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風花  作者:
39/112

第三十五話

今話は性的表現、用語が多少あります。苦手な方には申し訳ありませんが、ご了承下さい。




「…それから、どうなったの?」

「うん」



他人の恋愛話に興味があるのか、それとも俺が言った“痛いめ”に興味があるのか。

智也はためらいながらも先を急かした。



「それから少しずつ一緒にいる時間が増えていった。第一印象こそ最悪だったけど、彼女は学校一の美人だった。街を歩けばたいていの男は彼女のことを目で追っていた。そんな彼女が毎日俺の側にいたから、俺はすっかり舞い上がっちゃったんだよ」






第三十五話






「それじゃあ紡。また明日」

「ああ。バイバイ」



彼女は俺に笑顔を残し、教室を後にする。


いつからか彼女は俺のことを紡と呼び捨てにするようになっていて、俺も彼女と一緒にいることに抵抗がなくなっていたんだ。



「紡さ、最近あの女と仲良いよな」

「ん?ああ、まあな」



彼女が出て行くと、俺の仲の良かった友人が、そう声をかけてきた。



「紡さ、あの女のことが好きなのか?」

「…だったらどうするんだ?」



この時俺は、彼女に惹かれていた。だから不快だったんだ。彼が彼女のことを“あの女”と呼んだことに。



「やめとけって紡。あの女は性格が最悪だって、みんなが言ってるぜ。それに、初対面の時あんなこと言ってたのに、先週から紡に対する態度激変だ。絶対なんか裏があるって。悪いことは言わない。あの女はやめたほうが…」

「やめろよ!」



俺は彼にそれ以上言わせなかった。彼女の悪口を聞きたくなかった。



「お前実際に彼女と一緒にいたことがあるのかよ!?話したことがあるのかよ!?」

「ないけどさ…でも…」

「だったら噂や憶測でものを言うなよ!!」

「紡…」



俺は彼を睨みながら怒鳴った。

教室内に残っていたクラスメート達が何事かとこっちを見ていたが、それも気にならなかった。


嫌だった。彼女のことを悪く言われることが。


この時俺は気づいたんだ。彼女のことが好きだってことに…






・・・・・・・・・・・・






「この数日後、俺は彼女に告白されて付き合うことになったんだ」

「…その彼とは?」

「…それっきり。俺があいつのことを、いや、一緒につるんでいた連中と距離を置くようになっちゃったからな」

「紡…」



なんと言っていいかわからない、そんな視線を向けてくる智也。

そんな智也に俺は苦笑いを返す。



「本当馬鹿なことしたって思う。けど、当時はそれが正しいって信じ込んでた。恋は人を盲目にする、本当そうだよな」

「…それ、わかるよ」



俯きながらの智也の言葉が、話しを合わせるための同意ではないことに、俺は気づいていた。

智也もある。盲目になったことが。

経験をし、後悔をしてきた俺には、それがわかった。



心が少し軽くなる。

傷を舐め合うわけではないけど、それでも同じ思いをした人がいるということに、俺は救われた。


胸の中で智也に

「ありがとう」とお礼を言ってから、俺は続きを口にした。



「そうやって友達から離れて俺は彼女との世界を作った。そして彼女とキスをする度に、身体を重ねる度に、俺は彼女にのめり込んでいったんだ。…そして、俺が彼女に夢中になるにつれて、彼女は少しずつ、その本性を解放していった」






・・・・・・・・・・・・






「ねぇ、紡〜ぅ。私誕生日にこれ欲しいなぁ〜」



昼休み。昼食の席で、彼女は読んでいた雑誌のあるページの一部分を指差しながら俺に差し出してきた。


雑誌を受け取り、指差されていた物を見て俺は息を飲む。


そのページに写っていたのは、とあるブランドの鞄達。彼女が指差した物はその中でもそれなり、いや、かなり値段の張る物だったのだ。



「これ…か?」



疑念と希望を持ち彼女に確認するも、彼女あっさり頷く。



確かに付き合いだして初めての誕生日だ。

それなりに演出はしたいし、プレゼントも良いものをあげたい。


しかしその鞄は度が過ぎていた。


一介の学生が、いや、例え社会人であっても、そう簡単に出せる金額ではなかった。



「……これじゃなきゃ駄目なのか?」



俺はちらりと彼女の薬指を見る。


そこには洗練されたデザインのシルバーリング。

先日の一ヶ月記念に彼女にねだられて買った物だ。

あれだって決して安い物ではない。



「うん。これがいい。これじゃなきゃ嫌」



そんな俺の視線を気にかけた様子もなく彼女は頷く。



そんな彼女の様子を見て俺は困った。

彼女の望みは叶えてあげたい。しかし、二ヶ月で20万を越える出費は痛すぎる。



そんな風に葛藤していると、彼女が妖艶に笑い、俺の耳元に口を近付け囁いた。



「買ってくれたら、今度セックスする時、中に出してもいいよ」



と。



この時俺は、彼女とのセックスにはまっていた。



俺は今まで何人かと付き合ったことはある。しかし身体を重ねたのは彼女が初めてだった。


一方彼女は初めてではなかった。

彼女の処女を奪った男に嫉妬したが、それも最初だけで、余裕を持ちながら俺を誘ってくる彼女に導かれ、俺達は何度も身体を重ねた。


初めて覚えた快楽に溺れていたんだ。俺は。



また、彼女はコンドームが嫌いだった。

使おうとすると怒られ、生での行為を強要させられた。もちろん射精するときは外に出していたが。


そんな彼女からの中出しの許可。

妊娠の心配もあったけれど、それを快楽の好奇心が上回った。



しばらく悩む“ふり”をしてから、俺は頷く。



「……わかった…」

「やった!紡大好き!」



そう言い俺に抱き着いてくる彼女。

そんな彼女を受け止めながら、俺はその時のことに期待を膨らませていた。






こうして、俺はますます彼女にのめり込み。


それにつれて彼女はますますわがままになる。



でも俺は、おかしいと思わなくなっていたんだ。


感覚がおかしくなっていったんだ。この時の俺は。




…そうして感覚が完全に狂ったある日。

彼女との交際が一年を過ぎたある日。




…そう。あの、“夢から覚めた日”がやってきたんだ……

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