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迷宮と宅呑み  作者: 6k7g/中野在太
町田おやつデルタ
31/39

町田おやつデルタ③

 おやつデルタ第三弾。

 アーケード商店街の向かい、パチンコの景品交換所の脇にある小さなクレープ屋。

 ちょっと滲んだ手書きのメニューに、しみじみとした味がある。


「むむむ……しょっぱいものと甘いものがあるのか……イース・フェオー、如何にして勝つ?」


 メニューを睨むイースの視線が、ツナサラダエッグとバターシュガーの間で行き来した。


「ルールーはどうします?」

「んー、あまいの、しょっぱいの……んんー! アルちゃん、戸惑うやつだこれ!」


 あ、なんか『戸惑う』って言葉が身内バズを起こしつつある。


「るふ…るふ…あんずジャム…」

「マイアはまた、ほんのちょっとだけ定番からずらすねえ」

「るふ…」


 しばらくがちゃがちゃしてから、ようやく注文。

 結局みんな甘いのに。

 俺も生クリームとチョコソースどっさりのやつにした。


「はーこれこれ、クレープってこれだよなあ」


 昔ながらって感じの、もったりしてもちもちで厚めの皮。

 生クリームもどっしり重たいし、チョコソースもべったべたに甘い。

 最近のクレープのさくさくした生地にはない、カロリーを塊で摂ってる感じがたまらん。


「あっまっ! あっまい! うおー、なんか満たされてきた!」


 ルールーがなんか満たされたようだ。


「ほんと、すごいですねこれ……三日ぐらい保ちそうです」

「はっはっは! ダンジョン内にこの屋台があれば、いくらでも戦えるね!」

「るふ…るふ…冴える…今なら…すごい魔法…」

「糖分キマりすぎでは?」


 生クリームめっちゃくちゃ入ってるからなあ、ここのクレープ。

 ちょっともうクリーム多すぎて、円錐形になってる。

 糖ガンギマリも無理ないな。


「ふいー……甘くてしょっぱくて戸惑うねえ」


 放心したルールー、口ひらきっぱなし。


「実に戸惑うね。ボクたちの勝ちだ」


 なんかイースの勝敗判定もめちゃくちゃ投げやりだ。


「ありがとうございます、ご主人。ごちそうさまでした」

「るふ…やぬし…好き…」

「いーえ。んじゃちょっとベローチェかなんかでダラダラして、次のこと考えようか」



 で、午後三時ぐらいになって、なんかめんどくさくなって家に帰った。

 暑すぎてもうウロウロしたくない。

 おとなしくプライムビデオが一番だね。


「夕飯食ってくでしょ。なにしよっかね」


 冷蔵庫開けながら、四人に声かける。


「んっくんっくんっく……んふー。よし、ブロリー出るやつ観よ!」


 ルールー、今日は金麦スタートですか。

 まー暑かったもんね。


 俺も金麦を冷蔵庫から取り出した。

 もうこれは、今からだらだら呑んで適当に解散するやつだ。

 

 つまみも、いい加減なもんばっか作ろう。

 なすを真っ二つに割って切れ目入れたところにチーズ突っ込んで、オーブンで焼いたの。

 ゴーヤとグレープフルーツをがちゃがちゃーっと和えて、砂糖入れたの。

 トマトと塩昆布和えてごま油垂らしたの。

 セブンのPBの焼き鯖。


 ま、お酒だけは良いもの用意しようかね。

 というわけで、今日はコエドブルワリーの白。

 軽くて華やかでうるさくない、良い小麦ビールだ。


「んくんく……はー、ちょうどいいですね。うん、ちょうどいいです」


 アルセーがしみじみした。

 小麦ビール、いついかなる時でも飲めてえらい。


 けっこう疲れたので、言葉は少なめ。

 ちまちまつまんで、ぐいっと呑んで、ぼーっとドラゴンボール観る。


「あー……そうだったそうだった。ブロリーってそういうやつだったわ」

「すごいですよね、ブロリー。赤ちゃんの時のことそんなに恨みますかって話ですよね」


 適当にツッコミ入れながらアニメ観る。

 間を持たすためだけのツッコミだ。


「るふにゅ…るふにゅ…」


 マイア寝てるし。


「にゃ……にゃ……」


 ルールーも寝てるし。


「なるほど、池袋にあるんだね。ルーン耐性はどうなんだろうか」


 イースがiPadで調べてるの、たぶん池袋の武器屋だな。

 ルーンをエンチャントしやすい鎧とかは売ってないと思うけど。


 思い思いに酒飲むこの感じ、最高に宅呑みしてるな。

 気楽でいい。


「にゃ……かわいい……やつ……」


 ルールーの寝言が、なんかめちゃくちゃ露骨だった。

 あまりにも水着が欲しすぎて夢に出てきたのか。

 これは起きたとき現実との落差でがっかりするパターンだ。


 そのときふと俺は、なんか役立ちそうなものがあることを思い出した。


「あ、あれあったわ。あれ。あれならいけるかも」


 よたよたと立ち上がり、寝室へ。

 なんかが詰まった袋を開ける。

 はるか昔に注文し、存在そのものを完全に忘れた頃になってようやく届いた、身長採寸用のスーツだった。


 これ着て採寸すれば、ぴったりの水着をネット通販で買えるじゃん。

 無料だし興味本位で注文しただけのものだけど、いやあ、何が役に立つか分からんね。



「おお……はっはっは! いいね! 誂えたようにぴったりだ!」


 しゅっとしたエルフの長身に、白いハイネックとハイウエスト。

 なんか森でも同じ格好してそう。


「るふ…るふ…ぴったり…」


 マイアは、病的に白い肌とドス黒いビキニのコントラストがなんか怖い。

 へそから下は暗黒空間だし、ちょっとどうしたらいいのか分からん感じある。


「すごいですね、この生地。よく伸びて密着します」


 アルセーは結局、子ども用のワンピースタイプ。

 ニンフのパッシブスキルは、スイムウェアにバフをかけて封じているらしい。


「にゃー……かわいい……かわいすぎる……」


 もっとも水着にご執心だったルールーは、フリルざっくざくのオフショルと、なんか側面にめっちゃ紐があるビキニボトム。

 熟考の末のセレクトが光る。


「ううう、大将ありがとう……これかわいすぎる……ほんとかわいすぎて戸惑う……」


 あ、まだ『戸惑う』が身内バズってる。


「いいよいいよ別に」


 水着回を見せまくって文化汚染してしまった負い目があるしね。

 しかし八畳のリビングキッチンに水着が四人いると、なんか暑苦しいな。


「よーし! さっそく地底湖に行こーう!」

「ああ、勝つぞ! 敵はバハムートだ!」

「えっバハムート?」

「うん? どうしたんだい、フロアルーラー。大イスタリ宮の回遊魚といえば、バハムートを置いて他にはないじゃないか」

「その常識は知らないけど」


 水着でバハムートに挑むのか、こいつら。

 ていうか魚なの?

 竜じゃない?


 まあいいや。


「じゃあまあ、体に気を付けて楽しんでおいで」

「うんっうん! いっぱい採ってくる! 待っててね大将!」


 あ、やっぱり食材持ち込みですか。

 

 まあいいや。

 もう好きにしてくれ。


「いってらっしゃい」

「はーい!」


 冒険者たちは、元気よく飛び出していった。


町田おやつデルタ おしまい

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