、体全体が暖まるような感覚に襲われた。