第七十三話
第七十三話
「それでは、プレゼント交換をしたいと思います!」
チキンやオニオンスープのパイ包み焼きなどクリスマスらしい、静歌さんの料理に舌鼓を打ち、しめのケーキを食べ終え一息ついていたところで、隣に座っていた舞歌が椅子から立ち上がりそう言った。
「それは構わないけど、どうするの?普通に交換するわけ?」
そんな、全員の意見を代表した真希の問い掛けに、舞歌は、いえいえ、と笑う。
「ちゃんとクジを用意しました!」
「ず、ずいぶんと用意がいいのね…」
今度の言葉も、俺達の気持ちを代弁していた。
呆気にとられる俺達をよそに、舞歌は一人生き生きと、そしてきびきびと準備をしていく。
俺達からプレゼントを回収すると、その上に数字の書かれた小さい紙を乗せていく。
そうして準備を済ませた舞歌は、俺達の方へ、にんまり笑顔を携えて振り返った。
「説明します!今回のプレゼント交換は、一人ずつクジを引いてもらうタイプです!引いたクジが自分のものだったら、再度クジを引き直してもらいます!」
「…あの子、なんであんなにテンション高いの?」
「俺に聞くなよ…」
俺の正面に座っていた真希は、机の上に身を乗り出し、そう小さく尋ねてきた。それに同じように身を乗り出し返答していると、それを目ざとく見つけた舞歌が、眉を吊り上げ、びしっ、と効果音が鳴るような勢いで、俺達を指差す。
「そこっ!無駄口たたくの禁止っ!!」
そう声高らかに宣言した舞歌に、俺は隠れて小さくため息をつき、真希は席に座り、肩をすくめた。
とりあえず、今の舞歌に逆らうのはやめていた方が無難のようだ。
俺達が口を閉ざすと、舞歌は、まったく、と言ってから続きを口にした。
「ただし!三番目と四番目の人には、お互いのプレゼントがない場合はクジを。どちらか、あるいは両方のプレゼントがあった場合は、自分のとは違う方を選んでいただきます!異論はありますか?」
そのテンションはなんだ、などと、愚問をする者はもういなかった。
「では、順番ですが、私、真希、お母さん、紡の順でいきたいと思います!」
「ちょっと待て」
しかし、今度の言葉には口を挟まずにはいられない。
「何?紡?」
不思議そうに、小首を傾げて聞いてくる舞歌に、俺は当然の疑問をぶつけた。
「俺が最後なのは、それはいい。けど、なんでお前が一番最初なんだ?」
俺の疑問を受けた舞歌は、
「なんだそんなこと」と目をつぶり、肩をすくめ、首を左右に降ってから言った。
「そんなの、私が楽しみたいからに決まってるでしょ!」
俺と真希は盛大なため息をつき、静歌さんが苦笑いを浮かべた瞬間だった。
・・・・・・・・・・・・
「いい?みんな、いっせいに開けてね?」
クジを引いてからも、舞歌の仕切りは続いていた。
プレゼントくらい自由に開けさせてほしいものだが、そうもいかないらしい。
クジは、何の問題もなく進行された。舞歌、真希は一度で自分以外のものを引いたらしく、それぞれ対応した番号のプレゼントを手に取った。
そして俺と静歌さんだが、残った二つの内、俺のものはなく、静歌さんのものはあったため、静歌さんは俺以外の誰かのを、俺は静歌さんからのプレゼントを受け取った。
「それじゃあ…せーの!」
舞歌の掛け声と伴に、俺達はプレゼントにかけられたリボンやら包装紙やらを開けていく。
舞歌は子供のように勢いよく。
真希は落ち着きながらそつなく。
静歌さんは、落ち着いて丁寧に。
俺も、静歌さんからのプレゼントとわかっているので、丁寧に包装紙を開封していった。
「おー!ネックレス!」
何かな何かな〜、と歌を歌っていた舞歌は、小さな箱から、小さい十字架のついた銀のネックレスを取出し、そう嬉しそうな声をあげた。
「あ、それ私よ」
舞歌のネックレスを確かめた真希はそう名乗りをあげた。
「へー。やっぱりセンスいいな」
「ふふ。そう?」
俺からの賛辞に、そう、まんざらでもないような笑顔を浮かべる真希。
おそらく俺にあたってもいいように考えて考慮してくれたのだろう。
舞歌が首に早速付け出したそれは、男の俺がしていてもなんの違和感もない代物だった。
「ねえ!似合う?似合う?」
「ああ。似合ってるよ」
そこでなぜ俺に聞いてくるのかは疑問だったが、俺がそう返答すると、舞歌は笑顔を浮かべた。
「えへへ。ありがとう、真希!」
「どういたしまして。…あら、私はストールね」
舞歌に笑顔を向けた真希は、手が止まっていた――舞歌が大声をあげたため、彼女に視線が集まったのだ――プレゼントの開封を再開し、箱の中身を確認し、声をあげた。
