第4話 VSハリネズミ
巨大イノシシの肉を無事完食した俺は、バケツと石ころの他に、あるモノを携えて野草採取スポットへと訪れていた。
ここは元々、俺が何回も訪れてきていた場所で、餓死の危機を何度も救われた場所である。しかし、ここ数日の間にモンスターが住み着いてしまい野草の供給がストップした。
一度そいつと戦ったが、敗北。
奇跡的にも死んだフリでどうにか殺されずにすんだが、俺は悔しくてたまらなかった。
今日はそのリベンジ戦である。
巨大イノシシ1匹狩れただけで、随分調子に乗ってない? と思われるだろうが、別に調子に乗ってる訳では無い。
……いや、まぁ、少しは乗ってるかもしれないけどさ。
でも、俺は調子に乗ってるからという理由だけで戦うほど愚者じゃない。俺がリベンジ戦に挑むのには明確な理由があるのだ。
今現在俺を悩ませている問題、それは刃物不足である。この世界ではモンスターを倒してもドロップしない事がわかった今、剥ぎ取るためには刃物が必須となる。巨大イノシシのように剥ぎ取らずに丸焼きにするという力技もあるが、それだと毛皮が手に入らないし、持ち運びも不便だ。
石器時代の人類よろしく、石のナイフを作ろうとも思ったのだが、作り方が分からないし、作るのにも技術力とかなりの経験値が必要になってくるだろう。
そこで思いついたのが今回のモンスター討伐だ。俺の目論見通りに進めば、刃物も手に入れることができ、採取スポットも奪還できという一石二鳥である。
「……いた!」
視線の先には、俺の背丈ほどあるハリネズミが野草をムシャムシャと食べていた。あのハリネズミがソラの宿敵、今回のメインターゲットである。
ぱっと見、ぬいぐるみのような可愛さで油断してしまうが、あれは間違いなくモンスターである。
ヤツの厄介なところは背中の針。
投げた石ころを貫通させるほどの鋭さをもった針が、ヤツの背中にはびっしりと生え揃っているのである。攻撃にはもちろん、防御としても非常に有効で、まともな攻撃ではビクともしない。前回はそれを攻略する事が出来ず呆気なく敗北してしまったが、今回は一味違う。
俺は石ころを取り出し、ヤツの顔面めがけて投げつけた。しかし、石ころは思ったようには飛ばず、ヤツの側面にある針山へと刺さった。
「……そういう時もあるよね」
思い通りにいかず少し落胆したソラであったが、すぐに気持ちを切り替えた。
ハリネズミはというと、その可愛さからかけ離れた怒声をあげ、興奮状態のままソラをぎろりと睨む。その目はもうぬいぐるみなどというやんわりとしたものではなく、獰猛なモンスターのそれであった。
「ふん!」
ソラは臆さず石ころを投げつける。
全て針に当たっているので、ハリネズミ自体に大したダメージを与えられてはいない事はソラも分かってはいるのだが、遠距離攻撃の手段がこれしかないのだから仕方がない。
ソラの絶え間ない投石に怯みもせず、ハリネズミは右前脚を天空に突き出し振り下ろした。振り下ろした場所から突風が巻き起こり、地面を抉りながらソラに襲いかかる。
「ちょっ、なんだよそれ!」
悪態をつきながら間一髪でハリネズミの攻撃を避ける。俺が数瞬前までいた場所は、爪で抉られたような地面になっており、ハリネズミの攻撃力を物語っていた。
「これ、ボス級だなあいつ……」
まぁ、あいつが強いのは分かっていた。
落ち着け、こんな時こそ冷静に。
ヤツの攻撃は攻撃力が高いが、避けられないという事ではない。
今は石ころを投げ続けるのみ!
そこからのソラの集中力は凄まじかった。
ハリネズミの凶悪な攻撃を避けては石ころを投げ、バケツにためていた石ころが無くなったあとも拾っては投げ……
———そして、ついに好機が訪れる。
石ころを投げ続けられて苛立ったのか、それともいつまで経っても攻撃が当たらないことに痺れを切らしたのか。
ハリネズミが遠距離攻撃をやめ、ソラのもとへ向かってきたのだ。
ソラが効果が薄いと知っていながら、ひたすら石ころを投げ続けていたのはこのためだった。
「よしっ! それだよそれ! 」
ソラはこの時のために、携えてきていたモノをバケツから取り出す。
針を逆立て、熊のように突進してきたハリネズミを避け、カウンターの形でハリネズミの横っ腹にそれを突き立てようとした!
ソラが持っていたモノは、巨大イノシシの牙である。今回、石ころだけでは勝てないと分かっていたソラは、巨大イノシシの牙を持参していた。
巨大イノシシの牙の硬さを先の戦いでみてとれる通り、猛スピードで崖に突っ込んでも折れることはなく突き刺さる程だ。
ソラはその牙を槍のように扱い、ハリネズミの針の山という絶対防御を打ち破ろうとしたのだ。
——が、現実はそう甘くない。
突き立てようとしたイノシシの牙はハリネズミの針山には勝てなかった。
巨大イノシシの突進の威力を出せればあるいは、絶対防御を打ち破っていたかもしれない。しかし、ソラの筋力だけではその威力を出すには不可能だった。
無情にもイノシシの牙はハリネズミの針に弾かれ、ソラは大きな隙をハリネズミに与えてしまった。
そこを見逃すほどヤツは甘くない。
ソラの方に振り返ると同時に、鋭利な爪をソラの腹部めがけて振るう。
今のソラには避ける術もなく———
この日、空夜 宙は息絶えた。