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マキシマム・イン・ラグナロク  作者: サイベリアンと暮らしたいビーグル犬のぽん太さん
他人に石を投げる者達を見過ごすのは、加担したのと一緒なんだ
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日本人

 北海に面した都市タリンは、北方騎士団領国で最も栄える港町だ。ペテルブルクは要塞都市として龍族との戦いにおける最前線拠点でもあるから、都市としての賑やかさ、華やかさは領国一かもしれない。


 この港町は、薬物を各国に輸出する玄関口として栄えている。また、北方騎士団領国より北側、氷の世界と呼ばれる地域の西側に存在するトラスベリア半島との連絡船が出ていることもあって、旅人も多かった。


 人口五万のうち半分は騎士で、予備役もいれると七割が騎士団領国の軍人であるが、彼らは常に軍属にあるわけではなく、騎士団の命令に従い武器を取る。いわば強力な民兵の街と言えるだろう。


 その港町の宿の一室で、ムネシゲは暗い表情である。対面のイゾウもまた同じで、二人は左と右を見た。


 マキシマムが苦笑いを浮かべている。


 レディーンを取り戻した一行は、一時的な対立を経て、再び協力関係にあった。その原因は、もちろんレディーンだが、古龍も同じく理由になっている。


 クラプシルという名を与えられていた古龍は、三人には理解不能であるが全ての記憶を失ったようで、さらにマキシマムを『主人』と認識してしまっている。


 マキシマムが不思議に思うのは、それまで激しく戦っていた相手が、コロリと、別人のようになり懐いてくると、敵対心や憤りなどの悪感情は薄れてしまうことだった。全て無しにしたわけではないが、彼のなかで、死なない敵という認識から、聞き分けの良い妹のようになってしまった相手を、問答無用で斬り伏せることは難しいのである。


 甘いと言われるだろうと、彼は脳裏に、その指摘をするはずの人達を描く。その思考を止めたのは、問いであった。


「本当に、来るんだな?」


 イゾウの質問は、三度目のものだ。


「ああ」


 マキシマムの返答も、三度目である。


 あの戦いの後。


 二日前になる。


 彼とイゾウは、マキシマムからレディーンを奪い帰還するつもりだったが、古龍を従えたマキシマムが、レディーンを連れて行くなら同行すると申し出たことで銃をおさめた。


 それは単純に、古龍がマキシマム側についたことで、圧倒的に不利だったからだ。破滅バアルを放たれてしまったうえで、マキシマムに接近戦を挑まれたら勝てないという諦めである。そしてこれが最も大きな理由だが、二人はレディーンを無事に連れ帰ることが目的で、同意してくれるのであれば、戦う理由はない。


 ただし、マキシマムがレディーンと一緒に、二人の集落まで来るという点は微妙であった。


 それは、許可なくマキシマム達を連れてきたということではない。


 マキシマムやラブが、自分達の集落に入れば混乱するだろうというものからだった。


 しかし、レディーンは欲しい。そこに、古龍もついてくる。


 二人は熟考し、乗ると決めた。


 こうして、五人は船で移動しようと、タリンに来たというのが経緯だ。


 ムネシゲとイゾウは、船を盗んで渡航をしようと企んでいたが、マキシマムが五人分の渡航券を購入してくれたことで、彼らは盗みを働かずに済んだ。出発の前日、宿で部屋を取り、男と女に別れての現在である。古龍が、マキシマムから離れることを拒否するので、マキシマムが悩んだあげく、明日までレディーンとラブを守れと命じて落ち着いたのは半刻前である。


「じゃ、まず俺達のことを説明する」


 ムネシゲが重い口を開く。


「まず、集落に入ったら俺達の仲間がたくさんいるが……龍族とか、竜人族とかはやめてくれ。呼ぶなら日本人ジャパニーズだ」

「ジャパ?」

「ジャパニーズだ。日本人。日本という国の国民だ」

「……そんな国、知らない」


 マキシマムの言葉に、イゾウが口を開く。


「遠い場所にある」

「南方大陸?」

「いや、大宋の東……ま、場所はどうでもいい。どうせ行くことになる。その時にわかる」

「……? 大宋の東に向かうのに、北へ出る船に乗るのか?」

「集落がある。拠点というか……で、そこからレディーンや古龍が異民族に奪われないよう、本国に連れていく。お前も来るのはかまわないが、何を見ても……それがどんなに不思議なことでも、現実だということを理解してくれ」


