表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮と宅呑み  作者: 6k7g/中野在太
スライムサケ
19/39

スライムサケ③

「あたし初めて知ったんだけど、実はスライムって植物だったんだよね」


 開幕早々、ルールーが衝撃的なことを言った。


「え、うそ」


 俺の知ってるスライムは鳥山明デザインか、うまーく服だけを溶かすやつなんだけど。


「知られていない事実ですよね。マイア、いいですか?」

「るふ…」


 マイアが立ち上がり、ローブの裾をはだけた。

 へそ下の暗黒収納空間に、アルセーが頭を突っ込む。

 何回見ても慣れない光景だ。


「るふ…やぬし…すけべ…」

「え、いま俺ちらちら見てた?」

「るふ…るふ…」

「分かるとも、フロアルーラー。『見たい』欲望と『見てはいけない』規範意識の間で揺れているんだろう?」


 やみくもに共感されてしまった。

 やりづらい。


「これがスライムシードです」


 アルセーの掌に、なんか赤くてツヤツヤして丸っこい粒が乗っている。

 大きさはタピオカぐらいだろうか。


「へー……コアっぽい」

「核といえば核ですね」


 アルセーはスライムシードをボウルに入れて、そこに水を張った。

 しばらく置いてから、ボウルをゆする。

 水が、ぷるんっと揺れた。

 びっくりした俺はとっさに身を引いた。


「分かるとも、フロアルーラー」

「え、なにが」

「おっぱいが揺れているみたいに感じたんだろう?」

「百点の童貞しぐさだ」

「にゃー……」


 ルールーが疑り深い視線を俺に飛ばしてくる。

 君けっこう根に持つタイプだね。


「違うよ。なんか水にモンスターみを感じたんだよ」

「さすがご主人ですね。これが、いわゆるスライムです」

「このぷるぷるが」


 アルセーはうなずいて、ストロングゼロをくいーっといった。

 長広舌を前に舌を湿らせたいらしい。


「スライムは周囲の水分を、こんな風にジェル状に固めるんです。シソ科の植物に多い特徴ですよね。ご主人にも分かりやすく言うと、チアとかメボウキみたいなものです」

「いつもわからなさが一二を争う」

「…でも…動く…」

「え、これ動くの」


 俺は椅子ごと後ろに引いた。

 だから、生きてるものを持ち込むのは止めようよ。

 最低限のルールでしょ。


「だーいじょうぶだって大将、こっちのミアズマですぐ死んじゃうから」

「安心できると思う?」

「はっはっは、大丈夫さ! このボクがいるからね! アンスール・ハガラズ!」

「室内で抜刀しないで。バフを焚かないで。刀身のルーンを光らせないで」

「見てください、ほら。偽足が形成されてますよ」


 アルセーがスライムに箸を突っ込んだ。


「ぜんぜん分かんない」

「スライムは正の走光性を持っていますからね。この偽足で、光に向かって進むんです」

「たいまつをかかげた冒険者に向かって突進したりするんだ。ボクも駆け出しの頃は、天井から降ってきたスライムのせいで窒息死したものさ」

「ダークソウルで見たことある死にざまだ」

「意思があるんじゃないかと、ボクはときどき思ってしまうよ。つまらない宝に目が眩み、道を外れたところに降ってきたりするんだ」

「不死街最下層かな?」

「そこがスライムのよくできたところなんです。共生する微生物――つまり、キノコですね――によって人体のたんぱく質を分解して、苗床にできるんですよ」

「端的に怖すぎる」

「にゃっ! だからスライムがいっぱいいるとこ、キノコと人骨がいっぱいあるからすぐ分かるんだ! いにゃー、勉強になるねえ」

「絶対にそんな死に方だけはしたくない」

「蘇生してその宝を開けにいったら、今度はミミックだったりしてね。はっはっは、あの時はさすがのボクも心が折れそうだったよ」

「ミミックとスライムはよく近くにいますよね。あれは共進化なんじゃないでしょうか。うかつな冒険者が苗床にされ、生えてきたキノコをミミックが食べるんです」

「はえー、迷宮の生態系だ」


 人をできるかぎり苦しめて殺すためのピタゴラ装置だ。

 旗の代わりに立つのはキノコだけど。


「対処法さえ分かっていれば問題はないさ。しかし、大量発生してしまえば、多くのヌーブ冒険者が犠牲になってしまう」

「…だから…ギルドに…駆り出された」

「公共事業みたいなものですね。リンヴァースは迷宮なしでは成り立ちませんから」

「なるほど。で、なんで最後に俺ん家の風呂に入ってたの?」

「……にゃー」


 ルールーがまた疑り深い俺を見てきた。

 意外に慎み深いね君。

 おっぱい見られても、「にゃっはっは」とか言いそうなのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