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風花  作者:
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第二十四話




屋上に出たときに俺を出迎えたのは青い空だった。


風も吹いていなく、この時期にしては温かい陽気に、少しだけ気分が和らぐ。



周りを見渡しても、やはり人影はない。

それを確認した上で、俺は舞歌から教えてもらったあのスペースへ、ゆっくり向かう。


…思えばこれがいけなかったんだ。

屋上には人がいないのだからたまにはど真ん中にでも座ればよかったんだ。


そうすれば…



「あら。紡じゃない」



そうすれば、彼女に会うこともなかったのだから…






第二十四話






「真希…」



ここ数日、俺の専用席になっていたベンチには、昨日までとは違い先客がいた。

しかも、できるなら会いたくなかった人物が。



「ちゃんと私のこと覚えてたか。偉い偉い」

「…まあな」

「ところで、今日は一人なわけ?」

「……まあな」

「ふーん」



彼女が向ける、探るような視線に堪えられず、俺は顔を背ける。



この場から引き返すか?


そう本気で悩んだときに、再び声がかけられた。



「いつまで突っ立ってるの?座ったら?」



彼女の声に視線を戻すと、彼女は食事をすでに再開していた。ご丁寧に横にずれ、俺の座るスペースを確保した上で。



「いや、俺は…」

「いいから早く座って。そこに突っ立ってられると気が散るの」

「…ずいぶん勝手な物言いだな。誰もここで飯を食うだなんて…」

「お弁当片手に現れて、その言い訳は拙いわよ。それに、どうせ舞歌から逃げてきて、他に行くところもないんでしょ?」

「………」



答えられない。全てが真実だったから。



「早く座りなさい。昼休みなくなるわよ」

「…わかったよ」



結局俺は逆らえなかった。


渋々と頷き彼女の横へ座る。



…いつ彼女の口から舞歌の話題が飛び出すか、俺は気が気じゃなかった。


けど、彼女はいっこうに話しかけてくることなく淡々と食事を続けていて。


彼女の言葉じゃないけど、こうして警戒している間にも昼休みのリミットが近づいてくる。


このまま、警戒したまま食事もせずに、昼休みを終える。そんなマヌケな行為はしたくなかった。


ため息をつき、けど警戒はしたまま、俺は弁当の包みを開き食事を始める。



真希の方を見ず、正面を向いての食事。


今まで様々な彩りで輝いていた山々も、今はもう見る影もなく、寂しい表情を浮かべている。


ふと見上げた空。


上空は風が強いのか、雲の流れは速い。



「ねえ。紡」



そうやって空を眺めている時だった。真希が口を開いたのは。



「…なんだ?」



ついにきたか、そう思いながら、俺は視線を戻すことなく彼女に答える。



「その厚焼き卵もらっていい?」

「……は?」



マヌケな声をあげ、俺は真希の顔を見る。


たっぷりと間が開いたのは、想像していた内容と全く違っていたから。



「だから、その厚焼き卵ちょうだい」



冗談、そうも思ったのだが、真希の表情は真剣だった。



「…ま、いいけど」

「ありがとう」



俺が許可を出すと、真希は俺の弁当箱の中から厚焼き卵を掴み、口へと運ぶ。



「うん。美味しい。舞歌が言ってた通りね」

「………」



今度こそきたか。そう思って、俺は再び警戒を強めた。



しかし…



「で?紡はどれがいいの?」

「……は?」



俺の想像はまたもや裏切られる。



「だから、どれがいいの?」



そう言って、彼女は自分の弁当箱をこちらに向ける。



「…どういうことだ?」

「どうもこうも、あんたのおかず貰ったから、私のお弁当のおかず、あげるって言ってるの。ただ貰うって、私の主義じゃないのよね。Give&Takeじゃないと納得できないのよ」



早く取れ、と言わんばかりに弁当箱を俺に近づけてくる真希の行動に、俺は苦笑いを浮かべた。



「真希の性格、俺好きだぜ」



そう言いながら俺は真希の弁当箱の中から唐揚げを掴み口に運ぶ。


唐揚げはもちろん冷めていたのだけど、それでもとても美味しかった。



「それって告白?」

「んなわけねーだろ!!」



いきなり、にやりと笑ったかと思えばとんでもないことを口にする彼女。

そんな彼女に、俺は即座に突っ込みを入れる。



「わかってるわよ。そんなこと。ただの冗談よ」

「…お前って本当いい性格してるよ」

「褒め言葉として受け取っとくわ」



いけしゃあしゃあとそう言い切る真希。

その素敵な性格に、ため息がこぼれた。



――それを境に、再びなくなった会話。

二人とも、ただ黙々と弁当を口に運ぶ作業を繰り返す。


…どうにも俺は、居心地の悪さを感じていた。


やましいことがあるわけではないが、それでも沈黙が続くと、どうも気になってしまう。



「…なあ、真希。聞かないのか…?」



ついに堪えられなくなった俺は、自分から、そう言っていた。



彼女は俺と舞歌が不仲になっていることを知っている。


「舞歌から逃げてきた」


その彼女の台詞がそれを証明しているのだ。


知っていれば、絶対聞いてくると思った。少なくとも、俺が彼女の立場だったら聞いていた。

なにがあったのか、と。


だから俺は彼女とエンカウントした時に、後悔し、引き返そうと考えたんだ。


しかし、彼女からその話題があがることはなく。

逆に俺の方がそれを意識してしまい、口を開く始末だった。



「聞いてほしいの?紡は」

「いや…そういうわけじゃないけど…。気にならないのか?」

「気にならないわ」



即答。そのあまりの迷いのなさに、俺の方が戸惑ってしまう。


しかし――



「だって全部知ってるもの。静歌さんと舞歌から聞いて」

「―っ!?」



――その返答の意味を理解するのに、対して時間は、かからなかった。

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