第9話 異世界
「私が先に入りますので、30秒開けてから入ってくださいね」
「わかりました」
今俺達は異世界へ繋がる扉の前に立っていた。
服は二人とも脱いで脱衣所に設置されているロッカーに入れている。
全裸というわけではないが、バスタオル一枚を巻いている状態だ。
役得とだけ言っておこう。
リーシャさんが扉を開け入っていく。
扉の向こうは真っ暗で何も見えない。
はらりとバスタオルだけがそこに落ちて、リーシャさんの姿は消える。
「今入れば……」
考えるだけなら許されるので途中で言葉を切る。
きっちり30秒数えた俺を褒めてやりたい。
扉をくぐり暗闇に向かって足を踏み入れる。
通り抜けると薄暗い部屋の中に出た。
「ここが……」
異世界に来たというような明確な感覚はない。
部屋の中は、現代で見なくはない古い木造の建物だ。
「来ましたね。野村さんから見て右手の更衣室をお使いください」
今立っていいるところから見て右側と左側に布で覆われた、簡易的な更衣室がある。
「わかりました」
指示通りに右側の更衣室に入る。
距離が近いためか、リーシャさんの着替える布が擦れる音が聞こえる。
更衣室の中に用意されていたのは意外にも、立派な制服だった。
「先に外にてでいますので着替え終わったらきて下さいね!」
リーシャさんはもう着替え終わったようだ。
「わかりました!」
待たせるのも悪いので、素早く着替える。
更衣室の布をめくり、扉から外へ一歩踏み出す。
「ふふっ! 似合ってますよ!」
「ありがとうございます!」
一応俺も魔王軍の所属らしく、黒を基調とした白のラインが入った制服に身を包む。
「リーシャさんも雰囲気変わりましたね」
リーシャさんは俺とは少し違った色合いで、黒の生地に赤いラインと装飾品がついていた。
軍人のお姉さんといった感じで、地球にいるときのキャリアウーマンぽさとはまた違った雰囲気を出していた。
それに耳が尖っておりエルフぽかった。
「ふふっ! ありがとうございます!」
出てきた小屋の戸締りをしっかりとし、お互いに服装の乱れがないかチェックしあって出発する。
異世界らしいと言えばいいのか、スタートは森の中だった。
「村は近いんですか?」
「ええ。歩いて五分程度でつきますよ」
それほど森の奥深くに小屋を建てたわけではないようだ。
「さっきの小屋見つかったら大変なのでは?」
「はい。なので魔法でセキュリティ強化していますよ!」
「セキュリティ強化?」
「認識疎外の魔法から、封印の魔法までかけておきました」
「先ほどの戸締りの間にそんなことをしていたんですね」
「はい。簡易的にはなってしまいますが」
とりあえず心配はないようだ。
「ここを出たら村が見えますよ!」
リーシャさんがその姿とは裏腹に小走りで森を抜ける。
俺も後を追いかけて森を抜ける。
「ようこそ異世界へ!」
抜けた先にはリーシャさんが待っており、両手を広げてくるっと一回転をする。
その後ろには少し遠くに見える村と、草原が広がっていた。
やっと異世界突入。
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