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マキシマム・イン・ラグナロク  作者: サイベリアンと暮らしたいビーグル犬のぽん太さん
他人に石を投げる者達を見過ごすのは、加担したのと一緒なんだ
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龍に関わる者達

 グラミア王国暦一三七年の冬も終わろうという頃。


 しかし北国はまだまだ春には遠い。


 北方騎士団領国西側国境付近、トラスベリア王国グレイグ公の直臣であるリゼルベーグ伯爵領との境は、丘陵地帯に針葉樹の森が広がっている。両国を結ぶ街道も雪で隠れているが、轍の跡が、道がそこにあることを教えてくれた。木々に挟まれるように東西を結ぶ街道から少し外れた岩陰で、二人の黄色人種の青年が火をおこして囲っている。雪を積み重ね天幕ほどの大きさである囲いを作って、中で暖をとっているのだ。雪で作られたとは思えないほど、中は暖かいようで、それは二人の血色を見ればわかる。


 しかし疲労はあるようだ。


 銃の手入れをする青年が、相棒に問う。


「ラヴィスの動きが活発なのは、異民族の動きに呼応しているからかな?」


 龍族言語で問う彼の言葉を、仮にナルが聞けば驚いただろう。


 日本語なのだ。


 彼の相棒は、空腹を訴える腹を手でさすりながら答える。


「異民族が召喚魔法を使って、下級の龍を戦争に使っているという噂が本当だったら、そうなんだろう。ラヴィスはもともと、龍でありながら龍と戦う側の頭領だ。ムネシゲ、食えるもの残ってないか?」

「ない……宿場町に着くまで我慢しろ……あまり金が残ってないが、空腹を誤魔化せるくらいなら食べられるだろう……雪が止んだから、そろそろ出発しようか」

「ああ……親父殿もケチだ。路銀をちゃんと渡してくれない」

「北方騎士団の総長に手紙を届けるだけというから簡単だと思ったが……トラスベリアを抜けるのに苦労した」

「ああ……シェブール公とバイエル公の戦争は派手になるな」


 ムネシゲと相棒に呼ばれた青年は、大陸西方の人々の中では小柄なほうである。相棒のイゾウも背格好は似ていて大陸西方では珍しい。彼ら黄色人種をみたら、龍族であるというのは大陸西方では当然のことかもしれない。


 古龍と呼ばれる特別な龍を狩る事を生業にする少数民族の龍族は、二人から三人で行動する。彼らもまたそうで、龍族の拠点があるトラスベリアの北から北方騎士団領まで旅を続けてきたのである。様々な国を移動することから、彼らが多言語を操ることでも有名であった。


 しかし今は二人だけなので、彼らは龍族の言葉で会話を続ける。


「ラヴィスに会っておくか? 異民族の件で」


 イゾウの誘いに、ムネシゲは苦笑する。


「路銀がもたないよ。それに北に抜けるのは騎士団の許可が下りないだろう? 総長に手紙を届けた足で北に向かうと、疑われるぞ」

「そうだな……」

「俺達はなるべく、国家間のしがらみに関わらないことだ……ご先祖の尻ぬぐいを延々とするだけに集中すればいいんだよ」


 ムネシゲの発言には、自分達の親より前の世代に対してというより、もっと古い祖先への不満がある。彼は他に誰もいない今、銃の手入れもひと段落したが出発するにはおっくうな心持ちを誤魔化そうと愚痴を吐く。


「自分達で作ったものに脅かされて、それを制御するためにまた作って、それで星が汚れたらまた掃除する為に作って……結局、捨てて逃げ出した。どれだけ無責任なんだ? そいつらのせいで、俺達はこうしてここに残っていることに責任は感じているのかね? 遠い過去の馬鹿どもは」

「そういう想像をしない人しかいないから、こうなってるんだろう? ま、経済重視で世界が動くのは今の、ヒューマノイド達の世界も同じことじゃないか。俺達の世代で、掃除を終わらせればいいのさ」

「あと一二五体もいる……登録されているだけでこれだけいるんだ。終わるか?」

「……居場所がわからない奴をいれたら倍はいるだろうな」

「アフリカ大陸のほうにいった奴らとは音信が不通になったそうだが、何か聞いているか?」


 イゾウは首を左右に振ると、雪の穴から外へと出た。それはムネシゲを誘う意図がある。


 ムネシゲは、仕方ないと腰をあげ、荷物を掴んだ。


 グラミア王国で使われている火砲よりも軽量化された形状の銃は、一〇発の弾倉をもつライフルで、ウラン合金弾を発射する。硬い金属に覆われた古龍を倒すには、これが最も効果があると彼らの中では常識だった。


