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マキシマム・イン・ラグナロク  作者: サイベリアンと暮らしたいビーグル犬のぽん太さん
僕達は諦めない。
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それぞれの戦い

 マキシマム率いる連隊は、ルキフォール人達から村を取り戻した。そして負傷した村人達に護衛をつけてブロクブリエへと送り出す。


 彼らが無事にブロクブリエに入るまで、村を動けないとマキシマムは部下達に伝えた。


「戦争は悲惨なものだと思う。苦しむ人達は必ず生まれるだろう。でも、そうだからといって、無視していいとは思わない。俺達の国は過去、苦しんでいた。だからこそ今は、苦しむ側の人達の為に戦うこともできると思う」


 マキシマムの言葉は澱まない。


 作戦卓を囲んでいる彼の部下達は、誰もが真面目な顔で連隊長の発言に聞き入っていた。


「一〇人ばかりの村人の為に、俺達が戦うことはないと考えても、それはおかしいことではないだろう。しかし俺は違うと言いたい。俺達は、時として目の前の不幸を無視しなければならないから、今回もそうしろと言う人もいるだろう。だけど、今日はそうじゃないと俺は思う」


 村周辺の地図が置かれた卓上で、蝋燭の炎が激しく揺れる。


 風がでてきたのだ。


 灯りがなくては地図が見えない頃合いの今は、夜更けとまではいわないが、夕刻というには遅い。


 マキシマムは緑玉の瞳を煌めかせる。


 美しい輝きに、エフロヴィネが思わず瞬きをしていた。


「ルキフォール公国の軍勢を、明け方まで防ぐ。またこれは、他の地域で展開している彼らの軍勢を動揺させることに繋がる。これでボルニア公国の東部軍団も少しは助かるだろう」


「隊長」


 副官のギュネイが発言を求め、許可の後に口を開く。


「ボルニアの東部軍団には伝令を遣わしておりますので、到着すれば、この位置で我々が敵を防いでいることは知るでしょう。明け方まで敵を防いだ後、合流するべきと考えます」

「わかった。ボルニアの東部軍団との連絡は密にしよう。例えば、合流の為に移動する際、ルキフォールが追撃してくるなら、敵を引き連れてボルニアに側面を叩かせることもできる」

「承知しました」


 ギュネイが伝令を呼ぶ。


 ここで、別の伝令が声をあげた。


「報告! ボルニア公姫殿下より伝令が到着!」

「通せ」


 ガレスが応え、すぐにボルニア人が姿を見せた。グラミア人と同じく白色人種が多い国だが、その伝令は黒い肌の兵士であった。


 兵士が片膝をつき、マキシマムが発言を促す。


「申せ」

「は……殿下より、東部軍団との合流をまずは急いで頂きたいとの由」

「承知した。しかし、貴国の村人が危害を加えられていたので助けた。しばらくこの村から動けぬゆえ、早朝を目途にいたす」

「かしこまりました。では某はこの足で東部軍団に向かい、その通りに伝えます」

「頼む」


 一礼し去るボルニア人は、グラミア軍中を眺めながら自分の馬へと向かう。すると、彼の馬の手入れをグラミア人達がしてくれていた。


「助かる」

「馬轍は交換する時間なかったが、食事を与えた。あと、この気温だが汗をかいていたので股を冷やしておいた」

「貴公らの心配り、痛み入る。我々(ボルニア)は恩を忘れぬ。必ず返す」


 その兵士は鮮やかに馬上となり、鞭を入れることなく馬を加速させた。それは馬に慣れたグラミア人達からみても熟練であるとわかる。


 遠ざかるボルニア人を眺め、グラミア人達は短い会話を交わした。



「あいつ、やるな」

「ああ、あの馬、良い馬だったからな」




-Maximum in the Ragnarok-




 夜が深まると霧が発生した。それを払おうと風が木々の間を吹き抜けるが、淡い幕は揺らいだだけで漂っている。


 マキシマムは、この霧を敵は利用するに違いないと読んだ。


 彼は自ら指揮する中隊を最も北側の経路に配置し、中央にはギュネイを置いた。そして南側にはエフロヴィネを置く。


「俺はやはり頼りになるでしょ?」


 ガレスの軽口に、マキシマムが苦笑する。


「ああ……遠慮なく命令できる」

「……」

「褒めてるんだ」

「……どうして北側に兵を集めたんです?」

「敵は戦力を必ずどこかに集中させる。南側はないだろう。先の戦闘でエフロヴィネの魔法で瞬殺されている。となると真ん中か北側だが、真ん中はギュネイがいれば大丈夫だろう。敵も彼の強さは理解しただろうし……」


