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マキシマム・イン・ラグナロク  作者: サイベリアンと暮らしたいビーグル犬のぽん太さん
他人に石を投げる者達を見過ごすのは、加担したのと一緒なんだ
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佐藤という姓

「イゾウ……」

「……」

「イゾウ」


 ムネシゲに名前を呼ばれても無言のイゾウは仏頂面であった。


 イゾウはフォークでエビの身をほぐしているが、食べる為にというよりも、相棒から向けられる視線から逃れる為にそうしている。


 二人の前には、グラミア人の男女がいて、四人は円卓を囲んで食事をとっていた。


 北方騎士団領国の宿場町。


 空腹であった二人のうち、イゾウが空きっ腹に耐えかねてマキシマムの誘いにのってしまい、こうなっている。マキシマムは、腹が減って食べ物を探す為に馬車を覗いたという二人を、宿場町まで同行し食事をと誘った。どうせ同じ方向に進むならというものと、不思議な格好をした二人、それも龍族が、ただ食べ物探しで馬車を覗いただけではないという直感があったのである。


 二人はよく食べた。そして、満たされると、してはならないことをしてしまったと後悔するかのように元気がなくなった。


 おかしな格好の二人を、マキシマムはまじまじと眺める。


 二人とも黄色人種で、髪の色は黒だ。顔立ちも大陸西方では珍しいが、服装に比べれば目を引くものではない。


 まず外衣が不思議で、黒い革服ではあるが細い金属の糸のようなものが編み込んでいることがその光沢でわかる。襟を立てているのは、それで首を守っているからだと理解できた。そして胸、腰にはいくつもの衣嚢がついており、箱状のものから棒状のものまでたくさんの道具が収められている。


 またズボンも上着と同じ素材である。こちらも丈夫そうでもあり動きやすそうだ。


 そして二人の武器。


 マキシマムは火砲を見たことがあるし、触れたこともある。だから二人の持つものが火砲の類であろうという予想はできるが、火砲よりも軽量であろう質感で、また小さい。だが銃身は長く、単眼鏡が火砲らしき武器の背に備えられていて狙いを定めるのに便利そうだった。


 彼は、弾丸はどこからどうやって装填するのかと不思議に思いながら、二人が座る椅子にかけられた武器を眺める。


 ムネシゲがその視線に気づき、ご馳走になった手前、無礼もできないと口を開いた。


「珍しいか? 龍を狩るのに使う武器だ。銃の一種だ」

「じゅう……」

「そうだ。ご馳走になって助かった。路銀が乏しくて」

「いえ、龍族の方と会うのは初めてで、じろじろと見て失礼しました」

「龍族……竜人族とも呼ばれることがあるし、慣れたいけど慣れない。その呼び方はやめてもらえないだろうか?」

「嫌なのです?」

「まず、俺達は龍じゃない。人間だ」


 ムネシゲが一尾のエビを掴み、頭を取り、殻をはがす。現れた身をフォークでほごし、タレにつけた。


 ラブはずっと無言だが、それは三人の為に卓上の様子を眺め、飲み物を手配したり、追加を頼んだりという気遣いに集中しているものからである。その合間、彼女は少しずつ口に食事を運ぶ。マキシマムと行動を共にする時の彼女は、しもべに徹していた。


