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迷宮と宅呑み  作者: 6k7g/中野在太
竜骨ラーメン
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竜骨ラーメン②

「思えば最初から、少し怪しかったんですよね」


 アルセーの言葉に、ルールーがうんうんうなずいた。


「ギルドの窓口の人、なんか煮え切らなかったからにゃー。事前調査なしにクエスト掲示してたよね、あれ」

「仕方なかったさ。なにぶん緊急の依頼だったからね。ボクたちが駆けつけなければ、村が滅びるところだった」

「村? あれ? 君ら、迷宮の中で冒険してるんじゃないの?」

「大イスタリ宮は広大ですからね。人もふつうに住んでいます」


 アルセーが答えてくれた。


「今回の依頼は、第三層……すごく浅い階層ですね。たいしたモンスターも出ない、平和なところです」

「そこでね、ワイバーンが出てきて村を襲ってるから狩猟してくれーって依頼だったんだっく」


 ルールーが言葉の最後にしゃっくりした。

 呑みすぎじゃないかね。


「ワイバーンって、あれ? ドラゴンみたいなやつ?」


 俺がそう聞くと、メイズイーターの連中は全員、『出たよ素人が』みたいな顔をした。


「え、なになに。そんなことも知らないのかよ、みたいな顔やめてほしいんだけど。事実知らないし」

「いにゃー……あまりにもタイミングよすぎて、ねえ?」


 ルールーが、困ったような笑顔でパーティメンバーを見る。


「ワイバーン…ドラゴン…間違える人…多い…」


 マイアは、うんざりした顔で金麦をぐいーっといった。

 イースが、まあまあとでも言うようにマイアの肩をぽんぽんした。


「まさにそこが問題だったんだよ、フロアルーラー。本来であればボクたちにとって、ワイバーンなどものの数ではない。群れれば厄介だけど、さしたる知能もないからね」

「あー……さっき言ってたっけ。ワイバーンかと思ったらドラゴンだったって」

「そうなんです!」


 アルセーが、てのひらで机をたたいた。

 顔が真っ赤だ。

 かなり酔っている。


「ありえません! ワイバーンとドラゴンを間違えるなんて!」

「倒置法で怒った」


 怒りが収まらないアルセーは、俺の金麦をぱくると、おとがいを反らして一気に飲み干した。


「うふぅー……くふっ……考えられないですよ! どこが似ているんですか!」

「そんな至近距離で迫られても、どっちも見たことないとしか言えない」


 アルセーが酒くさい。


「形は似てるよねえ。あたしもたまに分かんなくなるにゃー」

「第三層にドラゴンが出るというのも、あまり聞いたことのない事例だからね。村人から話を聞いたギルド職員も、そう考えたんだろう。ワイバーンであれば、ときどき群れをなして農地を台無しにしてしまうからね」


 イースが、アフリカのバッタ被害みたいなまとめ方をした。


「ばかげてますよ! なんにも似てないのに!」

「でもさアルちゃん、じゃあどこが違うの? って言われたら困らない? あたしだったら、んんーってなるかにゃー」


 アルセーは、問うたルール―を横目で睨み、うふぅって酒くさい息を吐いた。


「ワイバーンには前肢がありません。ワイバーンの翼は前肢が進化したものだからです」

「恐竜が鳥になったみたいな」

「一方でドラゴンですと、長虫ワームのように翼も四肢も持たないタイプでさえ、骨格には痕跡が残っています」

「え、じゃあドラゴンの翼はなに由来なの」


 俺が訊くと、


「肋骨です」


 アルセーが即答した。

 肋骨かー。

 なんか、ドラゴンってもうちょっと神秘的な生き物だと思ってた。

 数千万年かけてこつこつ進化する、みたいなのとは無縁の存在、みたいな。


「生殖器も違いますし、骨盤の付き方だって……つまりそもそも、ワイバーンとドラゴンはまったく別の生き物なんですよ」


 アルセーは、モンスターのことになると少しうるさい。

 なんでも、そういう学校を卒業したらしい。

 え、どういう学校?


「しかし、ワイバーンとドラゴンはよく似ている。ルーではないけど、ボクも混乱してきたよ。翼があって鱗があって爪があって牙があって……」

「収斂進化です」

「え、なんて?」


 なんか聞き慣れない言葉が出てきた。


「ですから、収斂進化です。ご主人に分かりやすいようこちらの生き物で説明すると、ダイナンギンポとギンポのようなものです」

「一二を争うぐらい分からないのが来た」

「まったく別々の生き物なのに、生活スタイルが似ていると形も似てくるんですよ」

「あー、それ? 収斂進化それ?」

「はい、そうです。ダイナンギンポとギンポのようなものです」

「それは分からない」


 なんだろう、ギンポ。


「まあつまり、そういうことさ。ボクたちはワイバーン討伐のつもりで第三層に向かった」

「装備も軽い感じだったねえ。いにゃー、あれがまちがいだった。大業物をかついでいくべきだったよ」

「…杖…その辺の…木の枝…」

「んで、行ったらドラゴンがいたわけなんだ」


 メイズイーターの四人は、しみじみとうなずいた。

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