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マキシマム・イン・ラグナロク  作者: サイベリアンと暮らしたいビーグル犬のぽん太さん
他人に石を投げる者達を見過ごすのは、加担したのと一緒なんだ
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宋の皇族

 オルタビウスは宋人達の市民化を進める為には、宋の支配層の支持も得る必要があると考えていて、かねてから皇族との面会を求めていた。


 イシュリーンはオルビアンに入ったが、宋の皇族から面会を請われても断り続けていたが、それはオルタビウスとの面会を宋の皇族側が断り続けていたことが理由であった。


「オルビアンの元老院議員を軽んじる者と予が会うことはない」


 彼女は宋の皇族側にそう伝えていた。


 困った宋の皇族達は、仕方なくオルタビウスと会うことにした。


 これは、オルタビウスがメヴィル家のヴェロンと会った翌々日の午後である。


 彼は従者にマキシマムとサクラを指名しているが、他の秘書たちは仕事が多く同行できないためという事情もあったし、単純に他の秘書たちは自分の護衛などできないからだった。


 皇族と会う為に護衛がいるのは、一人で彼らに会えば馬鹿にされるのが普通だからだ。従者もいないのかと軽く見られるのがオチなのである。


 オルビアン離宮の離れ、とはいっても貴族の屋敷よりも広い敷地に籠る大宋の皇族は王子二人と臣下達を中心に、一〇〇名を超えている。


 マキシマム達はオルタビウスを先頭に離宮の離れへと進む。


マキシマムは、グラミア軍装の男達が厳重に固める庭を通過する間、フードを深くかぶって顔を隠していた。


「オルタビウス」


 マキシマムは、聞き覚えのある女性の声が議員を呼ぶのを聞いた。


「へ……陛下」

「宋の皇族に会うのか?」


 オルタビウスが一礼する後ろで、マキシマムも同じくそうした。彼は動悸を早めて喉を鳴らす。彼の隣で、二人にならってサクラもこうべを垂れた。


「そうでございます。お力添えくださりありがとうございました」

「なに、お前の為ではない。わたしがそうしたかったから――」


 王と議員の会話を遮ったのは、近衛の侍女で、彼女は王に耳打ちする。それは客を待たせているからというもので、イシュリーンは頷くとオルタビウスに詫びた。


「すまない。客を待たせている」

「失礼いたします」


 オルタビウスは王を見送り、一呼吸おいてから歩きだす。


 二人も続く。


「グラミア王イシュリーン一世陛下だ。拝謁したことはあったか?」


 老人は秘めている疑惑もあって問うていた。


 オルタビウスに問われたマキシマムは、「いいえ」とだけ短く答える。そして問うた。


「オルビアンにいらっしゃったのですか?」

「そうだ」


 双方ともに隠し事があるから無言となり、離れへと入った。


 宋の人達の身なりは、大陸西方の人々とは大きく違うとマキシマムは感じた。しかし貴重な絹服でそろえていることから裕福だったのだろうと感じる。色彩も鮮やかで派手である。


 一室に通された三人は、下座に座して相手を待つ。二人の王子のうち、どちらが現れるかと考えるオルタビウスは、扉が開かれた際、一礼で迎えながら下の王子と予想したが、違った。