 マキシマムは苦笑いを再び浮かべた。


「そう言われても、よくわからない」

「まあ、今はいいさ」


 ムネシゲが言い、マキシマムにとって不利な条件を言おうと決めた。


「俺達の国に来たら、欧州に帰れなくなるかもしれないがそれでもいいか?」

「欧州?」

「ああ、悪い。ユーロ大陸……お前が生まれ育ったこの大陸」

「それは困る。だから帰してくれ」


 二人は固まり、マキシマムを同時に見て、相手が冗談を言っている顔でないと確認し、お互いを見た。


 そして、同時に苦笑する。


 おかしな奴だというものだった。


「俺達には、どうすることもできない。上の人が決めたら従うしかない」


 イゾウの回答に、マキシマムは頷く。


「そうならないように庇ってくれ」

「……」

「……」

「問答無用で殺されたりはしないだろ?」

「それは……ないだろう」


 答えたのはイゾウだったが、彼は二割ほどの割合で殺されるかもなと思っていた。


 その表情を見て、マキシマムが言う。


「抵抗するぞ」

「わかった……そうなったら俺達が責任を追及される。ここでお前と戦うのも今は不利だ。だから、そうならないよう努力はする。これでいいか?」


 ムネシゲの提案に、マキシマムが頷く。


 今は、それで十分と思えた。


 そして、二人には伝えておこうと決めて、口を開く。


「俺は、レディーンが普通に暮らせるならそれでいい。確かに、知らない土地に行くというのは大変だろうと思うが、ここにいると危ないのはわかる。それを彼女もわかっているから、同意した……とても不安だろうけど、彼女は同意した。だから、俺は彼女が無事でいられることを確認するだけだ。長居はしない」

「わかった」


 イゾウが言う。


「それがいいだろう」


 ムネシゲが言い、大きく頷いた。


 イゾウは、おかしな人造人間ヒューマノイドの末裔である青年に笑みを見せる。そして、緊張した室内をなごませようと思った。


「今の季節は、桜が綺麗だ……こっちでは拝めない光景だぞ」




-Maximum in the Ragnarok-




 ヴェルナ王国のオクトゥール東で発生した異民族とグラミアの戦闘は、後者の勝利で幕を閉じたが、勝者たるグラミア人側に笑顔はない。


 岳飛虎崇ガクヒコスウが戦場を離脱したからだ。そして、圧勝であったはずの形勢であったのに、被害が参加兵力の二割に及ぶことが理由である。


 ダリウスは、被害の大きさの原因に気付いていた。


「敵を人間だと思っちゃならんな……」


 この言葉に、全てが詰まっている。


 まず、岳飛虎崇ガクヒコスウ個人。


 彼は脱出の為に、結界を無視する禁呪を発動し包囲を突き破ると、味方を無視して離脱した。


 次に召喚された兵達。


 彼らは形勢不利であろうが、負傷していようが、おかまいなしに暴れまくった。恐怖や疲労がないのではないかというほどの戦いぶりで、その為、グラミア側に大きな被害が出たのだ。文字通り、敵を全て殺し尽くして、ようやく戦闘が終わったのである。


 ダリウスは本国から到着した伝令から、ベルベット・シェスターが近衛連隊長に就任したことを聞かされた。そして、イシュリーンが各国に、大陸同盟主要国首脳会議の開催を要請したことも知らされた。


 ダリウスの隣でこれを聞いていたアウグストスが、司令官に問う。


「陛下は、戦いはまだ続くとお考えでしょうか? ダサイ奴は逃げ、化け物は根絶やしにしましたが?」

「終わってない。ダサイ奴が生きている限り、化け物はいくらでも湧いて出る。それに比べてこちらは補充がきかん。いくら俺とて、頑張っても一日で数十人は仕込めんよ……」


 アウグストスが苦笑する。


 だが、ダリウスは真面目な顔で続ける。


「肉がいる……大量の血肉が。それも、すぐに戦える兵士……岳飛虎崇ガクヒコスウを倒さないかぎり続く」

「ベルベット様に、同じく召喚魔法を使って兵士を出してもらうのは?」

「それは駄目だ。グラミアが大陸で悪になる」


 ダリウスは断言した。


 アウグストスは、首を傾げた。


「ですが、敵がしていることに対抗するには……」

「各国はどう見るか? 異民族を倒したら、その化け物が自分達に向くのではないかと疑うだろう。それが人だ」

「……」

「にしても、グラミアが踏ん張らないとまずいな、これは」

「……異民族は東から来ますからね」

「そうだ。トラスベリアや帝国はともかく、小国はあっという間に飲み込まれる……」


 ダリウスは厳しい表情のまま、「寝る」と伝えて自分の幕舎へと向かう。


 その彼の背後に、テュルクの女がそっとついた。


「お耳にお入れしたいことが」

「言え」

「若様が、レディーン王女を救出しました」


 ダリウスは幕舎へと入り、女も続いた。


「執念だな。よかった……しかし、妻にでもするつもりかな?」

「さぁ……ですが他の問題が」

「何だ?」

「若様はしばらく遠くに行くことになりそうです。ラブからは、我々の部隊が影でお守りするのは難しいほどの距離だろうと」

「どういうことだ?」

「わかりません。ラブも、それ以上は理解できないようで……船に乗るまでは追跡できますが、その後は……」

「連れ戻せ」

「……いえ、ナル様からは好きにさせるようにとのご命令で」

「……そうか、わかった」


 ダリウスは寝台に倒れ込むと、仰向けで両手両足を投げだした。


 テュルクの女が、彼の靴を脱がし、着替えを寝台の隅に置くと姿を消す。


 ダリウスは、寝息を立てていた。


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