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マキシマム・イン・ラグナロク  作者: サイベリアンと暮らしたいビーグル犬のぽん太さん
他人に石を投げる者達を見過ごすのは、加担したのと一緒なんだ
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これからのこと

 レディーンは長いながい説明を聞き終えて、疲れた表情で資料室に入った。そこにマキシマムがいると聞かされていたからで、彼女はすぐに彼と、古龍を見つける。


 背を見せるマキシマムへと、レディーンはやや緊張しつつ近づく。


 サクラは、彼女に気付いていたが敵意がないこと、仮に何か問題が発生しても簡単に片付けることができる相手という認識で無反応であった。


 レディーンは、あと数歩というところでマキシマムに声をかける。


「マキシマム殿……終わりました」


 肩越しに振り返った彼は、一瞬だけ険しい表情だった。すぐに微笑む彼の意図を、彼女はあえて問わない。それよりも、自分がされた説明を彼に聞かせて、安心させてやるのが先だと思っていた。


「わたくしはここでしばらく暮らし、日本での生活を学び……月にある都市に移ります」

「月? 月って……あの月?」


 マキシマムが目を見開く。


 レディーンはそれがおかしくて少し笑い、頷いた。


「ええ。月に日本の主要都市があるそうで……そこでなら安全だとか。文字、言葉、そういうものをここで習います」

「……ここで資料を見た後に聞かされていなかったら信じられないことだ」


 マキシマムが半身となり、レディーンに彼が見ていたものを見せる。


 画面に映っているのは、西暦末期に起きた革命運動と、それを鎮圧する側が激しく戦う様子だった。


「空……を飛んでる?」


 レディーンの問いに、マキシマムは頷く。


「俺達もここに来る時に乗ったやつだ。空でも、地上でも……戦っていた」


 レディーンは、画面に映る軍人の姿に違和感を覚える。


「これ……人ですか?」

「うん」


 人の形をしているが、鎧のようなものですっぽりと身体を覆っているのである。


 マキシマムが言う。


「防護服と戦闘服を併せた機能をもつ服のようだね。俺が見ているこれは……地上が毒で汚染された後で、生身だと大変らしい」

「こっちの、これも人?」


 軍人の隣で動いているのは、大きな人形だが硬そうであるのは見た目でわかる。皮膚というよりも、身体そのものが金属でできているようにレディーンには思えた。


 マキシマムの代わりに、サクラが答える。


「レヴィ重工製M六八、ヒューマノイド殲滅作戦用アンドロイドです」

「れ? 何だって?」


 マキシマムの質問に、サクラは無表情で口を開いた。


「ヒューマノイドを殲滅する為に作られたアンドロイド……人型戦闘用アンドロイドで、これは量産型です。連続活動時間は五〇〇時間です。太陽光で充電しますので、太陽の下では半永久的に作戦活動が可能です」

「……そういうことか」


 マキシマムは妙な納得感を得る。


 つまり彼らが龍と呼ぶ古代文明時代の兵器は、西暦末期の戦争で地上に、大量にばらまかれたが、今でも活動しているものがいて、その龍達は当初の任務を現在も忠実に行っているのだと理解する。ゆえに人を襲うものもいれば、ある地点から動かない龍もいるし、まだ見つかっていないものもいて、さらにサクラのように、特殊で強力な龍は、古龍と呼ばれて区別されているのだ。


 レディーンが画面に見入りながら、切り替わった映像に関して発言をする。


「この人達は……何をしているの?」


 彼女の問いに、マキシマムに促されたサクラが答える。


「デモ活動です」

「デモ?」

「特定の主張をもった人達が集まり、集団でそれを示す行動です。彼らは連邦政府が行っていた反連邦活動家達への弾圧に抗議をする為に集まっている映像が残っているのですね」


