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迷宮と宅呑み  作者: 6k7g/中野在太
デスワームのアヒージョ
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デスワームのアヒージョ③

 メイズイーターの四人は砂といっしょに流され、やがて平坦な場所に流れ着いた。

 まっくらやみに、灯りがともる。

 マイアが杖の先端を発光させたのだ。


 地面はぶにゃぶにゃしている。

 壁には拍動する血管が走っている。

 空気はぬるく、生臭い。


「あー……やられちゃったねこれは」

「す、すごいです……これが生きたデスワームの体内なんですね」

「…落ちつく…」

「にゃっ? イースは?」

「最後に見たときは、盾に乗って砂の上を滑ってましたけど……」

「いにゃー、さすがのフィジカルだねえ」

「…放って…おくの…危ない…」

「ですね。なにをしでかすのか、分からない人ですから」


 三人は歩き出した。

 どこまで行っても光景は変わらなかった。


「おーい、イース! 返事して!」


 ルールーの呼びかけは空間に反響するだけだった。


「だーめだ。アルちゃんお願い」

「まったく……」


 アルセーはモーニングスターで空間を打った。

 逆トゲ鉄球内部の鈴が鳴り、空間に波紋が広がる。


「エアーによる福音書第二章十九節より、魂の紐帯について」


 波紋が同心円状に広がった。

 アルセーは半眼になり、自ら放った奇跡に集中する。


「……見つけました。近いです」


 モーニングスターを納刀したアルセーが駆けだした先に、イースはいた。

 壁に背をあずけ、片膝を立てて座っていた。


「にゃっ! 寝ちゃった? 起きて起きて!」


 駆け寄ったルールーがイースの肩を揺さぶる。

 イースの体はぐらりと揺れ、倒れた。

 アルセーがおそるおそるひっくり返したイースは、顔の皮がぜんぶはぎ取られていた。


「わー! 死んでます! わー!」

「にゃっはっは、美人が台無しだねえ」

「るふ…るふ…骨…むきだし…きれい…」


 軽口を叩きながら、各々、戦闘準備に入る。

 何者かが、闇に潜んでいる。

 

「アルちゃん、蘇生お願い」

「はい」

「マイちゃん、あたしに任せて。魔法で内臓吹っ飛ばして、暴れられても困るし」

「るるに…まかせる…」

 

 抜刀したルールーは、脱力した自然体。

 瞳を閉じる。


霞龍かりゅうの型――」


 魔力をかすみのごとく自らの周囲に漂わせる。

 姿見えぬ敵であれ、魔力の霞に触れれば捉えられるのだ。


「――蟄虫啓戸すごもりむしとをひらくッ!」


 闇を裂く一閃。

 両断されたなにかが、ぼたっと音を立てて落ちた。


「さてさて、君はどんなモンスターだったのかにゃー?」


 切り裂いた何者かの片割れを、つまみあげようとする。


「キシャーーーッ!」


 つまみあげたそれが叫び声を上げ、ルール―の顔に飛びかかった。


「うわわわわ! やばやばやば! フェイスハガーみたいなやつこれ!」


 慌ててひっぺがし、放り投げて切り刻む。

 

「いたたた! ねー、すっごいゴリゴリ削られたんだけど!」

「うーん……やすりがけされたみたいな傷口ですね」


 アルセーが、治癒の奇跡でルール―の傷をふさいだ。


「それで、どんな相手だったんですか?」

「ずたずたにしちゃったから分かんにゃい」

「まったく……」

「にゃっはっは!」

「はっはっは! ルー、さすがだね! ボクはなにがなんだか分からない内に死んでしまったよ!」


 と、蘇生したイースが笑う。


「まったく……一人で飛び出すからですよ」

「しかし、ボクは生き返ったし相手は死んだ! つまりボクの勝ちだな!」

「異論はないですよ。それで? どうしますか?」

「決まっているだろう、アル! 血路はいつでも斬り開くのさ!」

「はあ……言うと思いました」


 イースが構えた剣、その刀身に刻まれたルーンが発光する。


「上等だ! ボクが喰らってやろう! アンスール・ソーン・ケナズ! ボクにあらん限りの力を!」


 バフを焚いたイースは、剣をまっすぐ振り下ろした。

 衝撃波が、肉をびぢびぢと刻みながら走る。


「わー! なんか溢れてきましたっぷぇ! あっぷぇ! 渋苦しょっぱ甘い!」


 メイズイーターの四人は、傷口から噴き出した粘液を頭から被った。


「クロスルーンストリーム!」


 イースが剣を水平に薙ぐ。

 先行した衝撃波と合流し、十文字に肉をえぐっていく。

 足元から、頭上から、大量の粘液が湧き立って降り注いだ。


「わぷ! わぷ!」

「…ある!」


 蜘蛛の足が、おぼれかけていたアルセーを拾い上げる。


「はっはっは! 見たまえ! 光だ!」


 蜘蛛胴に飛び乗ったイースが、高笑いした。

 傷の先、闇にぽつんと光が見えた。


「にゃっ! マイちゃん、いっそげー!」

「…るふ…!」


 蜘蛛の多脚が、粘液を切り裂きながら走る。

 イースは剣を振り回し、傷口を更に広げていく。


 大量の粘液と共に、四人は傷口から飛び出した。

 二十八層砂漠の、そこは空中だ。


「うわ、でっか!」


 振り返ったルールーは叫んだ。

 四人を呑み込んだデスワームは、目視で全長数十キロ。

 それが、ずりずりと動いている。


「わー! こっち向いてます! わー!」


 ばかでかい暗闇が、メイズイーターに向けられる。

 ぽっかり空いた口の円周上に、ぎざぎざの歯がびっしり並んでいた。


「…震える怒り…眼差す瞋恚…貫く憎悪…」


 落下しながら、マイアが杖をデスワームに向ける。


「…総毛立つ炎…炎! 炎! 噴き上がる炎! ファイアコフィン!」


 デスワームの全身が炎に包まれた。

 凄まじい異臭がパーティメンバーの鼻を刺す。


 ざふっと音を立て、マイアは砂漠に着地する。


「うわっすごっ! まだ追ってくるよ!」


 燃え上がったまま、デスワームは砂上を這った。


「上等だ! ボクが喰らってやろう!」

「駄目ですってば!」

「…逃げる…!」

「見て、あれ!」


 ルールーが指さした先には、押し入れのふすまがあった。

 大イスタリ宮とふれんどしっぷ町田を繋ぐ、異界の扉だ。


「とりあえず大将んとこ! マイア、急いで!」


 デスワームが体を持ち上げた。

 鎌首をもたげ、その巨大な口はメイズイーターを狙っている。


 マイアは全力で駆けた。

 デスワームの口が砂を呑み込むのと、四人がふすまに飛び込むのは、ほぼ同時だった。

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