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風花  作者:
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第三十四話

第三十四話




「はぁ…」

「どうした?ため息なんかついて」



昼休み。俺の隣で昼食をとりながらため息をこぼした智也に疑問の視線を送る。



「うまくいかないな、って」

「…なにが?」

「紡が舞歌を避けなくなったと思ったら、今度は舞歌が紡を避けてる」

「あー…」



思わず言葉が濁る。


舞歌の中を見ようと決心した次の日から、俺は早速行動に移した。

前日まで避けていたのが嘘のように、積極的に話しかけ、一緒にいる時間を作った。


そうやって舞歌を観察して、なにを考え行動しているのかを知ろうとした。


舞歌は自由人だ。だから彼女の頭の中を探るのは、とても難しい。


でも一つ。一つだけわかったことがある。


それは、彼女がどんなことにも手を抜かないこと。



例えば授業中。彼女はわからないことがあれば、理解をするまで教師に質問を繰り返す。

その結果授業時間が延びようがお構いなしに。


例えば昼休み。彼女は自分が食べたいと思ったものは必ず食べる。

それが他人のおかずだろうとお構いなしに。



そして、俺と接する時。


彼女は全力で騒ぎ、笑う。


周りの目や噂など気にも留めずに。



彼女は、毎日を全力で過ごし、生きている。


……まるで“限りがあることを知っている”かのように…



「せっかくあのやり取りが戻ってきたと思ったのにさ…」



舞歌が俺を避けだしたのは、俺がそこにたどり着いた次の日の朝からだった。


彼女のことだ。きっと俺が感づいたことに気づいたのだろう。



けど、それは肯定だった。


前日まで普通に話して、以前と同じように騒いでいたのに、急に俺のことを避けだした。ということは、これ以上知られたくないということ。

つまり、俺の考えが間違っていないことの証明だった。



「二人の問題だからあんまりうだうだ言っちゃいけないのはわかってる。けど、二人のやり取りが戻ってきた、そう思って喜んじゃった分、やっぱりショックは大きいよ…」



俺達が以前のやり取りを演じていたのは、わずか三日。

しかし、そんな短い期間でも喜んでくれた人がいたことが嬉しくもあり、申し訳なくもある。


けど……



「悪いな、智也。けど、今だけよければいいって訳じゃないだろ?」



けど、それはあくまで他人が求める“今”でしかない。

極端な言い方をすれば、自分さえ楽しければそれでいい、ということ。



「それは…そうだけど…」



言葉を詰まらせた智也に、俺は小さく笑いかける。



「智也の言い分もわかる。けど、もう少し我慢してほしいんだ」

「ん…」

「…俺は昔、と言ってもちょっと前のことなんだけど。人の中身を見ようとせず、表面と言葉だけを信じて痛い目にあったことがあった」

「…え?」



納得いかなそうな智也に、俺はあいつとの、元彼女とのことを打ち明けることにした。

突然切り替わった話しの内容に戸惑う智也をいちべつし、俺は上に顔を向け、あいつのことを思い出す。



「東京にいたときの彼女とのことなんだけどさ…」






・・・・・・・・・・・・






「ねぇ」

「…は?」



それは日常の一コマ。よくある風景の中での出来事だったんだ。



「そこ、私の席だから今すぐどいて」

「あ…わりぃ…」



昼休みに仲のいい友達と集まっての食事。

今俺がいるような田舎の学校だったら屋上やら中庭にいってのんびり食事、という選択肢もあったんだけど、この時俺がいたのは首都、東京にある学校。

しかも渋谷にあったため、今いる学校のように余計なスペースなどなく。

結局のところ学食か教室で食べるしか選択肢はなかった。


俺達のグループも、例にもれず教室の一角を占拠し、食事をしていたんだ。

そう、いつものことだった。


ただ違っていたのは、先日席替えをしたということ。

そして、俺達のグループの中心的な友人の隣の席が彼女の席だったということ。



席替えをするまで、この一角は俺達のグループ、五人のうち三人の席があった。


だから学食や友達の席に行っていて空いている女子の席を勝手に使わせてもらっていた。

文句なんか言われたことなんかなかったんだ。


今日までは。



「あのさ、どこで食べようとあんた達の勝手だけど、私の席を使わないで。迷惑なの」



そう言い切り俺が使っていた椅子をご丁寧にハンカチで拭いてから彼女は席に座り、唖然とする俺達に関心をはらうこともなく化粧をし始めたんだ。






・・・・・・・・・・・・






「それが彼女との出会いだった」

「…なんだか、きつそうな人だね」

「きついわけじゃないよ。関心がないだけ」

「え…?」

「自分に利益をもたらす人以外はゴミと同等って考えなんだよ。あいつは」

「そんな…いくらなんでも…」

「実際、俺の父親が医者だって知った瞬間から態度が変わったんだ。俺に対してだけね」

「………」






・・・・・・・・・・・・






「ちょっといいかしら」

「え…はい?」



授業の合間の休憩時間。自分の席で携帯電話をいじっていたところに彼女に話しかけられて、俺は思わず体を強張らせる。


あんな衝撃的なことがあってから、俺は彼女から距離を置くようになっていた。昼食を食べる場所も変更し、関わらないようにしてきたんだ。


俺から話しかけることも、彼女から話しかけてくることもなかった。だから驚き戸惑った。彼女がわざわざ俺の席にまで足を運び話しかけてきたことに。



「草部君のお父さんが、お医者様をしてるって本当?」

「本当だけど…それがどうかしたの?」



彼女のいきなりの問いを疑問を抱きながらも答える。


その瞬間だった。彼女の探るような表情が満面の笑顔へと変わったのは。



「へー、そうなんだぁ。ねぇ、草部君。よかったらでいいんだけど、今日の昼ご飯、一緒に食べない?」

「え?あ…え?」



混乱した。いきなりの誘いと、急変した彼女の態度に。



「だめかしら?」

「いや…その…。だめじゃないけど…」

「じゃあ決まりね!それじゃあまた昼休み」

「え…あ、ちょ…」



戸惑う俺を置き去りにして、彼女は一方的に話しを締めくくり。



…こうして、俺は、少しずつ、彼女に振り回されるようになっていった。

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