マキシマムとレディーンは画面を眺める。


映っている若い女性が、何かを叫んでいる。


 グラミア語のようだとマキシマムには思えた。


「サクラ、彼女は何を言っているんだ?」

「音量をあげればよろしいかと」

「どうやって?」

「わかりません」

「……」

「ねぇ、マキシマム殿」

「ん?」

「この人……泣きながら何か訴えてる……可哀想」

「……見るのやめようか……」


 マキシマムは映像を止める。


 そして、気を紛らわせる為に、どうでもいい質問をあえてサクラにしてみた。それは、答えが返ってこないだろうと思ってのもので、話題を変えることが目的であった。


「サクラは、さっきの女の人、誰だかわかる? 何で泣いていたんだろう?」

「ヴィラ・シェスター……反政府ゲリラのリーダーであるオルヒ・ディン・シェスターの妻ですが、ヒューマノイドです」

「え?」

「は?」


 マキシマムとレディーンが、同時に古龍を見た。


 サクラは、何故泣いていたのかという問いに対しての答えを言う。


「先程の映像は、連邦政府が汚染された地上にヒューマノイドを置き去りにして、人類は宇宙に出るということを実行したことや、ヒューマノイドではない、人間でありながら反政府寄りの人達や、貧困層、一定の地域に暮らす人種までも置き去りにしたことを糾弾していたものです。感情が高ぶり、涙を流したと推測できます」

「……」

「連邦政府の主流派は当時、二派に別れており、北米と欧州を中心とする派閥と、アジア圏を中心とする派閥に割れていました。西暦末期の頃、アジア圏の中華共和国と日本はヒューマノイド寄りでした……生産国でしたから」




-Maximum in the Ragnarok-




 マキシマムとレディーンは、それぞれ個室を与えられていた。サクラはマキシマムから離れたがらないので、彼の部屋にいる。


 見た目は美しい女性でも、間違いが起きるはずもないが、イゾウはそれをからかい、レディーンはぶすっとして自室に入った。


 マキシマムは寝台に腰掛け、部屋の使い方を教えようと中に入ったイゾウに尋ねる。


「君達は、ヒューマノイドの味方をしたからここに残っているのか?」

「……資料を見て質問してるのか?」

「ああ」

「……正確には、この星はまだ汚染されていて、俺達はそれを掃除しなきゃならない。その為に古龍が邪魔だから排除している……こちらの言うことをきかせられない奴らがいるんだよ……それもけっこうな数で……その古……サクラも本来はそうだったが、今はお前の護衛になっているな」

「……北米とか欧州という言葉をサクラから聞いた。それは地域か?」

「そうだ。北米はもうない。欧州はお前らが暮らしている地域だ」

「もうないとは?」

「陸地がない……ま、言っておくが、俺達は良い奴の子孫てわけでもないんだ。当時、アジア圏……今、俺達がいるこの辺りを指してアジアと呼んでいるが、アジアがヒューマノイドの一大生産地だった。だからヒューマノイドを悪とみなされると困ったわけだ。だから保護しようという主張が主流だったのさ。善人が集まっていたわけじゃない」

「……」

「あちこちで作られていたが、シェア……えっと全体の中で、アジアで作られたヒューマノイドは六割を超えていたから……」

「じゃあ、アジア圏がヒューマノイド保護を訴えて、対立したのか?」

「俺も説明できるほど詳しくない。クソみたいなやつが、理想と正義に燃えて動いた結果、賛同を得て、どうしてかそれを支持する政治家が増えて……報道機関がもてはやしたからかな? ま、ともかく世界の大きなうねりになったのさ。オルヒ・ディン・シェスターという科学者は、さんざんヒューマノイドを作って、汚染地域で仕事をさせていたくせに、ある日突然、英雄気取りでそれはよくないと言い始めた。欧州や北米の内輪揉めが、拡大したんだよ」

「……複雑だ」

「いろいろと複雑だろうさ。でも、お前はちゃんと生きてるし、ヒューマノイドといっても別に作り物じゃない。両親がいて、生まれてきたんだ。人間だ。お前らのほうが今ではよっぽど人間だよ」

「両親ね……」


 イゾウはそこで、マキシマムの生まれの問題に触れたことを詫びるような気持ちとなる。


「悪い」

「いや、いいんだ」

「……でも、お前は生きてるんだ」

「当たり前だ」

「いや、当たり前じゃない」


 マキシマムはイゾウを見る。


 彼は、少し悲しそうだった。


「マキシマム、俺達は順番待ちして生まれてくる、管理された存在だよ……俺が死んだら、欠員が出たとされて、補充が生まれる……増えないように、減らないように……生きてるって言えるか?」

「でも、こうして会話してる」

「……」

「イゾウ、俺の我儘で迷惑かけてすまない。レディーンのこと、世話してくれて助かる。だから俺はこれ以上迷惑をかけないように、レディーンと後で少し話をしたら、帰るよ」

「いいのか? まだ期限まで数日ある」

「いい。それに、レディーンと一緒にいる時間が長くなると別れるのがつらくなる」

「恋人か? だから助けようと?」

 

