第2話 イノシシ狩り
俺は採取スポットにしていた場所を諦め、他の場所を求め、ひたすら北へと向かっていった。数週間後、森の中でいい野草のスポットを見つけたが、その数日後にはまたもモンスターが巣を作っていた。
俺は道端に転がっている手のひらサイズの石ころを拾うと、バケツへと投げ入れた。バケツの中は大中小様々な石ころが何十個も入っているが、別に希少価値が高い訳でもない。今このバケツの中を誰かがみれば、なんで集めてんの? と首を傾げられるだろう。俺が何故石を集めてるのかというと、石から武器を作ろうと考えたからである。
この世界にやってきてはや3ヶ月ほど経つが、今現在抱えている飢餓問題はかなりヤバい。あと3日もこの状態が続けば間違いなく飢え死にするだろう。
勿論、また違う野草の採取スポットを探せばいいのではないか、とも思ったが、数週間探してやっとこの場所を見つけたのだ。このあたりであそこ以外の採取スポットは他にないだろう。毒草や薬草など、違う用途に役立つものはあったのだがな……
それに、他の採取スポットを見つけたとしてもそれは根本的な解決には至らない。また他のモンスターがそこに巣を作りでもしたら終わりだ。この世界で生き抜いていくにはモンスターを倒す必要がある。俺はようやくそれに気づいたのだ。
そして、この飢餓問題を解決するには武器の生産が不可欠なのだ。石ころとバケツだけでモンスターに勝てないことは前回の戦いから学んでいる。
もし、武器がない状態で戦いを挑んでも返り討ちにあい、俺がそいつのディナーになる事だろう。
1番安全なのは罠を仕掛けること。1番簡単に作れそうなのは落とし穴かな。
穴に落ちた所を上からひたすら石ころを投げたり、素手で殴ったりって戦法がとれる。
しかし、そもそも穴を掘る道具もなければ、モンスターがすっぽり入る深さの穴を掘るのはかなりの時間がかかる。
他にも罠は沢山考えつくが、どれも今あるものでは作成困難。ともすれば、武器を携え、真っ向から戦うほか道はない。
「こんなもんでいいか……」
俺はおもむろに羽織っていたボロ布を脱ぐと、3:1になるように破いた。
ハサミやカッターがないため綺麗に切れなかったが、まぁ別に問題ない。
小さい方は下半身に巻いて簡易ズボン、残った大きい方は武器の材料に使おうと思う。
さて、それでは武器制作を始めようか。
といっても、10分くらいで出来るんだけど。
「これをこうして…… よし、出来た! 」
ソラは満足気な顔でソレを手に取った。
切った布を3等分にし、三つ編みにすることで強度を高めた紐。
それの先端には、先程拾った中で1番ゴツゴツしているものを括りつけてある。
「ふふ…… その名も石ころヌンチャク!
これでモンスター狩りじゃあ!」
□□□
俺は石ころヌンチャクと石を沢山いれたバケツを手に、決戦の地へとやって来ていた。
まぁ、決戦の地とかカッコつけていってるが、ただの原っぱである。あ、でも崖とか岩とかもあるし、それなりに決戦の地っぽいかな?