 マキシマムは続ける。


 ルキフォール人達が戦力を集中させるなら北側の、この経路だと。


 ガレスは前衛を務めるパイェの部隊を眺めようとしたが、霧が邪魔して見ることができない。しかし、直後、派手な爆発音が戦闘開始を訴えた。


 鼓膜を揺らす爆発音の後、鋼と鋼がぶつかりあう高らかな金属音が続き、人の喚く声が大量に発生する。


 マキシマムはガレスに命じる。


「前進。パイェが後退してくる」

「了解」


 ガレスが部隊を率いて前進した。


 彼は弩兵に矢を装填させている。その弩兵達は五列で進み、後退してきたパイェ中隊の為に兵と兵の間に隙間をあけていた。


 狭い山道でも、鮮やかに部隊を入れ替えたマキシマム連隊は、後退するパイェ隊を追ったルキフォール人達めがけて、弩の斉射を喰らわす。


 それは、五回、連続して行われた。


 人体が吹き飛ぶという有り様で、受けたルキフォール人達は前へと向かう推進力が削がれた。直後、ガレス達の突撃兵がひるむルキフォール人達に襲いかかる。


 その先頭で、ガレスは雄叫びをあげた。


 人を殺して捕まった彼が、今度は国の命令で異国人を殺している。


 しかし、盗みを働こうとしてつい殺めてしまったものと、意図をもって殺しにかかるのでは全く違う。


 だが彼には、そんな感傷はない。


 ガレスはただ剣を振るった。生きる為に、自由になる為に、隣と後ろの仲間の為に。


 彼はひたすら、戦い続ける。


 グラミア人達は誰もが返り血で赤く濡れている。その武器は滑りを帯びていた。


 霧は彼らの蛮勇を隠した。


 ルキフォール人達は、前の味方がどうなっているかわからないまま進めという命令に従い、剣と矢を受けて驚く。


 マキシマムはガレス達の後方を進みつつ、前衛の前進速度が落ちたと自らの歩みで感じ取った。


「交代」

「はい」


 マキシマムの指示で、伝令が角笛を吹く。


 ガレスは最後だとばかりに長剣を一閃した後、弩兵の斉射を掩護に後退する。


 やられていたルキフォール人達は、前進だと怒声をあげた。


 そこに、ガレス達をすれ違うように前に出たマキシマム隊が、弩を斉射した。


「突っ込め!」


 のたうちまわるルキフォール人達に向かって、マキシマム隊が加速する。彼らは盾を並べて敵とぶつかると、敵前衛を押し返し、槍をつき、あるいは投げて敵を倒していく。武器を長剣、戦斧、戦棍に代えてからも暴れまくり、疲労を覚える前にはマキシマムの後退命令が出されていた。


