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マキシマム・イン・ラグナロク  作者: サイベリアンと暮らしたいビーグル犬のぽん太さん
僕達は諦めない。
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戦うことを選ぶ

 グラミア軍の標準装備は、身体を守る防具として、鎖帷子をまず着込み、その上で胸当てや腹当て、背、肩、腕や大腿部の一部などの血管を守る軽金属の部分防具から構成される。全て青色で統一されているのは、混戦時に敵味方の区別がつきやすいようにという理由だ。腰の革帯には長剣が一本、盾の裏側には短剣が一本で武器である。ここに短槍を加えるが、戦闘開始直後に、槍は敵に向かって投げられることが多く、主武器は長剣である。


 弓を放つ兵は盾も槍も持たないが、接近戦となるとやはり長剣を使う。この長剣は斬る、叩くという攻撃を目的にされたもので重量がある。女性は細身の剣を扱うことが多く、斬るというよりも敵の甲冑の繋ぎ目を突くという攻撃が効果的であった。


 魔導士は通常の兵士と見分けられるように、マントの色が違う。


 通常の兵士はマントが青、魔導士は朱であり、これは魔導士が敵に攻撃された場合、近くの兵士は必ず魔導士を助けられるよう見分ける為だ。


 ところが、当然ながらグラミア国軍であることを隠すボルニア派遣軍は、軍装はばらばらで、色彩も様々である。混戦時にどうやって敵味方を見分けるかが課題であったが、ペルシアの諺を合言葉にすることになった。


 ガレスの発案である。


『一〇人殺して半人前』

『女を落とせば一人前』


 マキシマムが微妙な表情でそれを承諾したのは、童貞だとからかわれている自分への当てつけが含まれていると感じたからである。


「……そうほいほいと女性とそういう関係になれる君達がうらやましいよ」


 行軍中、マキシマムが隣のガレスに言った。


 ブロクブリエの町を出たマキシマム隊は、東へと進んでいる。途中、ボルニア公国軍と合流し、総勢三〇〇〇程の軍勢となって西進するルキフォール公国軍を防ごうというのである。


 ガレスはマキシマムの言を受けて、隊長がおかしいと反論しさらに続けた。


「アルメニア人じゃあるまいし、何をそんなに固いんです?」

「……」


 反論できないマキシマムの代わりに、すぐ後ろに続くギュネイが口を挟んだ。


「彼のような男がいるから、世の中はちょうどいいくらいに調整されているのさ……世界の不思議だ」

「そんな不思議はスーザ人の頭よりもどうかしてると思いますがね」


 グラミア人らしい感想のガレスが、ここで真面目な顔となり前方を眺めた。


 マキシマムも、変化に気付いている。


 彼らは丘陵地帯から森を切り開き伸ばされた街道を進んでいるが、その前方には山々の尾根が連なっている。木々は背が高く、凍えそうな風をいくぶんか防いでくれているが、雪雲が森を覆い潰そうかというほどに低い。その雲と木々の隙間、前方の尾根のひとつから、黒煙があがっているのだ。


 戦闘が始まっていると見た者は総じて感じた。


 マキシマムが斥候を放つ。


 傭兵を装っている彼らに騎兵はいなかった為、ブロクブリエで馬を二〇頭買い上げ、それを斥候に使っている。とても戦闘には出せないが、贅沢は言っていられずそうした。


 斥候二騎が、泥をはね上げて離れて行く。


 隊列後方にいたエフロヴィネが、異変を感じ取って中列のマキシマムを訪ねて来ていた。自然と、士官達が連隊長を囲む。


「兵達を少し休ませる。軽食と水分補給は必ずするようにと伝えろ」


 マキシマムの命令で、伝令数名が駆け去った。


「思ったよりも戦場がニーシェに近いのか?」


 マキシマムの問いに、サムエルが地図を広げる。


 パイェが、チーズを齧りながら言う。


「ブロクブリエを出て半日……一〇〇〇〇デールほど東に移動しただけでもう遭遇ですか」

「敵の斥候と、ボルニア公国の部隊がぶつかっただけかもしれない」


 巻煙草を咥えたギュネイが、エフロヴィネに魔法で火を点けてもらいながら考えを述べる。


「敵の威力偵察で、村が焼かれた可能性が高いと見る」

「それをする敵の利点は何です? 村を残せば部隊を配置できるので兵站が楽になると思いますが」


 マキシマムの生真面目な問いに、副官が苦笑し煙を吸い込んだ。


「グラミアの常識は通用しない敵もいるだろう? あれが略奪なら、焼かれるさ。この場合、ルキフォールは敵の拠点になりかねない地点を潰せるし、食料を得ることができる。憂さ晴らしもできる……と考えるのが悪者側だろ」


