第4話 会社
「か、海外!」
「ああ」
「海外ってあの海外!?」
「そうだあの海外だ」
愛実がアワアワしている。
「先輩大丈夫なんでか! 言葉は通じるんですか!」
「通訳が来てくれるらしい」
「通訳?」
「これ以上は社外秘らしいから聞かないでくれ」
「社外秘? まさか海外に就職するんですか!?」
「そうだ」
「せ、先輩がグローバルで金髪美女が好みだったなんて!」
金髪が好きとも言っていないし、黒髪も好きなのだが。
何に絶望しているのかわからないが、愛実はぐったりと項垂れた。
「いつからですか?」
「ん?」
「いつ海外にいっちゃうんですか?」
「まだまだ先だな。いつとは決まってないけどまだ入社できるかもわからないし」
「そうですか」
その後の愛実は少し元気が無いような感じだったが、気になるほどではなかった。
会社の愚痴や同期が結婚したなどの話を聞き、愛実は今の会社で満足していることがわかった。
部署が違うと待遇も違うようで、愛実のところは残業もほとんどなく、上司のリーダーシップは頼りがいのあるもので凄いということだった。
家のベッドで横になりつつ思う。
俺も愛実と同じように部署異動があったなら……
今さら考えても仕方ないので、落ち込んだ気持から逃げるように夢の中へ逃げ込んだ。
翌週派遣会社から連絡があり、無事採用が決まったようだ。
中途採用なので、プロジェクトリーダーとしての研修をするようだ。
まだ決まりということではないらしいが、結構期待されていることに嬉しくなった。
担当者と話をして、早速来月からの入社となった。
また服装はスーツではなく、カジュアルなものでいいらしい。
海外派遣とはいえ、三年働けば日本に帰ってこれるので後悔はしていない……まだ始まってもいないが。
月日が経ち、ついに初出社の日になった。
「これでいいかな」
スーツではないとはいえ、身だしなみを整える。
モーニングコーヒーを飲み干し家から出る。
電車とバスを乗り継ぎ五十分ほどかけて会社に到着する。
正面から自動ドアをくぐり、インターホンを押して会社の人を呼び出す。
面接の日と同じようにリーシャさんが下りてきた。
「おはようございます野村さん!」
「リーシャさんおはようございます!」
お互いに挨拶を交わす。
「それでは行きましょうか」
「はい」
リーシャさんに案内されオフィスの中に入る。
「朝礼の時に挨拶をお願いしますね」
「わかりました」
今日から新しい会社での仕事が始まると思うとワクワクする。
緊張がいい高揚感を生み感覚が研ぎ澄まされる。
「ん?」
「どうかしました?」
一瞬リーシャさんの耳が尖っているように見えたが見間違いのようだ。
「いえ、なんでもありません」
「ふふっ!」
リーシャさんが優しく微笑んだ。
「そんなに緊張なされなくて大丈夫ですよ?」
「はい。ありがとうございます」
そんなことを話しているうちに朝礼が始まった。