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風花  作者:
96/112

風花SideStory2




「人って、変われば変わるものね」



 横目で見送っていた私とは対照的に、彼らの後ろ姿を凝視していた知子が、そう、口にした。


 どういう意味か、という意味を込めて送った私の視線に気付いた知子は、私に顔を向け、言う。



「私と付き合ってた時、紡、あんな笑顔見せたことなかった。それに、あんなに優しくなかった」

「それはお前のせいだろ」



 私が、なるほど、と頷くよりも早く、私の前に座っている政樹が口を挟む。

 そんな彼を、知子は睨んだ。



「うっさいわね。あんたに言ったんじゃないんだから一々口を出さないで。あー、うざい!」

「んなっ……!?」



知子の辛辣な言葉に、政樹は声をあげて固まる。

 そんな彼を気にした様子もなく、知子は一度鼻を鳴らしてから、先程までしていたように手元の携帯電話に視線を戻し、指を動かし始める。

 時々、バイブレーション機能の震える音が聞こえてくるので、おそらくメールでもしているのだろう。


 しばらく口をぱくぱくとさせていた政樹だったが、そんな知子の姿を見て、再び口を開いた。



「うざいってお前!何調子にのって……」

「あー本当うるさい!そんなんだから童貞なのよ!」

「なっ……!?」



 再び固まる政樹。しかし、先程とは違い、今度は口をぱくぱくさせることもなく、顔を赤くして完璧に固まった。

 そんな彼の姿を見て、私の悪戯心が動く。

 大袈裟なくらいの驚いた表情を作り、口元に手をあて、『信じらない』といった演技をしながら、政樹に向けて言う。



「嘘……政樹、そうなの……?」

「え……!?あ、いやその……」



 私の想像通りのリアクションを取る政樹に内心ほくそ笑みながら、しかし、それを表情には一切出さず、私はちらりと知子に一瞬だけ視線を向ける。

 たまたまなのか、それとも私の行動を理解していたのか、ばっちりと絡む視線。

 私の言いたいことを理解したらしく、口元をニヤリと歪める彼女を横目に、私は視線を政樹へと戻す。今だに「いや、その……」と言葉に詰まる政樹を見つめながら、私は知子の言葉を待っていた。



「本当よ。私、だいたい見ただけでわかるから」

「――っ!」



 知子の言葉に、政樹は鋭く息を飲む。

 そうして政樹が鋭い視線と声を知子に向けようとする、直前に、今度は私が口を開いた。



「意外……。政樹経験ないんだ……」

「いや、それは……。その、い、いい相手がいなかったっていうか……」

「それって結局言い訳よねー。単にモテないだけなのに」



 言い訳じみた弁解をする政樹を、今度は知子が襲う。



「お前……」

「えっ……!?そうなの……?すごくモテそうなのに……」

「あ、いや……」

「モテる訳ないでしょ?だって一々人の言葉に口を出すような男よ?そんなうざい男がモテる訳ないって」

「おまっ……」

「そうなんだ……。政樹ってうざい男だったんだ……」

「違っ……」



 口を挟ませる間も与えず、少しずつ政樹を追い詰めていく私と知子。

 初対面だというのにここまでいいコンビを組めることに、相性がいいのかな等と考えながら、私はもう一度知子に視線を向ける。

 今度もあった視線。やはり私が言いたいことが伝わったらしく、彼女は目をつぶり、肩をすくめながら頷いた。

 そんな彼女に私も頷き返してから、私は、いまだにテンパっている政樹に向け、言う。



「いや……だから……」

「政樹ってさ、よく、みんなのおもちゃになってない?」

「そう、おもちゃに……へ?」



 私の言葉を復唱したところで、政樹はようやく正気に戻る。

 既に興味をなくしたのか、今までと同じように携帯をいじる知子の姿を。先程までの表情を消し去り、何事もなかったかのような態度を取る私の姿を見て、政樹はようやく、自分がからかわれていたのだと悟った。


 政樹は両手を頭にあて俯き、大きなため息をつく。



「……お前らなぁ……」



 政樹が次の句を紡ぐ前に、私はそれを阻止する。

 うだうだ言われるのはめんどくさかったから。



「何?まだいじられ足りない?」

「……なんでもないデス」



 引き攣った顔でそう言った政樹に、私は「そう」とだけ返した。



 恨めしそうに見つめる政樹を当然のように黙殺し、私は残りのパスタにフォークを絡ませる。

 モッツァレラチーズの入ったトマトソースのそれを、口へと運ぶ。

 ――口に広がる、出来合いの缶詰のような――ような、ではなく、実際に缶詰なのだろう――安いソースの味に、固いチーズの食感。

 ピザと同様、ジャンクフードのようなそれに、私は小さくため息をついた。



「……どうした?」



 私のため息に、目ざとく反応する政樹。

 そんな彼に、私は「何でもないわ」と返し、不自然にならないように、デザートコーナーへと視線を移す。


 手を繋ぎ、ニコニコと笑顔を浮かべ、会話をしながらケーキを選んでいる親友と想い人の姿を視界におさめ、胸が、ズキリと痛んだ。


 願ってはいけないことと理解しながらも、紡の隣にいる私の姿を、一瞬、想像してしまい……。

 そんな無意味な行動に、叶わない願いをいつまでも捨て切れない女々しい自分自身に、イライラした。


 苛立ちと、不満を吐き出すように、ため息をつきながら、髪をかきあげ。

 それでも収まらない胸のもやもやした気持ちをごまかすように、私は水を、いつもよりも少し多めに飲み込んだ。



 ――そんな不審な行動をした私を、政樹が怪訝な表情で見ているのが、気配でわかる。

 しかし、突っ込みを入れられても困るし、私自身入れられたくないので、黙殺し、政樹が何かを口にする前に、私は話題を知子へと振った。



「ところで知子。あんたさっきから何してるの?」



 彼女の行動がそこまで気になった訳ではないし、みんなといる時に携帯をいじって、と目くじらを立てた訳でもない。

 単に都合が良かっただけだ。政樹の追求を逃れる為のスケープゴートにするのに。


 私のそんな黒い内心など知るよしもない知子は、携帯をいじる手と視線はそのままに、私の問いに「んー」と答えた。



「今ね、ちょっと整理してるのよ。ケータイの中を」

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