 ここでようやくイゾウがムネシゲを見て、彼らの言葉で喋った。


「誘いに乗って悪かったが、お前も食べたろ?」

「……ああ、別に責めてない。それよりも、早く別れよう」

「だな」


 二人の会話がなされた際、マキシマムは理解不能な言語に目を丸くした。


 言葉に強弱が乏しい、とても不思議な律である。


 イゾウがマキシマムに言う。


 グラミア語である。


「感謝している。が、そろそろ出発したい。いいかな?」

「……それはかまわないが、どちらに向かう? ペテルブルグ?」

「……これ以上、あれこれと喋ることができないんだ。俺達は」


 イゾウは相手に悪意はないと伝える為、やんわりと自分達の立場を伝えた。


 マキシマムは頷き、そういうしがらみはどこにでもあると思う。


「わかった。聞かない。だが教えてくれ。君達はあの馬車を調べた。それは、食べ物だけが目的じゃないだろ?」

「……」


 無言となったイゾウを、ムネシゲはちらりと見て口を開く。


「ちょっと、二人だけで話してもいいか? 逃げたりしない」

「どうぞ」


 マキシマムの返答をうけて、ムネシゲがイゾウの腕を掴み、マキシマムとラブに背を向けた。


 イゾウが眉を寄せて問う。


「何だよ?」

「彼は、知り合いがさらわれたと言っていた。俺達が追うヒューマノイド、彼の知り合いじゃないか?」

「……じゃないかと俺も思っていたが、それがどう関係してくる?」

「俺達と彼の目的は一緒だ。知り合いとやらを奪還する際、目標に対して俺達が敵じゃないと証明するのは実際のところ難しい。ある程度のことを説明し、協力できないか?」

「俺達は国や諸侯、組織とは関係をもたない……ヒューマノイド達の味方はできないし、敵にもならない決まりだろ?」

「別に味方と敵という関係じゃない。奪回するまで一緒にいるだけ……」

「本部にはどう説明する? 偵察衛星で撮影されたら、俺達の近くに二人が常にいるとばれるぞ」

「……土地に慣れた案内ガイドを雇ったと言おう」

「彼にはどう説明する?」

「俺達の目標は……彼の知り合いをさらった龍だと言う。彼がそれを龍だと知らないとしても、俺達があれは龍だと言えば、そう思うだろう。実際、龍だ」


 聞かれたくない会話を終えた二人は、改めて男女と向かいあう。


「失礼して悪かった。イゾウを説得するのに少し二人だけで話しただけだ。すぐに了解をもらえた。提案してもいいかな?」


 マキシマムは頷きを返す。


「ご存知の通り、俺達は龍を狩ることを生業としている。俺達が追う龍は……あんたの知り合いをさらった奴だ。あれは龍だと俺達は認識していて、狩りたい。あんたは知り合いを無事に取り戻したい。その為にさらった奴と戦うことがあるかもしれない。つまり、俺達は協力できる……が、安心してくれ。戦いは俺達に任せてくれればいい」

「龍……あれが龍?」

「見たのか?」


 問うたのはイゾウだった。


「見た。あれは女の姿をしているが、戦いの時は化け物のようになる。それに何度斬っても死ななかった」

「龍を斬った……か」


 イゾウが言いながらムネシゲを見た。


 ムネシゲは頷く。彼はマキシマムの言から、追う龍はヒューマノイドが使う武器でも斬れる相手だと理解する。そして、そうであるのは自己修復機能があるからで、硬度などはあまり意味がないからだともわかった。そこで、本部からの情報はほぼ正確であるとも察した。というのも、後期の龍は初期の頃に比べて、比較的、人間に似せて作ろうとされていたからだ。有名なものは大宋国にいた金龍と呼ばれる古龍で、人間の容姿をした兵器だったのである。


 多能性幹細胞から生み出された生物兵器、それが後期の龍だというのが龍族と呼ばれる彼らの認識だった。


 その最高傑作がラヴィスで、龍やヒューマノイドから人間を守る部隊の指揮官として作られている。人工知能の処理能力は五〇〇京を超えると言われているが、測定不能なので正確な数値はわからない。しかし、速度よりも重要であるのは、ラヴィスは論理と感情の均衡が取れていることで、簡単にいえば恐ろしい天才と言える。


 年を取らない天才がラヴィスという表現が近いかもしれない。


 そのラヴィスを開発したのが、オルヒ・ディン・シェスターで、彼の開発を助けたのがヴィラ・ミュラーという名前を与えられたヒューマノイドだった。女性型であったのは、オルヒが自分の想像上の恋人を現実のものとしたかったからと言われている。このあたりの行いが、イゾウやムネシゲがオルヒを馬鹿と言う理由のひとつだった。しかし皮肉にも、ヒューマノイド側に寄りすぎたオルヒに、ラヴィスは従わなかった。彼女――身体の性別は女性であるし、与えられた人格も女性であるから彼女と呼ぶが、ラヴィスはあくまでも人間保護を使命と認識し、北極圏の地下に存在する人工孵化センターを守っている。


