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風花  作者:
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第三十八話

第三十八話




「それで、本題なんだけど」



止まってしまった会話を再開する。


不覚だった。親父の前で涙を見せるとは…


…けどまあ、よしとしよう。おかげで、だいぶすっきりしたし、それに、親父はそれをネタに面白おかしく話しをするようなタイプではないから。



「親父も傷ついたことあるって言ってたよな?その時さ、人を信じられなくなったり、した?」



昼食の炒飯(今日の昼食は炒飯に玉子スープにレタスだけのサラダ)をいじりながら、親父に尋ねる。


親父は玉子スープを口に運びながら、思い出すかのように、視線を右上に向けた。



「んー…。人間不信になったことはないけど、でも恋愛に臆病になったことは確かにあるな」

「その時さ、どうやって立ち直ったの?」



その時の親父と今の俺。置かれてる状況は違うけど、似通ったところもある。

なんでもよかった。違う意見が、違う視点が欲しかった。



「どうやって、か」



親父は手に持っていた玉子スープのお椀と箸を机に置く。



「紡。前にも言ったことがあるかもしれないが、人は一人では生きていけない。必ずどこかで人と関わっている」



俺は頷く。その言葉は、親父から聞いた言葉の中で、最も印象に残り、最も共感できた言葉だった。



「その中で辛い出会いもあれば、幸せな出会いもある」

「うん」



その言葉にも同感する。智也達との出会いは、正に幸せな出会いだったから。



「辛い出会いをして辛い思いをする。そうやって傷つくと、人は他人との関わりを拒むようになる。もう傷つきたくないから、臆病になるんだ」

「………」

「けど、そうやってできた傷は、幸せな出会いをすることで癒される。不思議だな。人との関わりでできた傷を人との関わりが癒してくれるんだから」

「…つまり?」

「つまり俺が恋愛でできた傷を、新しい恋愛が癒してくれたってことだ」

「………」



親父の言っていることは正論だ。

恋なんてもうしない。そう思っていたって、人はあっさりと恋に落ちる。


けど、俺が今欲しかった答えではなかった。


俺は舞歌のことが好きだ。

それは自覚している。


けど、どうしたいのかがわからないのだ。


付き合いたい?

舞歌とならそれもいいだろう。


けど舞歌にまで裏切られたら?

…あんな思いはもう嫌だ。


静歌さんの言葉の意味は?

…わからない。どうして異性として好きになってはいけないんだ?


真希の言葉の意味は?

…わからない。どうして舞歌の秘密を聞いたら極端な三択を選ばなくてはいけなくなるんだ?


そもそも俺はどうしたいんだ?

舞歌のことは好きだ。だったら……



「紡」



思考のループにおちいりかけた時、親父の声が、俺を現実に引き戻す。



「え、あ…。なに?」

「恋愛っていうのは、考えてするものじゃないぞ」

「――っ!?」



思考をよんだかのような親父の言葉に、俺は息をのむ。



「確かに静歌さんや真希ちゃんの言葉を聞いたら考えるな、って言う方が無理だ」

「え…?は…?」

「けどな、考えすぎるのはよくない。いろいろなことが重なって考え込むのは当然と言えば当然だが、けど恋愛は考えるものじゃ…」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」



右手をかざし、親父の言葉を遮る。

頭が激しく混乱する。意味がわからなかった。



「なんで親父が静歌さんや真希のことを知ってるんだよ!?しかもなんで話した内容まで!?」



俺は親父にこのことを相談するのは初めてだった。

だから知るよしはないはずなのだ。


詰め寄る俺。しかし親父は普通の会話をするかのように、平然と答えた。



「二人とはお前や舞歌ちゃんのことで、いろいろと話しをしてるからだよ」

「なん…だって…?」



混乱はさらに深まる。


なぜ親父が、いや、なぜその三人が、舞歌と俺の話しをしているんだ?


そもそも、なぜ三人は出会った?

三人を繋ぐ接点は?



「紡にはまだ言ってなかったな。なぜ俺がこの村にきたのかを」



説明を促す視線を送っていると、親父はそう、口を開く。


以前一度だけ聞いたことがある。

なぜ東京の病院から、こんな田舎村の病院に移るのかと。


その時親父は答えてくれなかった。


いろいろあるんだよ、と言葉を濁した。


その理由は……



「俺が、舞歌ちゃんの主治医、だからだよ」



……こういう、ことだったのだ。




親父の言葉を聞いたその瞬間、ドクン、と心臓が音を、ならした……

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