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マキシマム・イン・ラグナロク  作者: サイベリアンと暮らしたいビーグル犬のぽん太さん
僕達はまだ大人になれていなかった。
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つまらぬ人

「マキは、雷が得意なのだな?」


 ベルベットの問いである。


 姫君奪還を完了した別働隊は、オクトゥールまで一日という距離まで到達していた。都が近くなると山々は姿を消し、代わりに農村が点在する丘陵地帯が広がる。夏の陽射しを受けて青々とする畑を眺めながらの行軍は緊張を維持するのが難しい。


「そうです……ね。他の魔法に比べて発動した時の疲労感とかないですし、それこそパっと出せます」

「雷は本当は難しいのだけどなぁ」

「炎のほうが苦手です」

「最初に、雷を出した時は驚いたのだぁ……今でも覚えている」


 ベルベットが言う驚きとは、マキシマムが十歳の時であった。彼女は、彼が魔導士であることを見抜いていたが、両親の方針もあって、あえて告げずにいたのであるが、友達と喧嘩したマキシマムが、相手に火傷を負わせたと聞き、慌てて現場に駆け付けると、それは雷の魔法のせいであった。


 教えられてもいないのに、マキシマムは魔法を使っていたのだ。幸い、技量不足で魔法は失敗していたので、喧嘩相手は軽傷ですんだのである。


 マキシマムは帰宅後、父親から長い、果てしなく長い説教をくらったが、これでベルベットから魔法を教わるようになった。


 自分の意思で自分の力を管理できるように、というのが名目であったが、ベルベットはマキシマムに学問と魔法を教えながら、とんでもない将来が待っているという期待と不安を消せないでいたのである。


「マキは魔導士の血がとても濃い……にも関わらず、雷の他が苦手というのは何か理由があるかもしれないな。凍らせるのは、でも得意じゃないか?」

「炎に比べたら……凍らせるのは得意じゃないですけど、雷に比べて目の前の敵を倒すのは便利ですね。狙いがつけやすいので……」

「ふむふむ……雷、風の順番か……だったら今度、天候を操る上級魔法を教えてやるのだ」

「……それよりも、基礎物理を鍛えてくれませんか? 独学では限界で」

「いいぞ。魔法を鍛えるのと物理を学ぶのは一緒だ。魔法の根本は数学だ」


 ベルベットの母親であるレニン・シェスター登場時より以前は、魔法とは特殊な血液をもつ人間たる魔導士による摩訶不思議なものだとされていた。しかし以降、魔法学、魔法工学がレニン・シェスターによって発展を得て、魔法とは、魔導士が物質を変化させて生じさせる現象であることが証明されつつある。その変化は、特殊な魔導士の血液を媒介にして行われる。


 簡単にいうと、魔導士が炎を作りたいと想像した時、その血液が大気中の物質へと働きかけ、炎を作り出すのである。


 ここで、魔法が数学であるというベルベットが、どうしてこう述べるかだが、五と五を足したら凡そ十二くらいであろうという理解の魔導士と、五と五を足すと十で間違いがないと知っている魔導士では、解答の正確さが違う。魔法において正解か不正解の二択はなく、正解と、それとどれだけ近いかの誤差に別れる。よって魔法は発動した魔導士の血の濃さ、技量、知識に応じて威力や効果に差があるのである。


 また、魔法を発動させる為の呪文は存在するが、それはベルベットによると方程式となる。よって、いちいち計算をしないと答えを出せない魔導士は、それだけ発動までの時間を取られ、集中することから精神力を消耗するのだ。時間がかかるということは、戦いの場において遅れを取るし、詠唱してしまえば相手にこちらの魔法が何であるかばれてしまう。そして精神力を消耗すると、魔法を連発できなくなり、すぐにバテてしまうから戦えなくなるのだった。


 現在において、この世界で最も魔導士としての質が高いのはベルベットであろうといわれている。その彼女からみて、隣を歩くマキシマムは、本人がその気になれば自分すら超えると思う魔導士の血の濃さを秘めていた。


「やはり交雑種ハイブリッドだからか……古代人と……ディシィもそうだし」


 ベルベットの小声でされた独り言を、聞き取れなかったマキシアムが首を傾げる。


「何です?」

「あ、いや、なんでもない。五年前に基礎物理の入門編を書いたが、ドラガンに貸してしまったままだ。返してもらおう」

「ウラム公に?」

「ああ……秋には王宮で主神オルヒディン美神ヴィラへの感謝祭が行われるから、その時に持って来いと手紙を出しておくのだ……それよりも、ちゃんと無事に帰還するんだぞ?」

「わかっています」

「次は会戦……油断は駄目だぞ」

「頑張ります」


 この時、一騎の騎兵が別働隊へと北方向から接近してきた。その軍装は、憲兵である。


「憲兵?」


 ベルベットが首を傾げ、マキシマムの後ろを進んでいたガレスがパイェの影に隠れた時、その憲兵は馬上から怒鳴った。


「マキシマム・ラベッシ! 本営に! 憲兵隊中隊長の命令だ!」


 反論を許さぬ強さの声量で発せられた言葉に、マキシマムは表情を歪めていた。




-Maximum in the Ragnarok-




「独断専行の結果、上官を危険にさらし、姫君も敵に奪われた。何も無しでは済ませれない」


 ヴェルナ王国への派遣軍二個師団と行動を共にする憲兵隊一個中隊の隊長レミル・ビジャの口調はきつく、断定的であった。


 師団本営の憲兵隊へと問答無用で連れ込まれたマキシマムは、幕舎のひとつに押し込められ、取り調べを受けていた。


 身に覚えのない容疑で責められていると感じるマキシマムは、反感と愚痴を表情に出しており、それがよけいに相手を苛立たせる。


「なんだ? その顔は!」

「……」

「貴様は自分のしでかしたことがどういう意味をもつか理解しているのか!?」

「……」

「生意気な顔だな!」


 レミルは拳を握ると、マキシマムを殴った。


 椅子から転げ落ちたマキシマムを、レミルは掴むとさらに殴打を見舞う。唇が切れて血を流すマキシマムを、中隊長は乱暴に椅子へと引きずり上げた。そしてまた殴ろうとしたが、外からの声で動きを止める。


