スライムサケ②
「んぐんぐんぐ……はっはっは! 今日もボクたちの勝ちだったね!」
ストロングゼロ一気したイースが高笑いした。
「んくっんくっんくっ……んふぅー……あんなに大量発生するなんて、はじめて見ました」
同じくアルセーもストロングゼロ一気。
「るふ…るふ…のぶひめ…好き…」
マイアもVチューバ―見ながらストロングゼロ一気。
死にたいのかな?
今日もまた、湯上りほこほこのS級冒険者が、俺の部屋に居座る。
ルールーだけは気まずそうにしている。
どうでもいい。
勝手に人ん家の風呂入ったやつが悪い。
「あー……なんか俺すごい疲れてるからさ。好きにやってて。primeビデオでも見てて」
「にゃっ! ……にゃー」
ルールーが反応しかけ、気まずそうに諦めた。
これ、俺がごめんなさいっていう流れなのかな。
「ルー、いつまで気にしているんだい?」
「で、でもぉ……」
「なにかあったんですか?」
「にゃー……にゃっはっは!」
「わ、すごい。猫アピールでごまかされたの、はじめてです。こんなに腹が立つんですね」
アルセーはさして気にした感じでもない。
ルールーがこっちを見た。
俺は愛想笑いを浮かべた。
ルールーはひきつったような笑みを浮かべた。
なんか、和解しようというつもりはあるらしい。
「ま、好きに食べて飲んでって」
「……ふ、ふところが、深い!」
理屈は分からんが感心してくれた。
ルールーは顔を両手でぺしぺし張った。
ストロングゼロの缶をがつっと掴み、喉を鳴らして飲み干した。
「んくんくんくんく……ペキ……ッ……パキ……ッ」
あまりにも吸引したせいで、缶がひっしゃげた。
「松尾象山かな?」
「くっふぅー……いにゃー、ストゼロがキマってきたよ!」
元気になったみたいでなによりだ。
「primeビデオ見るんでしょ! あれ見たい! らんま!」
そしてさっそく主張しはじめる。
「るふ…らんま…おもしろい」
「ボクも大好きさ」
すごいなるーみっくワールド。
世代どころか世界を越えて愛される普遍性がある。
「おもしろいですよね。獣化とか性転換とか、冒険者にとっても悩みの種ですもんね」
ぜんぜん普遍的な楽しみ方じゃなかった。
「え、冒険者あるあるなのそれ」
「ボクも、男になったり熊になったりしたものさ。なかなか辛いものだよ、あれは。らんま君やムース君の気持ちはよく分かるね」
「へええ……ちなみにイースは、なにが一番しんどかった?」
イースは腕組みして考えた。
「うーん……鳥、熊、レッサーワイバーン、きゅうり……」
「植物あるんだ」
「しかし、もっとも辛かったのはやはり性転換だね」
「え、きゅうりより?」
「世の男性には同情するよ。あんなペースで軽めの発情を繰り返しながら、よく日常生活が送れるものだね」
「いにゃー、あのときはイースにおっぱいチラチラ見られてソワソワしたねえ」
「るふ…見られた…たくさん…」
「え、そうだったんですか? わたし、気づきませんでした」
「他意があったわけではないんだ。ルーとマイのおっぱいに、どうしてだか目が吸い寄せられてしまってね」
「あ、そういうことですか」
幼児体型のアルセーが、自分の胸を見下ろしてなんらかの気付きを得ていた。
「しかし、実に不思議なことに、決しておっぱいを見てはいけないという自制心も、同時に働いたんだ。その結果、ちらちら見てしまったというわけさ」
「百点の童貞しぐさだ」
まあ言われてみれば、こいつらの裸を見て過剰にめんどくさい気持ちになったのも、日ごろから軽めの発情を繰り返していることの裏返しかもな。
マイアとイースに、その辺の理解があってくれて助かった。
脱衣所の洗濯機がピーと音を立てた。
「乾燥機回してきますね」
アルセーが立ち上がった。
もうすっかり自分の家だな。
「あ、ご主人のものも洗濯しときました」
「そりゃどーもね」
「ごめんなさい、事後承諾みたいになっちゃって……でも、少しでもはやくお風呂に入りたくて……」
「スライム狩り、しんどかったねえ」
ルールーが、なんか、ちょっとげっそりした。
「スライムって、あの、雑魚モンスター界の横綱的な?」
こいつらS級冒険者じゃなかったっけ。
「もちろん、ボクたちの相手をするには少々足りないさ。しかしまあ今回は、そうも言っていられない事情があってね」
「…たくさん…いた…」
「第一層に、ものすごい量のスライムがポップしたんです」
乾燥機を回し終えたアルセーが戻ってきた。
「第一層は、平均気温の上昇が目立っていましたから。大量発生の素地は整っていたんですよね」
「え、スライムってそんな、気候とかに影響されるもんなの?」
なにその、地球温暖化でシカとかイノシシがめっちゃ増えたみたいな話。
「影響のない動植物はいませんよ」
アルセーがなんか啓蒙的なことを言って、冒険話がはじまる。