それは俺が用意したものだった。
「それは俺からな」
「へぇ…」
物を見定めるかのように、手に取りデザインや肌触りを確かめている真希に、俺はやや不安を覚える。
「とりあえず誰にあたってもいいように、合わせやすい色とデザインにしてみたんだけど、どう?」
舞歌はフェミニン系、真希はクール系。静歌さんは、おそらく舞歌よりも落ち着いたフェミニン系だろう。
そんな系統の違う彼女達の誰にあたってもいいように用意したストールは、ベージュと茶の千鳥格子。用途通りストールとしても、マフラーとしても使える一品だった。
「ええ。気に入ったわ。大事に使わせてもらう。ありがとう」
そう言って微笑んだ真希を見て、俺はようやく胸を撫で下ろせたのだった。
ちなみに、真希の手元を舞歌が羨ましそうに眺めていたのはご愛敬。
「それじゃあ次は私ね」
そうにこにこと包装紙の開封を再開する静歌さん。
当初の予定とは違い順番制になってしまっていたが、そこに口を挟む者はいなかった。
「まあ、手袋」
「お母さん当たりだよー」
いち早く名乗りをあげた舞歌によって、贈り主の明らかになったそれは、薄いピンクと白で彩られた、どう見ても女性物の手袋だった。
「……舞歌。もしもあれを俺が引いていたどうなったんだ?」
「その時は、大当りだね。紡」
舞歌の楽しそうな笑顔を見て、安堵の息を吐いたのは言うまでもない。
「ありがとう舞歌。大切にするわね」
「うん!」
そんな微笑ましい親子のやり取りを見ていると、ふいに真希と目が合った。
「えーと、俺は、っと…」
目が
「次はあんたなんだから早くしなさい」と語っていた。
リボン、包装紙をとり、中から出てきた細長い箱を開ける。
「へー時計だ。ありがとうございます。静歌さん。すごくシックで俺好み……っ!?」
静歌さんにお礼を言いながら時計を観察していた俺は、その時計のメーカーを確認した瞬間、彼女への返礼もそこそこに、鋭く息をのんだ。
固まる俺を疑問に思ったのか、真希が俺の手の中にある時計を見、俺と同じようにメーカーを確認した瞬間、俺と同様の反応を見せた。
「あら?二人とも固まっちゃってどうしたの?もさかして壊れてた?」
左頬に手を添え、不安そうに言う静歌さんに、俺は慌てて、しかし、混乱したまま首を横に振った。
「い、いえ!時計は壊れてなんかいません!けど…」
「けど?」
時計を見、静歌さんを見る。
その動作を二度繰り返してから、俺は渇いた口を開いた。
「…あの…これ…。俺の見間違いじゃなければ“Ω(オメガ)”の刻印がしてあるんですけど…」
「ええ。そうよ。保証書も入ってるでしょ?」
驚天動地のことをさらっと認めた静歌さん。
その態度に、俺は脳内の常識が誤りではないか、という誤解を受けた。
「……なあ、真希。Ωって、俺の見識が誤りでなければ、確か、高級品だと思ったんだけど」
「…ええ。私もそう認識していたわ」
だから、そう真希と小声で交わしあった。
その会話が聞こえてしまったのか、静歌さんは言う。
「Ωっていても、これは紡君に失礼にあたってしまうかもしれないけれど、その時計はそこまで高くないモデルなのよ。だから気にせず受け取ってちょうだい」
そう優しい笑顔を浮かべる静歌さんを目に収めてから、俺は再度、真希の方に体を寄せた。
「…真希?」
「…確かに最近そういうモデルも発売されていたけれど…それでも、五万近くはするはずよ?」
「五万…」
決して、娘の友達に、そして彼氏に、気軽に用意出来る金額ではない。
不安な眼差しを静歌さんに向けると、彼女は小さく笑った。
「本当に気にしなくていいのよ。それに、白状しちゃうと、この前たまたま宝くじが当たって、少し余裕があったの。だから少し奮発しちゃったのよ。だから紡君。気にせず受け取って」
「…わかりました。ではありがたく使わせていただきます」
まだ恐縮はしてしまうがそういう理由なら、と納得出来た俺は静歌さんに笑顔を返し、彼女からのクリスマスプレゼントに今度こそお礼を伝えたのだった。
「ツイてたわね、紡」
「みたいだな」
「ねえ。紡」
そんな会話を真希としていると、後ろから舞歌に話しかけられた。
振り返り見た舞歌は、カリスマの瞳を浮かべていた。
「プレゼント交換も終わったし、ちょっと付き合ってほしいんだけど」
「付き合う、って…どこに?」
「私の部屋」
彼女は暗に言っている。二人で話したいから付き合ってほしいと。
「ん。わかった」
もちろん、断る理由など、どこにもなかった。