 ムネシゲは銃を肩にぶらさげ、荷物を背負う。


 どこかで木々の葉に積もっていた雪が落ちた音が、二人に届いた。


 イゾウが銃を手に、周囲を警戒する。


 人の手が入っていない山中や森林地帯には、龍族の中でも危険な悪龍や魔龍が潜んでいることがあるのだ。彼らは遠い過去、人を攻撃する為に作られた。それがそのまま、今も人が現れるのを待っているわけだ。動き回って人を襲うほどに体内電池が残っていないらしく、多くの危険な龍は行動を最小限にとどめ、戦闘時に力を発揮するべく備えている。


 イゾウは街道の先、トラスベリア側に人影を見た。


 商隊だろうと思われる。


 白い装束で固めた彼らは、馬車と荷馬車を中心に急いでいる様子であった。


 イゾウはトラスベリア種の馬が曳く馬車を遠目に、箱のような形状であると認め、罪人を移送しているのかと疑ったが、しかし警備の者達はどこかの兵士でもないようで、考えるのをそこでやめた。


 煩わしかったのである。


「おい、先に行かせよう」


 イゾウの言葉に、ムネシゲは頷く。


 二人が街道の脇に立ち、雪の中を急ぐ一隊をやり過ごす。速度が出ていると二人にはわかった。周囲の馬に乗る者達の一人、最後尾の女がフードから覗く口を開き、その馬だけが止まる。


 イゾウとムネシゲは、黒髪の美女を見上げる。


「すまない。道を譲らせたな?」


 アルメニア語だと二人にはわかった。


「いや、こちらは徒歩だ。この先、北方騎士団領に進むと山越えがあるが、あの馬車では難しいと思う」


 イゾウの親切に、女は微笑む。


「助かる」

「そうとうに急いでいるが、問題が?」


 ムネシゲの問いに、イゾウは『関わるな』という視線を相棒に向けた。


「悪者に追われている」


 女は後方を眺め、二人も見た。


 しかし、何も見えない。


「少し距離を稼げたかもしれない。急ぐ。ありがとう」


 女が掛け声を馬にかけ、一気に速度をあげた。


 イゾウが歩き出し、後ろに続くムネシゲに言う。


「スケベかよ……見てくれがいいとすぐに親切をしようとする。ヤりたいのか? ヒューマノイドと」

「……そういうつもりはない」

「昔の馬鹿どもと一緒になるな。快楽の為にヒューマノイドを作ったスケベな男や女は、その後、遺伝子異常の病気を蔓延させただろ」

「違うって言ってるだろ」


 ムネシゲは内心を見透かされたことへの反発で不機嫌を装い、イゾウを追い抜いた。


 ここで、イゾウが背負う荷物が、音を発する。


 イゾウは舌打ちし、歩きながら荷物の衣嚢をまさぐり小さく黒い箱を手にした。


 通信機器だった。


「はい、こちらほむら班」


 イゾウが返答すると、箱から音が発せられる。


『本部だ。昨年に確認された地球衛星軌道上の防衛衛星再起動の件で、新しい情報が入った。お前らは一番近い。やれ』

「何を?」

『コードネーム、バアルは知っているな?』

「ええ、あの馬鹿ね」


 イゾウの言いようにムネシゲが笑う。


 二人の歩く速度が少しゆるまった。


『居場所がつかめた。北方騎士団領の北、ラヴィスの縄張りに入った』

「それは完全にこの宇宙に存在しているという意味で?」

『オルヒの身体のスペアに入り込んでいる』

「……馬鹿と馬鹿が合体したのかよ」


 通信を聞いていたムネシゲの悪態に、イゾウが笑う。


『ふざけてるんじゃない。ちゃんと聞け』

「はいはい」


 イゾウが返答する。


『実験空間のゲートを開こうとしているようだ。ヒューマノイドの生態情報を鍵にするようだ。それを奪回しろ』

「それはどこに?」

『55.329144、21.752929が直近の観測場所だ』


 ムネシゲが衛星から送られる現在地観測機器を荷物から引っ張りだし、それはつまりここだと気付いた。


 二人は視線を重ねる。


「さっきのだ!」


 イゾウの声に、通信機器から大音量が発せられる。


『追えぇ! 馬鹿共!』


 二人は慌ただしく機器をしまいこむと、雪を蹴るように前進した。




-Maximum in the Ragnarok-




 ムネシゲとイゾウは、息切れで走るのをやめると、もっと早くに通信してこいという本部への愚痴を吐き合い、尾根に立つ。針葉樹の幹に手をかけたイゾウは、隣で単眼鏡を覗き込むムネシゲに問うた。