「隊長、ルナイス卿とベルベットどのが……」


 レミルはマキシマムから離れると、相手の足を蹴り飛ばしてから幕舎の外へと出た。彼はそこで、厳しい表情をつくる男女と対面する。


「何か?」


 レミルが顎を反らす。


「何か? ではない。彼がどうして憲兵の取り調べを受けているのか説明頂きたい」


 ベルベットの言に、レミルは舌打ちをした。


 こういう有名人が、知人であるとかどうとかで若造をかばったり優遇するからおかしなことになると決めつけている。


「説明する義務はない。憲兵がすることは、王陛下がすることである。乱れた軍律を正す為だ。引っ込んでもらおうか」

「王陛下であるなら、きちんとした取り調べをするはずだ」


 ルナイスの主張に、レミルが薄ら笑う。


「今、している」

「お前の拳……血だろ? 殴ったな?」


 ルナイスの睨む先には、レミルの右手がある。その甲には、少しだか血液が付着していた。


 レミルは手を外衣でぬぐいながら口を開く。


「取り調べには必要なことだ。口を割らないんだからな」

「自供の強要かよ」

「ルナイス卿ともあろう方が、どうして副長を? あの坊やが助けてくれと泣きついたから?」

「……」

「ベルベットどのも、どうしてここに? 全てあのマキシマムが、戦功欲しさにお二人を頼ったのでしょう? まったく、ああいう勘違いが多いから我々が困る」

「それは違う。が、今はそれを論じているのではない」


 ベルベットが一歩、進んだ。その赤い目は、怒りの色に染まっている。美しいがゆえに、彼女が怒ると見る者は圧倒されてしまう。


 レミルも、そうだった。


「マキシマムにかかっている嫌疑は何だ?」

「独断専行だ」

「いつ?」

「王女を連れて逃げていた時だ」

「……?」


 ベルベットは怒りを忘れて呆けた。替わりにルナイスが口を開く。


「どういうことだ?」

「奴は英雄になりたかったようだ。上官の命令を無視して、一人で敵に突っ込んだ……が、すぐに勝てないとわかって逃げた。これで王女と上官が敵に発見され、王女は奪われたのだ」

「……ラムダか?」


 ベルベットは、憲兵にこれを言った人物がわかった。


 なぜなら、あの時は三人だけしかいなかったはずだからだ。そして、森の中で自分を見て逃げ出したラムダを脳裏に描き、不信感を覚える。


「では、取り調べがある」


 これで終わりだと背を見せたレミルに、ベルベットが言う。


「それが本当かどうか、証人に聞こう」

「証人?」


 ベルベットは、うんざりという表情で答える。


「姫君だ」




-Maximum in the Ragnarok-




 ラムダはオクトゥール市街地外のグラミア軍野営地の一角にいた。幕舎の中で、怪我と病気を理由に休んでいる。怪我は嘘ではない。あの逃亡劇であちこちを打撲していた。しかし病気はでっちあげである。


 戦いが恐いのだ。


 彼が寝転がっている簡易寝台は狭く、寝返りがうてない。


 溜息をついた時、幕舎の中に同窓が現れた。


 憲兵隊に所属するクレマトだ。その表情は複雑なもので、ラムダは何だろうかと上半身を起こす。


「どうした?」

「お前の訴えでマキシマムを捕まえた」

「よし! よし! よーし! よくやってくれた! あいつのせいで、俺は死ぬところだったんだ!」

「……ラムダ、お前はばれないと思ったのか?」

「?」


 歓喜から一転し固まるラムダに、クレマトが侮蔑の表情を向ける。


「ヴェルナ王国のレディーン王女殿下を、別働隊が救出した。すでにここに……都の中へとお入りになられる前、お忙しいのにお時間を作ってくださり、マキシマムの件、話してくれた」


 ラムダは寝台から飛び起きた。


 まずい! という焦りと、まさか助かるなんてという驚愕で声が出ない。


「お前は……王女殿下を……」

「違う。あれはマキシマムが悪いんだ! あいつがいい加減だから! あいつが俺の命令を無視したから!」

「もうやめろ。お前を信じてしまった俺も馬鹿だ。でもまさか、一緒に士官学校で努力した仲間が、くだらん奴だなんて思わないだろ!」


 クレマトがラムダに掴みかかる。


 ラムダは抵抗しようと、身体を捻じった。


 二人は幕舎の中で揉み合う。


 ラムダは懸命に手を動かす。


 クレマトが、ラムダを押さえつけようと懸命となる。


 二人がもつれあい、地面に転がった時、ラムダの肘がクレマトの顔面に入る。鼻骨が砕かれ鼻血を溢れさせた同窓から、ラムダは一気に離れた。


 幕舎の外へと逃げ出した彼は、何事かと注目を浴びる。


 彼は走った。


 必死で走った。


 その中で、マキシマムを呪う。


「お前のせいだ! お前のせいで! 気に入らねぇ!」


 ラムダは、絶対に許さないと固く誓った。


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