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風花  作者:
52/112

第四十六話(後半)




「ごめんなさいね、紡君。正直私は、あなたのことを信じきっていなかった」

「あはは…。まあ、そうですよね…」



苦渋の選択をし続けてきた静歌さん。そんな彼女にぱっと出た男のことを信じろという方が無理がある。



「あなたの覚悟が半端なものだったり、軽い気持ちで言っているようなら、私はあなたのことを殴るつもりだったの。そんな気持ちで舞歌にぶつかっても、あの子が傷つくだけだから」

「………」



見かけによらず過激な性格だったことを俺は初めて知った。

それとも娘のことを本気で愛しているからの発言だろうか。



「それで紡君に恨まれようと構わない。そういう覚悟を決めていたの」



“私も決めましたから。覚悟を”


…なるほど。あれはこういう覚悟だったのか。



「だけど、真希ちゃんが泣いたのなら、あなたに本心を見せたのなら、あなたの覚悟も気持ちも、半端なものじゃないってことよね」

「はい」



質問ではなく確認の問いかけに、俺はしっかりと頷いた。


俺の気持ちが本気であることが少しでも伝わればいいと、願ながら。



「……わかりました」



俺の気持ちが伝わったのかどうかはわからない。


けど…



「私も信じます。紡君に託します。舞歌のことを」



けど、そう言って笑う静歌さんの顔は、とても優しかった。



「…ありがとう、ございます」

「うんん。こっちこそありがとう。舞歌のことを真剣に考えて、悩んで、そしてそういう答えを出してくれて、本当にありがとう」

「…あの、静歌さん」



静歌さんの言葉は本当に優しかった。舞歌のことを本気で思っている母親の言葉だった。


…そうだからこそ、俺は確認しなくてはいけないことがあった。



「聞くまでもないことなんでしょうけど、静歌さんは舞歌のことをどう思ってるんですか?生きてほしいと、笑い続けてほしいと、思っていますか?」

「当たり前よ」



考える時間を一切挟まない即答。



「自分の子供の幸せを考えない親はいないわ。私も舞歌には生きてほしいと、笑い続けてほしいとずっと思ってた。…でも、私は真希ちゃんと違って、途中で諦めちゃたのよ。舞歌の意志を尊重してしまったの」

「それはなんでですか?だって舞歌が出した答えじゃ、誰も幸せになれないじゃないですか?」

「…私が舞歌の母親だから、かな」

「…どういう意味ですか?」



母親なら余計に諦められないんじゃないだろうか?


そう疑問に思い質問をぶつけると、彼女は悲しい微笑みを浮かべ、上に視線を向けた。



「舞歌の母親だから、私は娘の苦しむ姿を見ていたくなかったの…。あの子が病気のことを告げられてから、悩んで苦しんで、泣いて、泣いて、泣いて…。そうやって出した答え。もちろん納得なんかできなかった。何度も、何度も説得した。けど、その度に舞歌は悲しそうに笑うの。笑いながら首を横に振る。…私は、そんな舞歌の顔を見ていたくなかったの。間違った答えなのはわかってるけど、それでも舞歌が笑ってくれるならいいと思ってしまったのよ」

「………」



間違った選択だとは思う。けど、静歌さんの気持ちも、言い分もわかるんだ。

それに、仮に俺が彼女の立場だったら、そう考えると彼女を責めることなんて、到底できなかった。



「…あの、静歌さん」



俺は知りたかった。実の母親が、舞歌を愛している母親が、そう思うに至った過程を。空白の一年のことを。



「教えて、いただけませんか?舞歌が親父の診察を受け、そして生きることを諦めたまでのことを」

「…そうね。あたには話しておいた方がいいかもね」



静歌さんは冷えかけたお茶をすすり、一息ついてからゆっくりと口を開いた。



「始まりは、一年前の春。舞歌が二年生になってむかえた、一度目の春のことだったわ」

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