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ショートショート6月~

弁当の神様

作者: たかさば

毎日食べる、弁当がまずい。


俺んちの両親は共働きでね。

朝お弁当ってやつを作る暇がないんだよ。

そもそも夜勤でいないことが多いし。


毎日500円置いてってくれるんだけどさ、それは小遣いにしたいって言うか。

幸い、米やらたまごやらは、自由に使っていいといわれていた。

小学生のときの調理実習はそんなに嫌いじゃなかった。


できるだろうと、たかをくくって今、五月。


相変わらず、まずい。

何がいけないんだ。


白いご飯にふりかけ。

焼いた卵に、焼いた肉。

俺はみすぼらしい弁当を教室で食べるのがいやだった。


弁当の時間になると、旧校舎横の、誰も来ない屋根つきベンチまで行き、そこで食べた。


「相変わらずまずいなあ…。」

「まずいとか、いいなや。」


まずい弁当箱から、女子が出てきた。


「あんただれ。」

「弁当の神様。」


こいつ食えるのか?

箸で鼻をつまむ。


「うちを食うでない!!」

「いや弁当って言うから。」


どうやら食えないらしい。


「あんま弁当にまずいといってはいかん。」

「まずいからしゃーない。」


仕方無しに食ってるけどさ。


「傷つくやんな。」

「マジかそりゃすまん。」


謝り損だ。まずいし。


「うまいといってやれんかね。」

「うまいです。」


まずいけど言ってみる。


「よし。くってみれ。」


ご飯をパクリ。

…ん?


「ちょっと美味くなってるような?」

「ほれみたことか!!!」


がつがつと、残りの飯を食らう。

食い終わると、弁当の神様はいなくなっていた。


次の日も、作った弁当をもって、旧校舎横の誰も来ない屋根つきベンチまで行った。


今日は少しだけいつもと違うものを作ってみた。

炒り卵をご飯の上に広げて、その上にたれを絡めて焼いた肉をのせてきた。


弁当のふたを開けると、女子が出てきた。

思わず鼻を箸でつまむ。


「うちは食えんといっとるやんな?」

「いやつまんでおかないとだめかと思って。」


やっぱり食ったらだめらしい。


「今日は美味そうやな。」

「食ってみないと分からないな。」


ぱくり。


「うん、うまいな。」

「それは重畳。」


もしゃ、もしゃ。


「これはうまいわ。」


もっしゃ、もっしゃ。


夢中になって食べるくらい、美味くなった。

美味いというだけで、この効果。

食い終わると、弁当の神様はいなくなっていた。


俺は弁当作りに力が入るようになった。


次の日も、作った弁当をもって、旧校舎横の誰も来ない屋根つきベンチまで行った。


昨日とは違うものを弁当の神様に見せようとがんばって作った。

ご飯の上に肉そぼろをぎっしりのせて、ゆで卵をトッピング。


弁当のふたを開けると、女子が出てきた。

すかさず鼻を箸でつまむ。


「うちは食えんというておろうに!」

「弁当の神様って言うくらいだから、どうしても食べてみたくてね。」


「どうしても食いたいと申すかね。」

「できれば食いたいけどね。」


「ふうむ、では少々時間をくれ。」

「私を食わせるわけには行くまいが、美味いもんを食わせることはできるやで。」


「神様よりも美味いの?」

「うちは食ってもそんなにうまないわ!!!」


ぷんぷんしている。

かわいいじゃないか。


「今日のもまた美味そうにできておるのう!」

「食べてみないと分からないな。」


ぱくり。


「うん、うまいな。」

「それはそれは。」


もしゃ、もしゃ。


「かなりうまいわ。」


もっしゃ、もっしゃ。


夢中になって食べる。

食い終わると、弁当の神様はいなくなっていた。


次の日も、作った弁当をもって、旧校舎横の誰も来ない屋根つきベンチまで行った。

昨日とは違うものを弁当の神様に見せようとがんばって作った。

卵チャーハンに、ハンバーグ。かなりの自信作だ。


弁当のふたを開けたが、女子は出てこなかった。

そうか、そういえばしばし待てといっていたな。


「こんなに美味そうなのに、なんてこった。」


ぱくり。


「うん、うまいな。」


もしゃ、もしゃ。


「そうとううまいわ。」


もっしゃ、もっしゃ。


夢中になって食べる。

そんな日が、しばらく続いた。



ある日、俺はいつものように旧校舎横の誰も来ない屋根つきベンチまで行った。


すると、誰かがいる。

いつものベンチに座ると、見かけない女子が僕の横に腰掛けて。


ぶに。

俺の鼻を箸でつまんだ。


「食ってもいい?」

「俺は食べ物じゃないよ。」


俺は、弁当のふたを開けた。

毎日弁当を作って俺の腕は格段に上がった。


弁当のふたを開ける。


女子が弁当を覗き込んだ。

今日のメニューは、チーズオムレツにから揚げ、ほうれん草グラタン。


「めっちゃうまそうやな!!」

「美味いよ、俺の弁当は。」

「うちの弁当を出す勇気が、出なんだ…。」


女子が、弁当のふたを開けるのを戸惑っている。


「美味いって言ったら、おいしくなるって教えててくれた子がいたよ。」

「おいしいって、言ってくれるのかや。」

「ふたを開けてくれたらね。」


弁当のふたが開いた。


海苔のしいてあるご飯、ああ下におかかが入ってるみたいだ。

卵焼きに、魚の塩焼き、昆布の佃煮。


「うまそうだな!!」

「たべてみるかい。」

「もちろん。」


俺は女子の鼻を箸でつまんだ。


「うちではない!!!」

「ああ、まちがえた、ごめんごめん。」


お互いの弁当を、つまみつまみ、一緒に食べる。


「うまいな!!」

「うまいな!!」


二人で食べる弁当は、格別においしかった。




それから何度も何度も弁当を一緒に食べ。


何度も何度も一緒に弁当を作り。



俺は今日、ひとりで弁当を作って、やってきた。

炒り卵と、そぼろご飯の、二色弁当。



愛する妻の、眠る場所。


そっと、弁当のふたをあける。




女子が、出て、来た。




「うまそうやな。」

「うまいよ。」


「しっておる。」

「一緒に、食うか。」



俺は、箸で、女子の鼻をつまもうと。



伸ばした手は、女子の鼻には届かず。



「一緒に、食べようか。」

「一緒に、食べよう。」



ずいぶん身軽になった俺は。


にっこり笑う女子の手を取り。




仲良く手をつないで、弁当を抱えて、空に上った。

こちらの作品は連載中の「恋をしてみないかい」https://ncode.syosetu.com/n6305gi/

にも掲載しています。


ちょっとせつない、普通の人と普通じゃない人との恋のお話をまとめました。ぜひご覧下さい。


新作あります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいはなしだなー!!!!! たまにこういうのが来るから止められない止まらない。 [気になる点] 弁当作る相手いねぇ [一言] 炒り卵めっちゃうまそう
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