第二十五話
第二十五話
「…どういう、意味だ…?」
混乱が、頭を埋める。
彼女の言葉が、うまく理解できなかった。
なぜ?どうして?
そんな疑問符ばかりが浮かんでくる。
「言葉通りよ。静歌さんからは、あんたになにを言ったのかを。舞歌からは、なぜそうしたのかを。それを私は、二人から聞いているの。だから、あんたの今の行動は、まったく気にならないわね。予想できていたから」
「………」
驚き、戸惑い、混乱し、声が出ない。
俺の問いに答えた彼女。
しかしその内容は、やはり理解できなかった。
なぜ、静歌さんは真希に話したのだろう?
そうすることにメリットがあるわけではないのだから、話す必要性は無いのだ。
それに舞歌。真希の言葉の中では、彼女は真希に“なぜそうしたのか”を語っていた。その言い方を聞くかぎり、あの日、静歌さんが俺に話したことは、舞歌が言わせたように聞こえる。
しかし、それをすることによって舞歌がなにかメリットを得たとは、やはり考えられない。
俺には、二人の行動が理解できなかった。真希に話す、つまり報告することで、なにかメリットを得られたのだろうか?
「…意味がわからない、って顔してるね」
「…わかるわけないだろ」
俺の顔を見ながらの言葉にそう返すと、真希は、そりゃそうだ、と頷く。
「ねえ、紡。あんたさ、知りたい?」
「……え?」
真希の、昼食を続けながら、まるで世間話の一環かのようの物言いに、俺の反応は鈍った。
「私は、あんたが疑問に思ってることの大部分を知ってる」
俺の間の抜けた返事を気にした様子もなく、真希は話しを進めていく。
先程同様、世間話をするような気楽な口調で。
「あんたが知りたいと思うなら、それに答えてあげてもいい。ねえ、知りたい?」
「…そりゃ、知りたいさ。けど、どういうつもりだ?」
彼女の提案は、願ってもないことだった。
俺の疑問、静歌さんに言われたあの言葉の意味がわかれば、俺は、この迷宮から抜け出すことができる。
しかし、あまりにも話しがうますぎる。
舞歌の親友である彼女が、その親友の秘密を暴露するということは、極端に言えば親友を裏切ることになるのだ。
そんな真似を、たいして親交が深いわけでもない俺に話すという行為に、俺は疑念を抱かずにはいられなかった。
「どういうつもりもなにも、見てられないのよ。無意識の矛盾を抱えたあんたらのやり取りが」
うんざりした表情でそう語る彼女。
俺はそんな彼女の台詞に、再度疑問を覚える。
「無意識の、矛盾…?」
「ああ、いいの。こっちの話しだから」
疑問を込めた視線を真希はあっさり受け流し、そのウェーブのかかった髪をかきあげて再び口を開いた。
「で?どうするの?」
「…先に、いくつか聞いてもいいか?」
「どうぞ」
肩をすくめ、ため息を吐いてから頷く彼女。
その態度には少々苛立ちを覚えたが、今は流すことにした。
「まずは、なんでそのことを俺に話そうとしたんだ?そんなことをして、真希になんのメリットがある?」
「舞歌があんたのことを好きだからよ」
「…それだけか?」
即答された答えに俺は拍子抜けする。
もう少し、きちんとした理由があるのかと思っていたからだ。
「そうよ。それだけ。具体的に言うならあんたらが無意識の矛盾行為をしているからね。当然、私にもメリットがあるからやってるの」
そこまで一気に話した真希は、他には、と先を促した。
どうやら、この質問の答えはこれで終らしい。
…ちっとも意味はわからないけど。
「…仮に俺が聞きたいと言ったら、その場合、なにか見返りは求められるのか?」
「へぇ」
その瞬間、真希はにやりと笑った。
この時悟ったんだ。やはりこのうまい話しには裏があったんだ、と。
「察しがいいね。その通り。と言っても、変なことを要求するつもりはないから」
「…具体的には?」
「Give&Take」
「は…?」
警戒していただけに、彼女の台詞は俺を戸惑わせた。
間抜け面を浮かべ戸惑う俺にお構いなく、彼女は話しを進める。
「だから、Give&Take。さっきも言ったけど、私はただ貰うだけっていうのは嫌なの。それと同様に、ただ与えるだけなのも嫌。だから、あんたが舞歌のことを知りたいなら、まずは私の質問にいくつか答えて」
「…それが、あんたの言う条件か?」
「そ。お互い知りたいことを聞けるの。対当でしょ?」
「……あんたらしいな」
ため息と同時に笑みが浮かぶ。
本当に、彼女はいい性格をしている。
「…わかった。その条件のむよ。どうせこのまま一人で悩んでいたって答えは出ないんだから」
「んじゃ、交渉成立ね」
「ただし、答えられないこともあるんだから、そこは納得しろよ?女物のショップなんか聞かれてもわかるわけないんだから」
「大丈夫よ。別に東京のことを知りたいわけじゃないんだから」
「そう…なのか?」
以外だった。てっきり東京のことについていろいろ聞かれると思っていたのに。
「じゃあなにを…」
「紡」
俺の言葉を遮り、静かに名前を呼ぶ真希。
…この時気づくべきだった。
彼女の目が、とても真剣だったことに。
「あんたさ、過去に恋愛でなにかあったでしょ?」
「―っ!?」