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風花  作者:
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第五十二話

第五十二話




「嫌だって、何が嫌なんだよ!?この期に及んで、まだ生きるのが嫌だって言うのか!?」

「違うよ…私だって…本当は、生きたいよ…」

「じゃあなんで…」

「だって…手術したら…胸に、傷が残るんだよ…」

「それがなんだよ!?生きられるならそれくらい…」

「それくらいじゃないよっ!!」



涙をこぼしながら、再び舞歌は俺を睨む。

けどそこには、今までのような威圧感はなかった。



「男からすればそれくらいのことかもしれないけど、女の子からすれば大問題なんだよ!?」

「確かに大問題なのかもしれないけど、命には変えられないだろ!」

「それでも…嫌なのよ!」

「この…!」



真希に静歌さん。


二人と話しをして、二人の気持ちを、涙を俺は知っている。


知っているからこそ、こうしてくだらない理由で命を粗末にしようとする舞歌のことを俺は許せなかった。


暴力を振るうのはよくないとわかってはいるけど、俺は思わず舞歌の頬を叩こうとして――



「だって…エッチするときに男の人にがっかりされるのが嫌なんだもん…!」

「………は?」



――舞歌の言葉で、その行動と、頭に上っていた血の全てがキャンセルされた。



「生きていれば…私だって恋をする…。恋が結ばれれば、当然エッチだってする。その時、男の人に胸の傷を見られてがっかりされたら…?それが原因で別れることになったら…?そう考えたら、すごく怖いの!!そんな思いをするくらいなら…私は……」




『あんたが思ったのは、“女”の理由。そうじゃなくて、舞歌は“女の子”なんだよ』



『舞歌の気持ちは、確かにわかるわ。私も当時だったら舞歌と同じ行動をとっていたかもしれないし』



『…ここから先は言えないし、それはあんたが直接舞歌から聞かなきゃいけないことだと思う』



『真希ちゃんの言う通りだと私も思うわ。これから先、舞歌と一緒に生きたいと思うなら、直接舞歌から聞いた方がいい』



『私も女だから舞歌の気持ちはよくわかる!だから私は舞歌のことを説得できなかった!』



『お願い…っ!紡君!真希ちゃんの言う通り、舞歌を説得できるとしたら、もう、あなたしかいないの!お願い…舞歌を…助けて…っ!』




「……はは」



フラッシュバックする、今日までに聞いた真希と静歌さんの台詞。



「ははは…」



全ての“点”は“線”へと変わり、今、全てを理解できた。



「はははは!」

「…紡…?」



全てを理解し、そのあまりの“可愛いらしさ”に、俺は笑いを堪えられなかった。


急に笑い出した俺に、不信そうな視線を送ってくる舞歌。


そうか。こいつは、こんなにも“女の子”で“乙女”だったのか。



「舞歌。お前って実は可愛いかったんだな」

「なっ…!?」



俺の言葉に、舞歌は急激に頬を赤め絶句する。



こいつを説得するのには、こいつの生きる目標になればいい。

そう親父も真希も言っていた。


その言葉の“本当”の意味を、俺はきちんと捉えていなかったらしい。


若干ハメられたような気もするが、この際もうそんなことはどうでもよかった。



『だから紡君。舞歌のこと、よろしくね』



幸い静歌さんも認めてくれている。


全く。あの人は本当に娘によく似ている。



一度だけ目をつぶる。



心の中にいる笑顔の舞歌。



目を開けてみる。



目の前にいる涙でぐちゃぐちゃになり、歳相応の表情をしている舞歌。



俺が好きになった、大人な彼女。


改めて惚れた、子供な彼女。


両方とも、舞歌。俺が一緒に生きたいと望み、一緒に笑っていたいと望む、カリスマ性溢れる普通の女の子。



そんな彼女に今俺が何をすればいいか。答えは簡単だった。



「舞歌」



離していた手を、今度は舞歌の手の上へと添える。


舞歌はビクリと体を震わせていたが、それを俺は黙殺する。



「お前が手術するのが嫌なのは、胸にできた傷を男に見せるのが嫌だからなんだな?」



こくん、と舞歌は頷く。



「その傷を見られて、変な目で見られたり、それが原因で別れたりするのが嫌だからなんだな?」



こくん、と再び頷く。



理由を確かめて、再びおかしくなる。



胸に傷が残るのを嫌がるのは女だから。


まだ経験もしてない性行為に夢を見て、誰かもわからない相手に胸の傷を見せることに怯え嫌がるのは、女の子だから。


そう。蓋を開けてみれば、舞歌はただの夢見る女の子だったんだ。



「だったらさ…」



真希や静歌さんが、女の子の理由を舞歌から直接聞けって言った意味もわかった。

なぜなら、それを聞いてから舞歌に会ったら、俺はきっとにやついてしまうし、なにより舞歌のことを説得できなかっただろう。


この理由は舞歌の口から聞かないと意味がなかったんだ。



「だったらさ、俺だけにしとけばいいだろ」

「……え…?」

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