 マキシマムは巧みに部隊を交代しつつ、敵への打撃力を保つ。そうしつつ、最後方のパイェ達には前進を命じ、ガレス隊には後退指示を再度だす。


 指揮するマキシマムに、中央から寄越された伝令が声をあげた。


「報告!」

「許す!」

「ギュネイ副長から報告! 敵! 戦力を北に集中した模様! 加わりましょうかとのこと!」

「そうみせかけ、我々が部隊を北に集めると他を抜く魂胆であった場合は危うい。勝つ必要はない戦闘だ。そのままでいろと伝えよ」


 マキシマムは言い終えると同時に、前方を睨んだ。


 彼は、霧で見えない敵へと向けて、魔法を放とうと意識を集中する。


 天雷(テオゴニア)は、広範囲を雷で攻撃する難しい魔法だが、ベルベットの教えを受けた彼は、呪文の詠唱などなくとも発動した。


 ルキフォール公国軍中衛は、苦戦する前衛を助けようと前に急いでいた。そこに、暗闇が支配する空から落ちた雷達が襲い掛かる。


 音よりも早く地上を撃った落雷は数本。


 それらは、地上と空を繋げる光柱のようでもあった。


 腹に響く落雷音の連続と、爆発音の連なりが人間達の鼓膜を激しく揺すった時には、破壊は既に齎されていた。


 死ねたことを羨むほどの惨状に、ルキフォール人達は声も出ない。


 戦意を失うとは、まさにこのことであった。




-Maximum in the Ragnarok-




 北方騎士団領の北端に築かれた北壁を守る師団に配属されているラムダは、壁と呼ぶにはあまりにも厚く高い城壁の上から、北の方向を眺めている。


 氷の世界とも呼ぶべき白い光景を、数千の騎士達が蠢めいている。


 彼らは、北の龍族と戦う為にこの地にいるのだ。


 その彼らの奥、さらに北には、最果ての龍とも、氷の女王とも呼ばれるラヴィスの眷属が三体、広大な森林を背にして、人間達を威嚇するかのように佇んでいた。それは遠目からでもわかるほど巨大で、生物とは思えないほどの威容である。甲冑を連想させる外観はどんな金属が使われているかわからないが、剣や矢を通さぬ硬さであるとラムダは聞かされていた。


 ラムダの隣で、同じように北を睨んでいた女騎士が口を開く。


「あれがラヴィスの手下、右からゴリュウ、テンクウ、イリヤ」


 ラムダは教育係の先輩騎士が指差す順に龍を見て、思ったことを口にする。


「あれに勝てるんです?」

「さぁ? 勝ったことないから戦っているのだけれど?」


 女騎士は微笑んでいる。彼女はトラスベリア人で、ウラム公爵によるグレイグ公領侵攻によって故郷を追われた。彷徨う中でいくつもの罪を犯し、逃れる為に北方騎士団を頼った過去がある。ラムダよりも長身であるが戦いの中で鍛えた四肢は引き締まっている。


「ラヴィスという龍は出て来ないんです?」

「いるわよ」

「どこに?」

「テンクウの肩に乗ってる」


 ラムダは腰の革袋から単眼鏡を取り出し、右目で覗いた。


 巨大な化け物の肩に、それはいた。


 透き通るような、という表現がふさわしい可憐な美女が金色の瞳を煌めかせている。そして彼女は、自分を覗き見る男に気付いたというかのように、単眼鏡を覗くラムダを見た。


 びくりと半身となったラムダに、女騎士が笑う。


「メリーズ……笑うことないじゃないか」

「びびったわね?」

「……びびった」

「素直ないい子ね」


 メリーズがラムダの頬を撫で、誘惑するような流し目を送る。だがそれが彼の脅えを誘った。


 彼女は有名な暴力女で、男を寝台に引っ張り込むと、自らの欲求を満たす為に殴りながら交わることで有名なのだ。


「ラムダ、相手からは見えてないわよ」

「でも、こっちを見た」

「見えてないわよ」

「……あの女が、ラヴィス?」

「そう。見た目はああだけどね」

「戦いをやめようと、話し合いはできないのか?」

「……話し合いは過去、数度……でも彼女はこう言うらしいわ」

「?」


 メリーズが脇に抱えていた冑を被りながら続ける。


「お前じゃない……違うって。その直後、殺されちゃうみたいね」

「……」

「心臓を掴まれて引きずり出されるらしいわよ」

「……そんな近くまで近寄れたなら勝てそうな……巨人じゃないし」

「それは頼もしいわ。頼もしい子、好きよ」


 メリーズが舌なめずりをして見せる。


 ラムダはぞくりとして背筋を伸ばした。


「そろそろ、始まるわね」


 メリーズが、見ろと仕草で伝える。


 ラムダが、北を睨む。


 角笛が鳴らされ、騎士達が前進を始めた。


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