第三十二話(後半)
智也の言葉は、俺の傷を強く刺激した。
なんの迷いも、なんのためらいもなく、当然のようにそう言った智也。
その瞳の、なんと澄んだことか。
俺の印象に最も残っている瞳は、裏切られた時に見た瞳は、もっとくすんで濁っていた。
自分の利益や都合だけを優先し、他人を思いやることのなかった彼女の瞳がいかに醜かったのかを、俺は、今更ながらに実感した。
「…本当、恥ずかしいやつだよ。お前は」
少し、いや、だいぶすっきりした。
人間は確かに裏切る。
程度は異なれ、子供から大人まで、裏切る人間は確かにいる。
俺だってそうだ。
関わりたくないからと壁を作り、クラスメートを適当にあしらってきた行為こそ、彼らに対する裏切ら行為以外のなんでもない。
つまりなにが言いたいか。
人は裏切る生き物だ。だからこそ、裏切られても後悔をしないように、自分の目できちんと相手の本質を見極めなくてはいけないということ。
智也のこの瞳を見た後では、到底彼女のことを信じることはできなかっただろう。
そして…
「…けど、そんなお前のこと、嫌いじゃないぜ…親友」
…この瞳なら信じられる。裏切られても後悔はしない。
そう、心から思えた。
「紡…!」
嬉しそうな笑顔。
友達からそんな笑顔を向けられるのは久しぶり過ぎてくすぐったく感じたけど、でも、悪くはなかった。
裏切られるのは嫌だ。
それは人間なら誰しも同じだろう。
誰だって裏切られたくないし、傷つきたくない。
でもそうやって怖がって人から距離を作っていたら、こうやって温かい気持ちになることもできない。
大切なのは見極めること。そして、責任を持つこと。
それともう一つ。
自分自身も、そう思われるような人間になること。
自分は裏切るけど裏切られるのは嫌だ。
そんな自分勝手な人間が育む友情や愛情なんて薄っぺらい。
末路は火を見るよりも明らかだ。
俺は今日、それを知ることができた。智也の笑顔が教えてくれた。
正直、俺が他人に信じてもらえるような存在になれるかはわからない。自信なんてない。
けど、初めてできた“本当の”親友を裏切ることはしたくなかったし、裏切られたくない。
それに…舞歌。
恋愛感情を抜きにしても、彼女のことは人として好きだ。
けど、それは表面の表情だけを見てそう思っているのかもしれない。
彼女が抱えているであろう問題を知った時に、同じことを言えるかどうかわからなかった。
だから見極めたいと思う。彼女がどういう人間なのかを。
見極めた上で、それでも彼女のことが好きならば、その時は真希と話しをしたいと思う。きちんとした覚悟を持って。
そのためにも俺は変わらなければならないし、変わりたい。
智也にも、真希にも、そして舞歌にも信じてもらえるような人間になりたいんだ。
すぐには変われないと思う。
傷だって癒えきったわけじゃない。
でも、進みたいんだ。
前へ。明日へ。
俺自身が満足できる毎日を過ごしたいから。
だから、少しずつでもいいから、進んでいこうと思う。
前へ。明日へ――