第1話 転職
「これからどうすっかな……」
野村 雅29歳現在無職。
所謂ニートというやつだろう。
といっても先日まで仕事はしていた。大学卒業後働いていた会社を辞めたのだ。
やめた理由は残業が多すぎるし、人間関係も上手くいかなかった。
給料はそれなりに高いが、精神がゴリゴリ削られていく。
役職が上がっても労働時間は変わらず、複数人で残業するのが当たり前な会社が嫌になってしまった。
世間ではこういうのを根性がないと言うのだろうか。
貯金が結構あるのでしばらくは大丈夫だが、今度の仕事は給料は下がってもいいから残業がないところと決めていた。
「公務員……無理か」
定時で帰れる職のイメージとして役所が思い浮かんだが、確か試験を受けるのに年齢制限があったはずだ。
「とりあえずゆっくり休むか」
彼女もいない俺は家でストレス発散のために趣味のゲームをやることにした。
次の日、流石に就職先を見つけずに辞めてしまったことを後悔しながら、転職サイトを眺めていた。
「海外派遣会社……」
その中で海外への派遣を行っている職が目に留まった。
「3年勤務のあとは、日本の本社と海外支社で選べるのか」
注意書きに社外秘の機密情報を扱うので正社員のみの採用となっていて、派遣されたあとの仕事内容はトータルアドバイザーとなっている。
「こんな求人初めてみたな」
海外勤務はハードルが高い上、未経験の人は試験期間がありその間にスキルを身に着けるようだ。
「身寄りもないし丁度いいかもな」
俺は母親の女手一つで育てられ、その母も病気で亡くしてしまった。
兄弟もなく、父など一度も会ったことがない。
半ばやけっぱちだが興味が湧いたというのは本当なので話だけでも聞きたいと思い、履歴書を作成し応募してみる。
「これでよし!」
小一時間で作成を完了して応募しておく。
WEB上での応募だからだろうか意外と早く返信がきて、後日面接をすることになった。
「対応が早いな」
これをどうとらえるべきか。
対応の早い優秀な会社なのか、人材不足による早さなのか。
ここで辞めた会社の後輩から連絡がくる。
新人教育の時に面倒を見た後輩で、結構なついてくれている可愛いやつだ。
メールで会社を辞めたことを何故言ってくれなかったのか、話がしたいという内容が来ていた。
「流石に言うべきだったか?」
会社を辞めるとき、最低限の人にしか言っていなかった。
今は部署が違う後輩が知らないのも無理はなかった。
「週末ならいいぞ……と」
明日は面接のため、週末に会う約束をした。