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異世界人生四苦八苦  作者: yappoi
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第5話 少女とハリネズミ

血で深紅色に染まった地面。

その上には青年の死体が転がっていた。

鋭利なもので腹部を横一線に切り裂かれ、見るも無残な姿であった。

死んでから時間が経っているのか、青年の死体には蟲が(たか)り、異臭を放っていた。

普通ならば冒険者や行商人が発見し、その亡骸を手厚く弔われるのだが、不幸な事にこの辺境の地に訪れる者は少ない。

ましてや、超特異指定モンスターである『殺人ネズミ』のナワバリともなると近づくものは皆無だろう。


特異指定モンスターとは、突飛した攻撃力や残忍な凶悪性など、様々な要因を加味した上で討伐困難(・・)とされたモンスターの事である。

その中でも『殺人ネズミ』は【冥級】と呼ばれる超特異指定モンスターの一角であり、他のモンスターとは格が違う。【冥級】はこの世界で12種類確認されており、そのどれもが様々な事情により討伐不可能(・・・)とされている。


殺人ネズミを例にだすとしよう。

殺人ネズミが討伐不可能とされた理由の1つは、全身を覆い尽くす針のせいである。

ある蛮勇(バカ)は石ころと巨大イノシシの牙で戦っていたが、そんなの殺人ネズミの針に傷一つつけることすら叶わない。

殺人ネズミの針はその一本一本が鋼をも突き通し、その細さとは裏腹に強度も高い。

並大抵の冒険者では傷一つつけること叶わず、この世から去ることになるだろう。

そんな化け物が住み着いてしまっているのだから、この付近には誰も近づかない。




———が、しかし、1人の少女が青年の死体の元へ歩み寄った。


「……ぁ」


その子は青年の死体をじろりと一瞥すると、青年の切り裂かれた腹部に手をかざす。

すると、その子の手が橙色の暖かい光を放ち、青年の傷をみるみるうちに塞いでいく。


「これで、3回目…… あと、2回……」


少女は悲しげな顔で青年をみる。


「ごめ…… んね…… 他の()…… みたいに、力がなくて……」


少女はクローバー色の瞳から涙を流し、未だ動かない青年の頭を撫でた。


———その時、少女の姿は大きな影に包まれた。その影の正体は殺人ネズミ。少女が撫でている青年を殺した張本人。

自分のナワバリが侵されてると感じ取り、侵入者を排除にきたのだ。


「帰ってネズミさん。今、機嫌が悪いの……」


えも言われぬ凄まじい圧が殺人ネズミを襲う。殺人ネズミは負けじと威嚇するが、少女の圧に比べればハムスター程度でしかない。この世界で間違いなく最上位に君臨する殺人ネズミが、少女の圧におされているのだ。


「……ほら、何してるの? 早く消えて……?」


少女の放ったこの言葉が決定打となった。

殺人ネズミは俊敏な動きでその場から尻尾を巻いて自分の巣へと逃げた。


「あ、私もそろそろいかなくちゃ……

あと2回、だからね? クウヤ……」


少女は青年を名残惜しそうに眺めると、ぼうっと輪郭がボヤけ、淡い光を放ちながら消えた。





少女が去ってから数分後。


今まで止まっていた青年の心臓が動き出し、肌に血色が満ちる。

貫かれた腹部は完全に塞がり、顔には生気が戻っていく。

———そして、青年はムクっと上体を起こした。今まで死んでいたというのに、まるで朝起きるかのように自然と起きた。

青年は目を擦り、辺りを見回し現状を確認する。


「……あれっ、なんで俺こんなとこで寝てんの?」


初めて発した言葉は、そんな間抜けな感想だった。


□□□


「うん、前に比べたら全然ヌルゲーかな……」


俺は向かいくる巨大イノシシの突進を避け、手に持っていたイノシシの牙を横っ腹に突き立てた。

巨大イノシシは断末魔をあげ、こちらをギロりと睨む。そして、横っ腹から血を吹き出しながらも、巨大イノシシは俺に向かって一直線に突進してきた。

俺は危なげなくその攻撃を躱し、もっていたイノシシの牙を巨大イノシシめがけ、やり投げの要領で思いっきり投げる。

ゆるい回転のかかったイノシシの牙は、風の抵抗をものともせず巨大イノシシの元へと到達し、突き刺さった。

巨大イノシシはピギッという鳴き声を最期に、その場にバタりと倒れて動かなくなった。


「よしっ! 今日の夕飯GET!」


俺は巨大イノシシの死体の元へと駆け寄り、イノシシの牙を掴み、拠点へとズルズルと運ぶ。こいつ、前回運んだ時も思ったがかなり重たい。まぁ、その分食べれる量が多いから嬉しいんだけど。


巨大イノシシ(こいつ)相手なら安定して勝てるんだけどなぁ……」


俺が思い浮かべていたのは、前回のハリネズミ戦。巨大イノシシの牙という強力な武器を得たため、これで勝てると意気揚々に挑んでみたが結果は惨敗。

俺の筋力じゃ巨大イノシシの牙を使ってもハリネズミの鉄壁を越えることが出来なかった。


その後のことはよく覚えてないけど、

たしか……死んだフリ(・・・・・)をしてやり過ごしたんだっけか?

んんん? あんだけ怒らせたのに死んだフリしただけでやり過ごせるか?

……んーダメだ! 思い出せそうで思い出せない! あともうちょっとなんだけど、それを思い出そうとすると記憶にモヤがかかるというか……


ん? なんか前もこんなことあったよな……?

……あ、あれだあれ、最初にハリネズミに挑んだ時を思い出そうとした時だ!

あん時もたしか死んだフリ(・・・・・)してやり過ごした記憶があるんだけど、なーんか違和感あるんだよなぁ……?


まっ、どうでもいいやそんな事。考えるのめんどくさくなってきたし。

そんな事より今は刃物不足をどう解消すべきか考えるべきだな。

刃物があればイノシシの皮を剥いで俺の衣服にする事が出来るし、調理時間も短縮できる。今は刃物がないから皮ごと焼き切るなんていう暴挙を行っているが、刃物があればそんなアホなことをしないで済む。

……皮ごと焼き切るとさ、十中八九 (じゅっちゅうはっく)中身焦げてるんだよ。

そりゃあお腹空いてるから文句言わずに食べてるけどさ、本当は程よい焼き加減のものを食べたいよ。


そんな刃物不足を解消するためのハリネズミ討伐だったのだが、残念ながらボロ負けしたし。今んとこ、刃物になりそうなのアイツの爪くらいなんだよなぁ……

もう1回挑んでも勝てる気しないし、どうしたものかな……


「まぁ、とりあえず今日は丸焼きやね」


ソラは考えるのをやめ、ルンルン気分で自分の拠点へと帰り、いつもの如く巨大イノシシに火をかけたのであった。

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