 ギュネイは、煙を吐き出しながら言った。




-Maximum in the Ragnarok-




 ボルニア公国は山岳地帯に築かれた国で、国土の半分以上が山である。平野部は人間達が占領し、山間部や山中は亜人種と呼ばれる者達がひっそりと暮らす。彼らはお互いの暮らしに干渉せず、接近しないがゆえの平穏な時代がしばらく続いたが、神聖スーザ帝国の侵攻にボルニアの人間達が困るようになると、この関係は変化を強いられた。


 当初、亜人種達は人間同士の争いに関わらなかったが、スーザ人にとって相手がボルニア人であろうが、亜人種であろうが一緒である。


 亜人種達は自分達の村を焼かれ、家族を殺され、畑を荒らされた。


 ボルニアの亜人種達は、ボルニア人達と協力し神聖スーザ帝国に対抗するようになる。ここに、南部諸国の各国が援軍を派遣し、ボルニアの地は神聖スーザ帝国と南部諸国同盟の戦場となった。


 グラミアと帝国が激しく争っていた時期は一時的に大きな戦闘は発生しなかったが、両者が休戦状態の現在、情勢は過去に戻ったかのように荒々しい。


 このボルニアで、戦姫と呼ばれる女性がボルニア公国軍の指揮を執っている。公王の娘で、父親と兄を助けたいと戦に身を投じた彼女の名前はアルセリーナという。とっくに四〇を過ぎているが、「二〇歳だ」と自称する姫は、夫も取らず、嫁がず、その人生の七割を戦争に投じていた。


 黒髪を雨で濡らす彼女は、伝令の報告に舌打ちを発していた。


 ルキフォール公国軍の一部の部隊が、ニーシェ東の防衛線に接近しているというのだ。村を焼きながら進む敵は間違いなくボルニア公国軍を誘い出そうという動きで、それは西から東へと進む帝国軍が、ニーシェを攻略する為の布石だと見抜いていた。


「公女殿下、ご自重ください」


 進言したのは山猪ドワーフとも呼ばれるザクセン人のラムジーで、ずんぐりとした体躯に似つかわしくない大剣を手に、全身を覆う甲冑をすでにまとっていた。彼はその姿で、自分が出ることを公女に伝えていたが、彼女は彼こそ出してはならないと頭を払った。


 ボルニア公国軍のザクセン人とヒッタイト人の部隊は、実は主力である。それほどに強い。その部隊がルキフォールに向けられると、帝国との戦闘に遅れを取りかねない。


 同盟国から派遣されている各国の軍勢は、たしかに総勢一万人を超える大軍で、ここにボルニア公国軍が加わると二万人に届こうかという兵力となるが、戦力はまた別だという彼女の思考は、同盟軍の実情を冷静に読んでいるからこそだった。


 各国の軍は、例えば角笛の吹き方ひとつとっても全く違う。


 集まっただけでは、強くなったとはいえないのだ。


 ゆえに、同盟軍全軍で帝国軍八〇〇〇とぶつかりようやく互角だという認識が彼女にはある。そこにザクセン人とヒッタイトで構成される部隊は、欠かせられないのであった。


「グラミアからの援軍が東に向かったはず」


 ヒッタイト人のサンファルに言われ、アルセリーナは思考する。


 グリス半島共和国が、グラミアと帝国が休戦状態であると知ってもなお援軍を依頼した時、彼女は鼻で笑った。


 派遣されるはずがない。過去、グラミアが苦しい時に何もしなかったに等しい我々の為にイシュリーンが軍を遣わすはずがないと。


 しかし予想は外れ、一個連隊ながら傭兵を装った兵達がグラミアから派遣された。


 その連隊は、ニーシェからみて東にあるブロクブリエから東へと向かい、東部軍団二五〇〇と合流しルキフォール公国軍とあたる予定である。


 この東部軍団は当初四〇〇〇近い兵力を誇っていたが、西方が敗走続きとあって部隊が東から西へと回されて減少した結果、現在は当初の六割ほどの兵数になっている。これでルキフォール公国軍の攻勢を前に後退を繰り返すことになり、東も西も大変なのが現在であった。