 イゾウも、ムネシゲも、そこで生まれたのである。


 ムネシゲには、その北極圏に入ろうとするバァルが、実験空間のゲートを開こうとする理由まではわからない。しかし、ラヴィスにとって敵にあたるヒューマノイドの身体に入っているバァルが彼女と出会うと、よくないことになるという予想はついていた。そして、戦争や政争とは無縁でいる為にも、龍と人間の争いがヒューマノイドの世界に影響を与えてはならないとも考えていた。


 それで彼の説明は、次のようなものとなった。


「俺達が追う龍は、あんたの知り合いをさらった。これはどうやら事実のようだ。あんたが無事に知り合いを取り戻すまでは、俺達は同じ敵と戦うことができると思う。ただし、その後はそれぞれに目的を果たそう。それでいいなら、手伝う。俺達はその龍がどこにいるか、だいたい把握できる装置がある。それはあんたにとっても助けになるだろう? あんたは、その知り合いに俺達は敵じゃないということを伝えてほしい。混乱が混乱を招いて、あんたの知り合いが死ぬのは俺達も困るんだ。北方騎士団領の北に抜けようとしているようだから、その前に片付けたい」


 鍵となる生体情報を持つヒューマノイドを奪還しろと、二人は命じられているのである。




-Maximum in the Ragnarok-




 四人は食事を終えて出発する。


 馬に乗る二人に合わせる為、イゾウとムネシゲも宿場町で馬を借りた。路銀がないという二人の代わりに、マキシマムが払ったのである。


 夜となっても駆ける四人は、ラブを先頭にマキシマム、そして二人の順である。ゆるやかな速度は、馬への負担を軽くしようというものである。


「あの二人、そうとうに旅慣れているな」


 イゾウの言葉に、ムネシゲも同意だった。


 身体を強化している二人からみても、ヒューマノイド二人は疲労を感じさせない様子なのである。


 通信が入り、イゾウは馬上のまま通信機器を操作した。


「はい、焔班」

『お前ら、一緒にいるのは何だ?』


 早速ばれたか、というイゾウの内心を見透かしたように、本部の者が続ける。


『下手なことはしてないだろうな?』

「北方騎士団領は初めてなんで、案内を雇ったんですよ」

『金はどうやった? ヒューマノイド達の使う貨幣はそう渡してないだろ』

「食費を削ってるんですよ。それだけですか?」

『……異民族の軍勢が、ヴェルナのグラミア軍とぶつかりそうだ。近づくなよ』

「ありがとうございます」

『スカンジナビアのくろがね班がバァルに接触する予定だ。新しい情報が入ったらまた知らせる』

「了解」


 通信がきれた時、ムネシゲが口を開く。


「バァルとは会話になるんかね?」

「さぁ? それよりグラミアのこと、あいつらに伝えたほうがいいかな?」

「関係ないだろうけど、グラミア人に伝えないのはおかしいだろうな。一応は伝えておけばいいさ。俺達が他の仲間と連絡を取っていると、それであいつらもわかるだろ」


 情報網があることを、それで伝えられるとムネシゲは言っていた。


「グラミアといえば……」


 イゾウが言う。


「……例の……俺達の仲間じゃないかと言われていた奴がいるな」

「サトウだろ? 佐東か佐藤かわからないが、サトウ、スズキ、フジワラは三家だ。しかしなんでヒューマノイドの国に味方したんだろうか……」

「だが欠員で該当はなかったし、孵化センターで手違いがあって、ラヴィスも見過ごしてああなったのかもしれない」

「三家の方々はグラミアに注目しているのは、やはり手違いがって……一族の誰かがと心配なのかもしれない」


 二人はそこで、前を行くグラミア人と少し距離が離れたと感じて速度をあげる。


「わざわざグラミアの様子を監視しているから、さっきのもわかったんだろうさ」


 イゾウの言葉に、ムネシゲは笑った。


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