第12話 夜の宴
「初めましてみやびさん! サキュバスのリリーと言います!」
「あ、ああよろしく」
いきなり腕に絡みついてきたのでびっくりする。
「飲んでますか~」
「大分酔っぱらってるみたいだね」
夜になると、俺の紹介を兼ねた歓迎の宴を開いてくれた。
快く受け入れてくれたのでとても気持ちよく仕事ができそうだ。
「ふへへ~」
半分はもう意識がないように見える。
「野村さん大変そうですね」
「リーシャさん」
火の向こう側からリーシャさんがやってきて、リリーとは反対の場所へ座る。
「リリーちゃんは王都にお兄ちゃんがいるんですよ」
「へ~。一緒には行かなかったんですか?」
リリーは少女といった見た目である。一人で置いていくのは不自然に感じた。
「これでもリリーは二十歳を越えてますよ?」
「えっ!」
見た目にはそうは見えない。
「結婚してるんですか?」
リーシャさんは首を振る。
「いいえ、この村に両親のお墓があるので……」
「なるほど」
それでも家族と離れることを選ぶのは辛いだろう。
個人の事情に踏み入るのはよくないと思い、これ以上は聞かなかった。
「そえれにしても、くっつきすぎじゃないですか!」
「リーシャさん酔ってます?」
リーシャさんの顔が赤い。
「酔ってませんよ~!」
ちょっとだけ呂律がおかしい。
「野村さんグラスが空いてますよ~」
リリーがお酒を注いでくれる。
ふと森の方に人影をみた。
「あれは」
「ほら飲んで~」
「ちょっとごめん! トイレ!」
「飲みすぎちゃいましたか~」
「お気をつけて」
リリーとリーシャさんの元を急いで離れ、森の人影を追う。
しばらくすると、開けた場所にでた。
「これは」
事前に話は聞いていたが、村の近くにあるダンジョンだろう。
洞窟らしき入口があった。
洞窟の入口付近にその人影が立っていた。
人影が月明かりに照らされながらダンジョンの壁に手を当てている。
すると、手の部分から光はじめ人影の全身を包む。
「やっぱり、アデル!」
その人影はアデルだった。
少し苦しそうな顔をしながらダンジョンの壁から手を放すと、同時に光も収まった。
「アデル!」
魔王の妹は膝から崩れ落ちた。
俺は慌てて駆け寄り体を支える。
「お主……見ておったのか」
少し息が苦しそうにしゃべる。
「何やってたんだよ!」
「いいか? このことは絶対に秘密だぞ?」
「何が秘密なのかわからないぞ!」
「わからなくてもよい。皆の幸せのためだ」
「話す気はないか……なぁ俺がこの村を繁栄させたら今みたいなことはやらなくて済むのか?」
アデルは驚いたように目を見開いた。
「お主何を知っている?」
「何も知らないさ。ただアデルが苦しそうにダンジョンに手を当てていて、俺はそのダンジョンを救わなければならないってことだけだ」
「お主。勘が良すぎるぞ!」
「アデルは人が良すぎるな!」
二人の間に一瞬沈黙が流れる。
「ぷっ! ハハハハハハハハッ!」
「よかった、大丈夫みたいだな」
苦しそうだったのが、今は笑う余裕が出てきたらしい。
「期待しておるぞ!」
「任せておけ!」
細かい事情はわからないが、俺はこのダンジョン改革を絶対に成功させると誓った。
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