 マキシマムは照れたように笑いながら答える。


「はは……違うよ。彼女は……いろんな犠牲の上に助かった人だ。だから、無事でいてほしい。嫌な奴らに使われるなんて駄目だ……」


 マキシマムはここで、盲目となったベルベットを脳裏に描いた。


 彼女にも裏切られたと思う一方、ベルベットは果たして、裏切っていたのかと思う自分がいると気付く。


『いつまでもマキの味方なのだ』

『疲れたら休んで、頑張りたい時は頑張ろう』

『マキをいつも見守っているよ』

『困った時は、振り返って』


 子供の頃、ベルベットに言われた言葉を思い出す。


「今が、困った時だな……」


 マキシマムの言葉に、イゾウが首を傾げる。


「何が?」

「イゾウ、いきなりグラミアに帰ると大変なんだ……どこか、他の土地に送ってもらうことできるか?」

「……どうして大変なんだ?」

「俺、軍属なんだけど、途中で抜けたように出たから」

「王子だろ? 関係ないだろ」

「王子になる気はない」

「……じゃ、グラミアの端っこに送ってやる。北、西、南、東、どこがいいか?」


 マキシマムは悩む。


 北と東は異民族との戦いで大変な地域だ。


 西は、リュゼだ。彼の嫌いなラベッシ村の代官であるナルが仕える公爵の領地だ。


「南がいい」


「南ったら、オルビアンだな。わかった。今、あそこは難民が流れ着いてきているから紛れ込むにはいいかもな」

「助かる」

「オルビアンの後はどうするつもりだ?」

「……考える時間が欲しいんだ」

「……わかった」




-Maximum in the Ragnarok-




「オルタビウス、本気か?」


 長く議員生活を共にしたフェリゴの問いに、オルタビウスは頷く。


「ああ。あと一期、続ける」

「……よかった」


 フェリゴが両手をあげて喜ぶ。


 元老院議長であるフェリゴの執務室で、引退の撤回を口にしたオルタビウスは相手の反応で安堵の吐息を漏らす。


 今さらふざけるなと嫌味を言われたら困ると恐れていたのである。


「だが一期だけとは……お前は人気がある。しばらく続けられるぞ」

「政治家を長くやり過ぎた。この一期で俺は、俺の後継者を育てる。お前の息子、預けてくれないか?」


 オルタビウスの発言で、フェリゴは笑みを消した。


「俺のとこの? どうして? お前の派閥から選べば?」

「よくない噂を流されて人気がない。市民は新しい風を求めている。お前んとこのアキレスは、初夏には帰国だろ?」

「無事であればな」


 フェリゴの息子であるアキレスもまた、ヴェルナに派遣された師団に属する軍人なのである。オルタビウスもフェリゴも、元老院議員という権力を持たされた立場であるがゆえに、率先して家族を軍属にして、戦場に派遣していた。それは、グラミア王国がヴェルナへの出兵を決めたことに、オルビアン元老院が賛成を表明した責任を果たす為である。


「無事だろう? 後方支援の部隊だ」

「だといいが……いや、すまん」

「いいんだ……息子のことはようやくふっきれたよ。泣けた……泣けたら、すっきりした。いや、すっきりしたと思いたいんだろうが……今はこれでいい。政治家を引退してから、思う存分ひきずろうと思う」


 フェリゴは友人と言って差し支えない議員仲間を眺め、こう言えるようになったかと安心する。彼から見て、昨日までのオルタビウスは危うかった。


 普通にしているように周囲には見せていたが、表情が無い人はこうまで危険かと思わせる危うさがあったのである。


「帰ってきたら、お前のとこに行かせる。厳しくしてやってくれ」


 フェリゴの言葉で、オルタビウスは自然と笑みを浮かべた。


 二人はそれから短い世間話をして別れる。


 オルタビウスは、アキレスを迎える為に論文の制作に取りかかろうと考えていた。


 ヴェルナで、グラミア軍が大敗した報がオルビアンに届いたのは、二人が向かい合った翌々日のことである。


 北方騎士団領国の軍勢と、異民族の軍勢に挟撃されたグラミア軍は、オルトゥールを捨てて退却したが、壮絶な撤退戦となり、多数の死傷者を出したのだった。


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