そんなアホ丸出しな事を考えながら、俺はターゲットの近くの岩陰へと移動した。
俺が隠れている岩陰の50メートル位先にターゲットはいる。
2本の鋭い牙を生やし、短足ながらも動きは素早い。攻撃の際は直線的な動きしかできないものの、その貫通力は侮れない。
そう、俺のターゲットとは、俗に言うイノシシにかなり近いモンスターである。
俺はこの3ヶ月生きてきて、もし戦うとしたらコイツが1番狩りやすいだろうと、前々から目をつけていたのだ。
俺の大事な大事な野草採取スポットに巣をつくりやがったモンスターとは違うのだが、まずはこの飢えを凌ぐことと、俺でもモンスターを倒せるという自信をつけるべきだろう。
「……やるか」
俺は相手に気づかれないよう、静かに近寄った。足音一つたてず、20メートルくらいまで近づいた。
まずは牽制、あわよくばこれで決めてしまいたい。そんな事を思いながら、俺はバケツの中に手を伸ばす。
丁度野球ボールぐらいのサイズの石ころを掴み、野球のピッチャーのように振りかぶる。
「くたばれ!!」
俺の全身全霊の力がダイレクトに伝わった石ころが、鉄砲玉のように勢いよく、巨大イノシシの横っ腹へと一直線に伸びていく。
鈍い音と共に、石ころは巨大イノシシへと着弾した。
「よっしゃあ!」
思わず声と笑みがこぼれるが、戦いはまだ始まったばかりだ。着弾した石ころは巨大イノシシの横っ腹に少しの痕をつけるだけで、致命傷をあたえることは叶わない。
あわよくば何らかのスキルなり加護なりが発動してくれることを願ったが、やはりそういったご都合主義は通らないようだ。
巨大イノシシはギロりとこちらを睨みつけると、けたたましい唸り声と共に突進してきた。 すかさず俺は転がるようにしてそれを回避、バケツを手に次の攻撃を待ち構える。
正直、恐怖は感じていた。
だが、それ以上に飢えを感じていた。
この世界にやって来たばかりの頃なら、俺は巨大イノシシと戦うことさえ、怖くて出来なかっただろう。
だが、今は巨大イノシシに対する恐怖なんてどうでもいいくらい腹が減っている。
おかげで今までで、1番動けている。
「こいやこんちくしょう!」
巨大イノシシは俺の言葉が分かったのか、先程よりさらに大音量で唸り声をあげ、俺に突っ込んできた。
俺は石ころを敷きつめたバケツを、カウンターの形になるようそいつの頭目掛けて思いっきり投げた。
バケツの中に敷きつめた石ころが宙を舞い、巨大イノシシの視界を奪う。
突然の反撃を受けたイノシシは突進をやめようと速度を落とし、向かいくる石つぶてから目を守るために瞼をとじた———
「今だァ!」
ソラは渾身の力をこめ、動きの鈍ったイノシシの右目目掛けて、石ころヌンチャクを振りかぶった。
巨大イノシシは避ける事が出来ず、右の瞼を石ころヌンチャクが貫通。巨大イノシシは右目から大量の血を流しながら叫び声をもらす。
「もういっちょォ!」
今度は左の目ん玉目掛けて、石ころヌンチャクを振るう。同じように大量の血を流し、ついに巨大イノシシの視界を奪う事に成功した。
しかし、巨大イノシシはまだ倒れない。
両目から血を流し、顔面に沢山の石つぶてを受けてもなお、致命傷へとは至らない。
怒声をあげ、目が見えないながらも闇雲に突進を繰り返す。
あわよくば両目を潰して倒れてくれればなぁと思ったが、やはりダメだった。
……まぁ、予想通りだけどな
「おいクソイノシシこっちだ!」
俺は大声で巨大イノシシを呼んだ。
すると、俺の思惑通り巨大イノシシはこちらに向かって突進をしてくる。
その威力は凄まじく、巨大イノシシと俺との間にある岩などを壊しながら向かってくる。
俺はその攻撃をマタドールのように避けた。
目の見えない巨大イノシシは、俺に避けられたことすら分からず、ただひたすらに直進し続けた。
もし、視界を奪われてさえいなければ気づいただろう。俺が避けたことにも——俺の後方にあるモノにも。
巨大イノシシは、大きな衝突音と共にその歩みを止める事になった。
俺の後方にあったモノ、それは切り立った崖だ。俺はイノシシの両目を潰した後、速攻で崖の方へと向かい、イノシシが崖に激突するよう誘導したんだ。
岩を貫通させるほどの突進力があれども、流石に崖を貫通させることは無理だろ。
俺は石ころヌンチャクを手に、巨大イノシシの近くへと向かう。巨大イノシシご自慢の2本の牙は崖に突き刺さり、それが返って災いし、巨大イノシシは身動きがとれないようだ。
俺はそこから、ひたすら石ころヌンチャクで巨大イノシシの脳天を攻撃し続けた。
ボロ布で作ったため、途中石ころヌンチャクがちぎれてしまったが、石ころを手にぶん殴った。
———殴り続けること10数分。
俺の両の腕は真っ赤に染まり。
巨大イノシシはピクリとも動かなくなった。