「精強と言われるグラミアの部隊と東部の軍に、ルキフォールは任せるべきでは?」


 サンファルの意見に、ラムジーが反論する。


「グラミアはたったの六〇〇だぞ。それが加わったところで敵よりもまだ数が少ない」

「しかしここから部隊を割く余裕がないのもまた事実……それに、このニーシェに軍の大半が留まっている限り、帝国は前進できません。今の兵力がここにあることが大事でしょう? 万が一、東部の軍がそれでも後退するならば、ここからだと援軍をその時に派遣できる」

「小出しにするのか? ヒッタイト人は何事も計算したがるが、戦は数字とは違う」

「数字で戦を語ろうとしたのはお前だろう? ラムジー」

「その長い耳を引っこ抜くぞ」

「はは……樽男」

「やめなさい」


 ザクセン人とヒッタイト人の口喧嘩を諌めたアルセリーナは、つかつかと進み室から屋外に張り出したテラスへと進む。そこからは東方向が一望でき、針葉樹の森の奥に連なる山々の峰が望めた。


 マキシマム達が見た黒煙は、彼女の位置からではわからない。


 ただ、黒い雲が吐きだした雪は、積もるほどの量だというのは理解できた。


 彼女は、ラムジーもサンファルも間違ったことは言っていないと感じる。


 あとは、自分がどう判断すべきかだという自覚があった。


 細身の甲冑をまとった公女は、それを脱いでいる時のほうが最近は少ないという愚痴を吐きだす寸前で飲み込み、視界を白色に染めようと増え始めた雪を睨んだ。


「この雪では、大きな部隊を動かすのは難儀です。静観します。東部の軍にはグラミアとの合流を優先させるよう伝令を放ちましょう」

「ぶつからせないので?」


 ラムジーの問いを背で受けたアルセリーナは、振り返るとラムジーとサンファルを交互に眺める。


 彼女は一呼吸おくことで、まだ迷っていると二人に伝えた。


 彼女の言を待つラムジーは、大剣は床へと放り投げた。


 サンファルは微動だにしない。


 重い金属物が床にぶつかり、大きな音を発した。


 それで急かされたように、アルセリーナが言う。


「ルキフォールのキニジル卿は侮れない相手……ぶつかるにしても、合流してからでないと危ない……グラミアにも伝令を出します」




-Maximum in the Ragnarok-




「報告! ルキフォール人が村を襲撃した模様!」


 マキシマムは、黒煙の原因を斥候から聞き、ギュネイを見る。


「どうする?」

「それは隊長が決めることだ……が、何もしないっていう命令をするような奴の下で戦っていましたとベルには報告させないでくれ」


 マキシマムはガレスを見る。


 ガレスは苦笑し、パイェを見た。


「誰も文句言いませんよ」


 パイェの言で、マキシマムは決めた。


「助ける。ガレス、前衛だ」

「ええ!?」


 文句を言いたいガレスは、だが飲み込んで部隊を率いるべく駆け足で離れる。その背に、パイェが続き、エフロヴィネは後方へと離れた。


「敵の数は?」


 連隊長の問いに、斥候が困った。


「正確な数までは……一〇〇は超えますが、その後方にどれだけの部隊が控えているかは不明です」

「わかった。村を襲う部隊を叩き、その後方を計る」


 マキシマムは斥候を下がらせ、サムエルを見る。


「危なくなったら逃げろ」

「盾を持つくらいはできます」

「戦いの邪魔になる」

「その時は逃げます」


 サムエルの返事に、マキシマムは笑みを返すと、周囲にむかって叫んだ。


「ガレスの部隊を支援する。ヒッタイトを前に! 弩は矢を装填したまま移動! 味方を撃つなよ」


 マキシマムはそこで、視界にちらつく雪の量が増えたと感じて空を仰ぐ。


 空を覆い隠した巨大な黒雲の連なりが、一斉に、大量の雪を吐き出していた。



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