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風花  作者:
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第六十六話

第六十六話




「――と、いうわけで、短い休みだからってだらけ過ぎないように!あと、舞歌さん。手術、上手くいくといいわね」



恒例の言葉と温かい言葉で締めくくり、担任の教師は優しい笑顔を舞歌に向け、教室を出て行く。

横に視線を向けると、そんな彼女の姿を、舞歌は嬉しそうに見送っていた。



「うっしゃー!終わったー!明日から休みだー!!」



そんな穏やかな空気をぶち壊したのは、自分の椅子の上に昇り無意味にでかい声でそう叫んだちんちくりんだった。


いつも通り突っ込んでぼろくそに言ってやろうかとも思ったが、このあとの予定に差し支えるので堪えた。



「おい!そこのバカップル!」

「なんだ?ちんちくりん。…あ」



反射的にそう返してしまってから、俺は自らの失態に気付く。

堪えると決めそう行動していたのに、標的が自分になった途端、ついいつもの癖が出てしまっていた。



「ち…!?ぶっとばーす!」

「あーもう!なんでこんな日にまで喧嘩するんだよー!」



椅子から飛び降り、一直線に俺の方に向かってくる佐藤――決して比喩ではなく、進行上にある机や椅子やらを無視して、つまり押し退けたり倒したりしながら、彼女は言葉通り俺の方へ向かって来ていた――を後ろから羽交い締めにして取り押さえながら、智也がそう叫ぶ。


そんな彼に、俺は頬をかきながら答えた。



「わるい。つい」

「つい、で毎回駆り出されてたら、こっちはたまらないよ…」

「あーすまん。けど、だったら出てこなくてもいいぞ?頭押さえれば俺に被害はないし」

「紡にはなくても、周りに被害が出るんだよ…」

「……わるい」



がっくりとうなだれる智也は、やっぱり苦労人だ。


そんな、本人が聞いたら本気で怒りそうなことを、俺は智也を見ながら思っていた。



「えっと、それで何かな?梢ちゃん?私達に何か用?」



俺と智也の会話が終わるのを見計らってか、舞歌がそう、いまだにぎゃーぎゃー叫んでいるやかましい佐藤に声をかけた。


それを受けて、佐藤はやっとおとなしくなる。もっとも表情は、苛立ちを浮かべているが。



「あんたら、っていうよりあんたに用があるのよ」

「私に?」



ならなぜバカップルと呼んだのだろうか。

と、そう揚げ足をとろうとして、俺は自分の重大なミスに気が付いた。気付いてしまった。


俺は…“バカップル”という単語に、なんの違和感もなく反応してしまっていたんだ…。


むろん、俺達の行動が周りにどう写るのかはわかってはいる。しかし、それを認めたくはなかった。自覚しているバカップル程終わっているものはない、俺はそう考えていたからだ。



「……終わった…」

「…?紡?どうしたの?」



突然、木製の床に手と膝を付き暗いオーラを垂れ流す俺に、舞歌は心配し、俺の隣にしゃがんで声をかけてきた。


しかし、そんな優しさが今の俺には、少し、辛い。



「…大丈夫。きちんと自己完結させるから、少し、待ってて」

「う、うん。わかった」



いつもとは違う俺の雰囲気に何かを感じ取ったのか、舞歌は素直に頷いて、立ち上がった。



「…それ、どうしたの?」

「さ、さあ…?」



頭上から聞こえる佐藤と舞歌の会話。

立ち直ったら俺のことを、それ、呼ばわりした佐藤に文句を言ってやる。そうやってストレスを発散させるのも悪くない。等と、俺は智也にはとても言えない黒い考えをしながら、自分の気持ちを落ち着けることに勤めていた。



「ふん、まあいいわ。ねえ、あんたの手術っていつなの?」



鼻を鳴らしビックな態度で話しを進める佐藤。書き流すつもりでいたのだが、聞き流せないその内容に、俺は自身の葛藤を後回しにして、顔を佐藤の方へとあげる。


害はないと判断したのか、智也はすでに佐藤のことを解放して、彼女の横に立っている。

そして本人は両手を腰にあて、ない胸を張り、いや、軽く踏ん反り返り、ビックな態度をとりながらも真剣な瞳を舞歌へと向けていた。



「28日だよ」



それを受けた舞歌は、俺に向けるような無邪気な表情ではなく、カリスマの顔を携えながら、佐藤の真意を探るように彼女の瞳を見つめていた。


そんな彼女らの態度に、へこんでいる場合ではないと、俺は立ち上がり舞歌の横へと並ぶ。


舞歌へと視線を向けると、彼女もちょうど俺を見ていて、目で、大丈夫、と合図を送ってきたので、とりあえず俺は静観することにした。



「28日か。どこで?」

「東京の大学病院で。紡のお父さんに手術してもらうの」

「紡の…?」



佐藤は不審な眼差しを俺に向け、同様の口調で俺に言う。



「あんたの父親って医者なの?」

「まあな」

「紡のお父さんは世界的な心臓外科医なんだよ」



無愛想に答える俺に代わり、舞歌が補足する。

それを聞いて、佐藤は値踏みするような視線で俺の足元から頭の先までを一瞥し、呟いた。



「…カエルの子はミジンコだった訳ね」

「本物のミジンコに言われたくねーよ」

「ぶっころーす!」

「紡ーーっ!!」



再び俺に突進してこようとする佐藤を取り押さえながら智也が叫んだ。

非難の視線を向けてくる智也だが、今回は俺も引くつもりはない。



「俺は一切悪くないぞ。ミジンコ呼ばわりされて黙ってなんかいられるか」

「それはそうだけど…。ま、舞歌も何か言ってやってよ!このままだと話しが…」

「梢ちゃん」



佐藤に声をかける舞歌の姿を見て、言葉を遮られたのにも関わらず智也は安堵の表情を浮かべていた。

これで落ち着ける。そう思ったのであろう。


しかし、舞歌はそんな智也の思いをあっさりと裏切った。


俺の腕を抱き、それでも視線は、苛立ちを浮かばせた視線は佐藤へと向け、言った。



「私のダーリンの悪口はやめて!!」

「このバカップルがーーっ!!」



訪れた混沌を前に、智也はめずらしく声を大にして叫んだのだった。



ちなみに、話しが再開するのに、これから10分もの時間を要するのだった…

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