表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮と宅呑み  作者: 6k7g/中野在太
スライムサケ
18/39

スライムサケ②

「んぐんぐんぐ……はっはっは! 今日もボクたちの勝ちだったね!」


 ストロングゼロ一気したイースが高笑いした。


「んくっんくっんくっ……んふぅー……あんなに大量発生するなんて、はじめて見ました」


 同じくアルセーもストロングゼロ一気。


「るふ…るふ…のぶひめ…好き…」


 マイアもVチューバ―見ながらストロングゼロ一気。


 死にたいのかな?


 今日もまた、湯上りほこほこのS級冒険者が、俺の部屋に居座る。


 ルールーだけは気まずそうにしている。

 どうでもいい。

 勝手に人ん家の風呂入ったやつが悪い。


「あー……なんか俺すごい疲れてるからさ。好きにやってて。primeビデオでも見てて」

「にゃっ! ……にゃー」


 ルールーが反応しかけ、気まずそうに諦めた。

 これ、俺がごめんなさいっていう流れなのかな。

 

「ルー、いつまで気にしているんだい?」

「で、でもぉ……」

「なにかあったんですか?」

「にゃー……にゃっはっは!」

「わ、すごい。猫アピールでごまかされたの、はじめてです。こんなに腹が立つんですね」


 アルセーはさして気にした感じでもない。


 ルールーがこっちを見た。

 俺は愛想笑いを浮かべた。

 ルールーはひきつったような笑みを浮かべた。


 なんか、和解しようというつもりはあるらしい。


「ま、好きに食べて飲んでって」

「……ふ、ふところが、深い!」


 理屈は分からんが感心してくれた。

 ルールーは顔を両手でぺしぺし張った。

 ストロングゼロの缶をがつっと掴み、喉を鳴らして飲み干した。


「んくんくんくんく……ペキ……ッ……パキ……ッ」


 あまりにも吸引したせいで、缶がひっしゃげた。


「松尾象山かな?」

「くっふぅー……いにゃー、ストゼロがキマってきたよ!」


 元気になったみたいでなによりだ。


「primeビデオ見るんでしょ! あれ見たい! らんま!」


 そしてさっそく主張しはじめる。


「るふ…らんま…おもしろい」

「ボクも大好きさ」


 すごいなるーみっくワールド。

 世代どころか世界を越えて愛される普遍性がある。


「おもしろいですよね。獣化とか性転換とか、冒険者にとっても悩みの種ですもんね」


 ぜんぜん普遍的な楽しみ方じゃなかった。


「え、冒険者あるあるなのそれ」

「ボクも、男になったり熊になったりしたものさ。なかなか辛いものだよ、あれは。らんま君やムース君の気持ちはよく分かるね」

「へええ……ちなみにイースは、なにが一番しんどかった?」


 イースは腕組みして考えた。


「うーん……鳥、熊、レッサーワイバーン、きゅうり……」

「植物あるんだ」

「しかし、もっとも辛かったのはやはり性転換だね」

「え、きゅうりより?」

「世の男性には同情するよ。あんなペースで軽めの発情を繰り返しながら、よく日常生活が送れるものだね」

「いにゃー、あのときはイースにおっぱいチラチラ見られてソワソワしたねえ」

「るふ…見られた…たくさん…」

「え、そうだったんですか? わたし、気づきませんでした」

「他意があったわけではないんだ。ルーとマイのおっぱいに、どうしてだか目が吸い寄せられてしまってね」

「あ、そういうことですか」


 幼児体型のアルセーが、自分の胸を見下ろしてなんらかの気付きを得ていた。


「しかし、実に不思議なことに、決しておっぱいを見てはいけないという自制心も、同時に働いたんだ。その結果、ちらちら見てしまったというわけさ」

「百点の童貞しぐさだ」


 まあ言われてみれば、こいつらの裸を見て過剰にめんどくさい気持ちになったのも、日ごろから軽めの発情を繰り返していることの裏返しかもな。

 マイアとイースに、その辺の理解があってくれて助かった。


 脱衣所の洗濯機がピーと音を立てた。


「乾燥機回してきますね」


 アルセーが立ち上がった。

 もうすっかり自分の家だな。


「あ、ご主人のものも洗濯しときました」

「そりゃどーもね」

「ごめんなさい、事後承諾みたいになっちゃって……でも、少しでもはやくお風呂に入りたくて……」

「スライム狩り、しんどかったねえ」


 ルールーが、なんか、ちょっとげっそりした。


「スライムって、あの、雑魚モンスター界の横綱的な?」


 こいつらS級冒険者じゃなかったっけ。


「もちろん、ボクたちの相手をするには少々足りないさ。しかしまあ今回は、そうも言っていられない事情があってね」

「…たくさん…いた…」

「第一層に、ものすごい量のスライムがポップしたんです」


 乾燥機を回し終えたアルセーが戻ってきた。


「第一層は、平均気温の上昇が目立っていましたから。大量発生の素地は整っていたんですよね」

「え、スライムってそんな、気候とかに影響されるもんなの?」


 なにその、地球温暖化でシカとかイノシシがめっちゃ増えたみたいな話。


「影響のない動植物はいませんよ」


 アルセーがなんか啓蒙的なことを言って、冒険話がはじまる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