冒険の始まり
その日は外に雨が降っていた。 少年は病室のベッドの傍らで、病気で今にも息絶えようとしている母を前に、ただひたすら俯いていた。 弱った母から目を背けようとしていた。
チクタクチクタクと時計の針が音を響かせる。 それに共鳴するかのように心臓が鼓動する。 とても嫌な感覚だ。 時間の流れという逆らえないものを迎合しているようでむかむかする。
ふと、頭をあげてみる。 目の前には、寿命という灯火がいまにも消えようとしている母の姿がある。 その時、窓に何かがぶつかった。 鳥だ。 鳥は窓にぶつかり、地面に落ちた。 さっきまで雨の中であっても、空を自由に力強く飛んでいた鳥は、もう地面から動けなくなっていた。
その日のうちに母は息を引き取った。 少年の父も、少年が小さい頃に病気で死んだ。 少年は兄弟もいなかったため、少年は1人になった。
家に帰り、ずっと頭がぼやけていた。 なにも考えたくなかった。 ただひたすらぼーっとしたかった。 だからであろうか、家のインターホンが鳴っていることにしばらくの間気がつかなかった。
少年は来客を家の中に招いた。 来客は父親の友人だそうだ。
「母親が死んで辛いだろうが、一つ、お前さんに話がある。 お前さんの父親から託されたことだ。 話していいか?」
「はい」
「お前さんの父親は母親と結婚する前までは冒険者だった。 伝説の地・アトラムを目指しているとよく言っていたよ。 この世界にある12の島にあるそれぞれの遺跡を制覇し、12のパーツを手に入れたものがその伝説の地・アトラムに行けるそうだ」
「伝説の地って何ですか?」
「すまねぇが、俺はあまり詳しくないんだ。 ただ、お前さんの父親から頼まれていてね、母親が死んだ時にこのリングを渡して欲しいということだ。 このリングには聖獣の力が宿っているらしい。 そして、遺跡の12のパーツをこのリングに埋めたものが伝説の地への道しるべが分かるらしい」
そのリングには既に2つのパーツが埋められていた。 父が集めたのであろうか。 にわかには信じがたい話であったが、不思議と、この父の友達は嘘を言っているようには見えなかった。
「ありがとうございます」
「それじゃ、俺はこれで失礼するよ。 お前さんも父親のように冒険者になるかどうかはお前さん次第だ」
そういって、父の友達は帰っていった。
父の友達が帰ったあと、ひたすらそのリングを眺めていた。 リングは灼熱の炎の色をしていて、不思議な魅力を放っていた。 リングはまあまあ大きく、首からぶら下げるための紐がついていた。
少年はなんとなく、そのリングを首にぶら下げた。 その瞬間だ。 リングが光り、熱くなる。 目を瞑り、数秒して、目を開ける。 するとそこには、羽の生えた、とても小さなドラゴンのような動物がいた。
少年は驚いたが、更に驚くことがあった。なんと、その動物は喋ったのであった。
「オラは炎の聖獣だ。 少年、君の名前は?」
「お、俺の名前はルーク。 君はいったい何なんだ?」
「言ったろ、炎の聖獣だ。 ルーク、君が次のオラの主人だな。 とりあえず、ルークに炎の力をリンクさせよう」
何がなんだか分からなかったが、体になにか力が宿るのがしっかりと感じられた。
「ルーク、伝説の地・アトラムは知っているか?」
「いや、知らない」
「じゃあ、オラはルークにこれから伝説の地・アトラム、そしてこの冒険について話そう」
いつのまにか、空は晴れようとしていた。