「皇族にお仕えする李英鶴翔リエイカクショウと申す」


 頭をあげたオルタビウスは、臣下を遣わした王子たちに失望した。彼は聞き知る宋のことを記憶の沼から引っ張り上げた。


 大宋の皇帝は多くの子供に恵まれたが、能力に恵まれた子供には縁がなく、能力があった子供は皇族同士の派閥争いの被害者になったと。


「元老院議員のオルタビウス、従者のマキシマムとサクラ」

「うむ」


 李英鶴翔リエイカクショウは黒い口髭を指で整えながら顎を反らし、用件を言えとオルタビウスに促した。


「宋の人々を我々は支援しております。王子殿下から、宋の臣民に向けてぜひ心穏やかに過ごすと共に、オルビアンの支援方針を受け入れるよう声明を出して頂きたいのです」

「下々のことはさておき……皇族の皆様へ申し上げることがあるのではないか?」

「は?」

「下々のことは後で良いであろう? さ、申してみよ」


 オルタビウスは相手の意図がわからず困った。


 無言となる。


 李英鶴翔リエイカクショウは相手の発言を待っていたが、オルタビウスの無言が続くにつれ、眉をピクピクとさせ、舌打ちを発し、待てぬとばかりに口を開いた。


「この狭い小屋で暮らす尊い方々への献上金と品の約束をするのが先であろうが!」

「小屋? 離宮の離れですぞ」


 オルタビウスは大きな呆れと憤りで間の抜けた返答をしてしまった。


「愚か者! これが世界に名を知らしめたオルビアンの歓迎か!? 大宋の皇族がおわすのだ! 我々は大宋であるぞ!」

「お困りにならない額を、都度、お納めしておりますが」

「お前達の金銭感覚で寄越された金など……」


 李英鶴翔リエイカクショウが今度は呆れて、疲れたように声を消した。


 無言となる。


 オルタビウスは再度、確認の為に、目的を伝える。


「皇族の方から、宋の臣民達へ声明を出して頂くことは叶いませぬか?」

「下々のことで殿下のお心を乱すことは許さぬ」


 李英鶴翔は言い放ち、室を辞した。




-Maximum in the Ragnarok-




 孤児院の候補地のいくつかを視察するオルタビウスはずっと苛々としている。


 マキシマムは問わずとも、その理由はわかっていた。


 宋の貴族の態度であった。いや、皇族の者達への失望である。


 李英鶴翔リエイカクショウという貴族個人の問題とは思えないのは、マキシマムも同じであった。それは、あの場所に王子達が現れなかったことに全てが込められている。


 何かしらの事情で会えないのであれば、代理を立てるのは普通であろう。しかしその者は、本人の意図を理解して相手と会う人物を選ぶものだ。


 王子達が彼を寄越したのは、つまりそういうことなのだ。仮に、王子達の意図を李英鶴翔リエイカクショウが無視していたのであれば、王子達は臣下を御することができない無能であるか、臣下達に軽んじられる人望の無い者達ということになる。


 マキシマムはそう考える。


 彼がこう考えるのは、例えば彼がオルタビウスの代理を務める場合、必ず議員の名を汚すことがない受け答えをするからだ。


 あれは考えられる中で最悪のやりとりだったと彼も思っている。


「ここなら一〇〇人以上が生活できるな」


 オルタビウスの声で、マキシマムは思考を止める。


 旧新聞社の社屋であった建物である。グラミアに敗れる前、新聞各社は巨大商会と繋がって市民に誤った情報を伝えることで世論を戦争へと加速させた。その責をイシュリーンに取らされ、各社は潰されている。


 当時の経営者達は、グラミアに謝罪し、次からは真実を歪めず報道に携わり市民の為に働くと許しを請うたが、オルビアンの兵達を死地へと送る手助けをしてもなお、自分達は助かろうとした彼らをイシュリーンは許さなかったのである。


「アリスト、すまないな。皆を説得させて」

「お礼は特ダネでお願いします」

「では、宋の皇族は宋人支援に無関心と書いておけ」

「……本当ですか?」


 議員と記者のやり取りにマキシマムは苦笑する。


 この社屋はアリストが属していたフェバルネチェ新聞社の建物だったもので、ここを孤児院で使われることに元従業員たちが反対しないよう、オルタビウスはアリストに頼み調整したのである。


 元従業員たちは今でもフェバルネチェ新聞を誇りに思っているから、建物の所有権云々ではないところでの配慮であった。


 アリストは善行には賛成で、皆を説得した。彼はオルタビウスと意見を対立させることはあるが、まっとうな人間で、記者なのだとマキシマムはこれで知ることができている。


 サクラが、窓ガラスを眺めている。


 マキシマムは不思議に思い、彼女に尋ねた。二階廊下の窓からは、市街地を見下ろせる。


「どうした?」

「……ガラス、子供達が割らないようにしたほうが良いのでは?」

「……補強させよう……ありがとう、先生!」


 サクラは、廊下の先で記者と話し込むオルタビウスを見る。


 マキシマムが彼に歩み寄り、会話を始めた。


 彼女は、彼の『ありがとう』が好きだと感じている。


 だからサクラは、自分もその言葉を使おうと決めた。


 言葉だけでなく、マキシマムのように、『ありがとう』に気持ちをこめて、表情もにこやかにして、使おうと思っていた。


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