「どうだ? 見えるか?」

「いないな……轍もない……いや、途中で消えている」

「付近に馬車を捨ててないか?」

「……あった!」

「行こう」


 二人は銃を構えながら、お互いを掩護できる距離を保ちつつ斜面を下る。雪に足がとられて滑るも、なんとか耐えながら動かない馬車へと向かう。


 イゾウが木にぶつかるように止まり、少し離れた木にムネシゲも隠れる。その近くに、街道から逸れた木々の影に馬車は乗り捨てられていた。


 馬はいないが、あちこちに馬が駆けた跡が残っていることから、ここで解放したものと思われる。おそらく、疲労などで使えなくなった馬を放ったのだろう。


 イゾウが手信号で、ムネシゲに前進を伝えた。


 ムネシゲが、銃を構えて素早く馬車へと接近する。その背後に、イゾウが続き、馬車にとりついた瞬間、蹴破る。その背後をムネシゲが守った。


 中は空だった。


 しかし、何者かがいた痕跡がある。


 イゾウが馬車へと乗り込み、捨てられた毛布を掴む。


「まだ少し暖かい」

「遠くには行ってないな?」

「おそらく……だがこうも馬に地面を荒らされたら、どっちの方向に行ったのかわからん」

「……いや、北方騎士団領の北だろう」


 ムネシゲの発言は、バアルが現れた場所を一行も目指していると読むものだった。それはそう難しいものではない。


 イゾウは同意し、通信機器を取り出す。


「本部、こちら焔班」

『……本部』

「目標は移動している。馬車を捨てた。追跡する」

『了解した。位置情報を掴めたら送る』

「どうしてその位置情報を掴めた?」

『……目標を確保した龍の生態識別を追っている』

「龍が関与しているのか?」


 イゾウの問いに、本部は少しの空白を挟み、答えた。


『古龍に匹敵する龍だ。量産型ではない。試作型でも後期の龍だ。油断するな』

「どういう特徴がある?」

『自己修復機能と擬態だ』

「擬態?」

『見た目はヒューマノイドだ』

「了解」


 通信を終えたイゾウは、ムネシゲが後方を警戒していると見て振り返った。


 街道を、二頭の馬が駆けてくる。頂きから、下り斜面を見事な手際で進む。


「男と女だな」


 ムネシゲの声に、イゾウは頷く。そして、関わるなと言おうとしたが、女のほうが彼らに気付いた。


 隠れるのもおかしいと、イゾウとムネシゲはこちらへと接近する二人を眺めて待つ。


 男のほうは、二人よりもまだ若い。女もそう年齢が変わらないようである。


「その馬車は!?」


 男の声に、ムネシゲが答えた。


「知らん。乗り捨てられていたんだ」


 イゾウは、男の言葉がグラミア語であったことから、男女はグラミア人だと勘付いた。


「知り合いが捕まってさらわれた。追っている。どちらに行ったか知らないか?」


 男の声はそうとうに焦っているようだ。


 ムネシゲがイゾウを見た。


 イゾウは、苦笑しつつ口を開く。


「さっきまでここにいたはずだが、その後は知らない。俺達は何か喰い物がないかと思って中を見ただけだ」

「マキシマム様、彼らは龍族です」


 女が男に小声で話した。


 二人は、自分達を龍族と呼ぶ男女に笑みを向ける。


「その龍族とかいうのはやめてもらいたいね……」

「くそ! やっと追いついたと思ったのに」


 イゾウの発言を無視した男――マキシマムは遠くを睨む。


 その横顔を見るムネシゲは、こんな顔に生まれれば女に困らなかったと羨んだ。


「中を見させてもらえる?」


 女の問いに、イゾウは頷きを返す。


 男女が馬から降りた。


「すまない。俺はマキシマム・ラベッシ。彼女はラブ」

「ホムラ・イゾウとホムラ、ムネシゲ……ホムラが姓」


 イゾウが名乗り、馬車を男女に譲る。


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