第3話 クッキング
「うーん、どうしたものか……」
俺は崖に突き刺さっている巨大イノシシを見てボヤいた。
持ちうる限りの知恵と策略を振り絞り、イノシシとの死闘に見事勝利した……のは良かったのだが、その後どうするのかまでは考えてなかった。
俺の予想ではモンスターは倒された瞬間、ドロップや経験値になると思っていたのだが、
どうやら違うみたいだ。おそらく、自分で剥ぎ取るタイプみたい。
で、ここからが俺の困ってることなんだが、剥ぎ取るには勿論、刃物が必要だよな?
でも、俺が今持ってんのバケツと石ころだよ? どうやって剥ぎ取るのさ。
しかもさ、イノシシ、中々抜けないんだよね。どんだけ深く刺さってんだよこいつ。
「くっそ、崖に誘い込んだの間違いだったかな……」
俺は愚痴をこぼしながらイノシシを引っ張ってみたり、蹴ってみたり、押してみたり。
とにかく色んな事をしてみたが、一向に抜ける気配はなかった。
このままでは折角倒したのが水の泡になってしまうし…… かといってこのまま時間をかけていたら他のモンスターに見つかるかもしれないし……
悩みながらも何もすることが出来ず、押したり引っこ抜こうとしたりしていた、その時。
ピシッという音と共に、巨大イノシシが刺さっている辺りから、崖にヒビが入った。
「へっ?」
つい間の抜けた声が漏れた事などそっちのけで、俺はそのヒビをじっと見ていた。
ヒビはピシピシと音を立てながら拡大し、ヒビは亀裂へと拡大していく。
「……これヤバくない?」
亀裂は崖の壁面全体へと広がり、地響きをあげながら崩落した。
「くそっ! どんだけ威力あったんだよあの突進!」
悪態をつきながらその場から離れる。
振り返って見てみると、まるで雨のように岩が降っていた。
地獄ってあんな感じなのかなぁ……
「……あれっ?」
岩が落ちきったので、巨大イノシシの元へ近づいてみると、先程とは状況が変わっていた。なんと、崖の壁面が崩れた先に洞窟があったのだ。
「……いってみるか」
少し行くのを躊躇ったが、己の好奇心に勝てず進むことにした。
暗くて先が見えないが、壁面に触りながら、慎重に慎重に進む。道中でモンスターにエンカウントしたらアウトだし、何があるか分からないからな……
10分ほど歩くと、この洞窟の終点に着いた。
嬉しいことに、そこに広がっていたのはエメラルドブルーに光り輝く湖。
それはまるで、巨大な宝石に見間違うほどの絶景。
「すげぇ……」
俺は当分の間、湖の美しさに見とれてしまうのだった。
□□□
俺はその後、この地底湖を異世界サバイバルの本拠地にすることに決めた。
湖自体が光ってくれてるおかげで、くらい洞窟内でも色んな作業が出来るし、モンスターに襲われる心配もないからな。
洞窟前で倒れている巨大イノシシも、1時間ほどかけてこの地底湖へと引っ張ってきたし、
その他にも焚き火用の木材や枯れ草、俺のリーサルウェポンである石ころも出来るだけ集めた。
「さて、やるか……」
木材を手にすると、手慣れた手つきで火を起こす。初めのうちは火を起こすのに2、3時間ほどかかっていたが、今や30分もあれば余裕で火を起こせる。この世界に来てから3ヶ月、毎晩毎晩やってきた成果だろう。
「さて、火もおこせましたし。レッツ クッキング!」
さて、突然始まりました私、空夜 宙のお手軽クッキングのコーナー! 本日の食材はこちらの巨大イノシシです! 用意するものと致しましては、
・巨大イノシシ
・火
・石ころ
・水
・バケツ
の5つとなっております。
では始めていきましょう!
「てれれてれってれってってってれ~
てれれてれってれってれ~」
俺は昔好きだった番組の料理シーンで流れてくるBGMを口ずさみながら、もくもくと調理を進めた。
調理、といっても至極簡単なものだ。
順をおって説明していくぞぉ!
「ソラは今、お腹が減りすぎて頭がおかしくなっております。今後も不可解な言動、突発的な叫び等々ございますが、何卒ご理解お願いします。……今みたいな場面、あの番組ならこんな感じのテロップが流れるな!」
そんな事をほざきながらも、ソラは高揚しながら調理を開始した。
「① 巨大イノシシに火をつけます!!」
火をつける理由としては、刃物を持っていないために皮を剥ぐことが出来ないからだ。
皮が剥げないなら燃やせばいいじゃない、
という短絡的な思考でクッキングをお届けしてます。
火をつけたイノシシは、意外と勢いよく燃えている。油とかないからあんまり燃えないかなって思ってたけど、杞憂だったな~
「② 皮が燃えたなーって思った辺りで水をぶっかけて消化します!」
待つこと20分、いい加減いいだろと
思いっきり水をぶっかけて消化した結果、
煙の中から、焦げて皮が焼け落ちた巨大イノシシが現れた。
……我ながら上手くいきすぎていてびっくりしている。
「③ 焚き火の中に突っ込み、中まで火を通します!」
まぁ、焚き火に突っ込むというよりかは、巨大イノシシの周りを焚き火で囲むっていう表現の方が正解なのかもね。……どっちでもいいけどさ。
そんな事よりヤバい、めっちゃいい匂いする。久しぶりのまともな食事だからか、ヨダレが止まんないし、鼓動が早い。
「早く食べてぇ!!!」
待つこと15分、ついにその時はきた。
こんがりと焼けた巨大イノシシ。
その香りは一瞬で俺の理性をぶっ壊し、かぶりつかせた。
その身は少し焦げてたり、皮や毛が残ってたり。味付けもなんもせず、調理は適当。
けど、元の世界にいた頃の、どんな料理よりも美味しかった。
3ヶ月ぶりの食事だからなのか、初めて自分で狩った食材だからなのか、これは本当に美味しい。
ふと気づくと、目から涙がポロポロと流れていた。なんで流れてるのか、その理由はよく分からない。
「んまい……」
俺は涙を手で拭い、また巨大イノシシの肉へとかぶりつくのだった。
ヒロインはいつになったらでるんでしょうね……